老人専門医療の臨床指標とは
老人の専門医療を考える会
会長 齊 藤 正 身
老人医療の質の評価プロジェクト委員会
委員長 飯 田 達 能
1.老人専門医療の臨床指標の目的
老人の専門医療を考える会は、高い理想を持ち老人医療のあるべき姿を追い求めてきました。また、老人医療の現場で働く私たちも、患者さん一人ひとりにより良いサービスを提供しようと日々努力しています。しかし、私たちの努力は本当に患者さんの幸せに繋がっているのでしょうか。
一方、患者さんが医療機関を選ぶときに、自分が必要とするサービスの内容や質についての情報をどうやって手に入れれば良いのでしょうか。
こうした疑問に答えるためには、客観的な評価が必要になります。そこで、老人の専門医療を考える会では、私たちの提供しているサービスの質を客観的に示すために、「老人専門医療の臨床指標」を作りました。
医療の質は「医療の構造」、「医療の過程」、「医療の結果」の3つの要素で表されると言われています。これまでは、「医療の構造」を表す、病室の広さや人員配置に対する決まりはあっても、医療機関で行われている「医療の過程」や「医療の結果」についての評価はありませんでした。そこで、私たちは、医療機関でどのようなサービスが提供されているかを示す「医療の過程」と、私たちが日々提供しているサービスの結果すなわち「医療の結果」が分かるような指標を作ることを目指しました。
指標をつけるためには、客観的なデータが必要です。現場の皆さんは、初めはデータを集め整理することに苦労するかもしれません。しかしデータは、私たちがサービスを提供している患者さんの姿であり、私たちが提供しているサービスの姿でもあります。「老人専門医療の臨床指標」は私たち自身の姿を写す鏡です。患者さんを知り、私たち自身を知ることは、必ず老人医療の質の向上に繋がると老人の専門医療を考える会では考えています。
こうした目的のためには、指標が8項目では少なすぎると感じる方がいるかも知れません。しかし、負担が大きすぎると長続きせず、参加するのが難しい医療機関もあるかもしれません。この指標はこれで完成ではありません。患者さんの幸せに繋がると共に、現場で働く私たちのやりがいにも繋げるために、永遠に進歩していく「老人専門医療の臨床指標」にしていきたいと思います。
2.老人専門医療の臨床指標をつける前に
この指標では「医療の過程」を評価する上で、患者の評価が正しくなされているか、評価に基づく看護計画やケアプランなどの計画が立案されているか、そして計画がきちんと実施されているかを見ています。また、「医療の結果」では私たちの提供したサービスが患者さんに与えた影響を見ています。こうした点を意識して「老人専門医療の臨床指標」を使ってください。
指標をつけるにはいくつかの決まりがあります。また、慣れない言葉が出てきますので説明します。
- 調査対象 : 病棟ごとに調査を行ってください。
回復期リハビリテーション病棟は調査対象から除きます。
- 調査期間 : それぞれの項目ごとに指定された期間に分けて年4回行います。
- 評価や計画、実施した行為が診療録(医師の記録、看護記録、温度板など)に記載されている必要があります。
- 平日で連続する3日間 : 指定された月の連続する3日間であればいつでもかまいません。
例)1月5日、6日、7日でも良いですし、1月12日、13日、14日でもかまいません。1月5日、6日、8日では連続していないので、認められません。それぞれの病院で評価しやすい日を選んでください。ただし、自分たちの姿を正しく現すためには、普段の状態がわかる日を選ぶことが重要です。
- 延べ : 同一のものが何回も含まれていてもそれぞれを一回として数え、全て足してください。
例)1月1日に10人、1月2日に15人、1月3日に15人入院していた病棟の3日間の延べ入院患者数は40人と数えます。
例)3日間のうちAさんが2日間発熱、Bさんが1日発熱、他に発熱した患者がいない場合、その病棟で3日間のうち発熱した患者は延べ3人と数えます。
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=老人専門医医療の臨床指標 記入マニュアル= |
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(1)経口摂取支援率
[評価の目的]
口から食べることは、生きる意欲にも直結する私たちの生活の基本です。患者さんの口から食べたいという希望をかなえる取り組みを評価します。摂食嚥下機能障害を正しく評価した上で、計画を立て、治療やケアが実施されているかを確認します。
[評価の期間]
3ヶ月ごと。1月、4月、7月、10月の平日で連続する3日間。期間内において、どの連続する3日間を選んでも構いません。
[計算式]

[評価の基準]
- 摂食嚥下機能障害の患者とは、医師の診断もしくは言語聴覚士の評価を受け、摂食嚥下を目的とした治療やケアが必要であると判断された患者とします。
- 「摂食を目的とした治療やケア」とは、1の評価に基づき、看護計画やケアプランなどによる具体的な計画に基づく、言語聴覚士またはケアスタッフによる治療やケアを指します。直接訓練やアイスマッサージなどの間接訓練が含まれます。
- 口腔の清潔保持を目的としたブラッシングやうがいなどの口腔ケアは慢性期医療における基本的なケアに含まれると考え、今回調査する「摂食を目的としたケア」には含めません。
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(2)リハビリテーション実施率
[評価の目的]
病気や後遺症の治療、また廃用症候群の予防だけでなく、生きる意欲や生活の歓びに繋がるリハビリテーションを必要とする入院患者さんはたくさんいます。患者さんのニーズを評価した上で、計画的に実施されているリハビリテーションを評価します。
[評価の期間]
3ヶ月ごと。1月、4月、7月、10月の平日で連続する3日間。期間内において、どの連続する3日間を選んでも構いません。
[計算式]

[評価の基準]
- リハ専門職とは理学療法士、作業療法士、言語聴覚士を指します。
- リハビリテーションが必要な患者とは、医師やリハ専門職が、リハビリテーションが必要と判断した患者を指します。
- ここで言うリハビリテーションとは、リハ専門職が実施したものに限ります。医師の処方に基づいて単位をとって訓練を行った場合だけでなく、看護計画やケアプランなどに基づいて単位をとらずに行った行為も含みます。
- リハ専門職以外が行った行為は、リハビリテーションに含めません。
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(3)有熱回避率
[評価の目的]
慢性期の医療機関に入院中の患者さんは、肺炎や尿路感染症などの合併症を起こしやすい状態にあります。例えば、嚥下機能障害の患者さんでは、専門職による評価に基づき、口腔ケアや食事の工夫をし、離床を進めるなど、適切な医療とケアによりこれらの合併症を防ぐ必要があります。こうした取り組みの結果として、発熱せずに過ごせた患者さんを評価します。
[評価の期間]
3ヶ月ごと。1月、4月、7月、10月の平日で連続する3日間。期間内において、どの連続する3日間を選んでも構いません。
[計算式]

[評価の基準]
- この評価では37.5℃以上を発熱として定義します。1日のうちで1回でも37.5℃以上の発熱を認めた場合には、発熱に含めます。
- 連続する3日間の37.5℃以上の発熱延べ患者とは、3日間発熱が続いた患者ではありません。3日間のうちAさんが2日間発熱、Bさんが1日発熱、他に発熱した患者がいない場合、その病棟では3日間のうち発熱した患者が延べ3人と数えます。
- 入院中の医療とケアの質の評価が目的です。入院時に既に発熱していた患者は分母と分子から除いてください。
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(4)身体抑制回避率
[評価の目的]
医療行為を確実に行うため、転倒や異食、周囲への迷惑を防ぐためなどの理由で、身体抑制が行われる事があります。身体抑制は患者さんにとって身体的、精神的苦痛であるのはもちろん、患者さんの病状を悪化させる危険があります。身体抑制はきわめて限られた状況下で必要最小限のみ許される行為です。患者さんの尊厳を重視した取り組みの結果として、身体抑制をせずに医療とケアを行っている状況を評価します。
[評価の期間]
3ヶ月ごと。1月、4月、7月、10月の平日で連続する3日間。期間内において、どの連続する3日間を選んでも構いません。
[計算式]

[評価の基準]
- 身体抑制の基準は、介護保険での身体抑制に準じます。
- 連続する3日間の身体抑制をうけた延べ患者数とは、3日間身体抑制を続けた患者ではありません。3日間のうちAさんに2日間身体抑制を行い、Bさんに1日間身体抑制を行い、他に身体抑制を行った患者がいない場合、その病棟では3日間のうち身体抑制をうけた延べ患者数は3人と数えます。
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(5)新規褥瘡発生回避率
慢性期の医療機関には、褥瘡ができやすい状態の患者さんがたくさん入院しています。適切な評価に基づく治療やケアが行われた結果、褥瘡を予防できているかを評価します。
[評価の期間]
3ヶ月ごと、1月、4月、7月、10月の1ヶ月間。
[計算式]

[評価の基準]
- 褥瘡重症度分類を用いて評価してください。
- 評価測定の例:1月に新規に2度以上の褥瘡が発生した患者数と1月の1ヶ月間の1日平均在院患者数を数えてください。
- 1ヶ月間の1日平均在院患者数とは、「1ヶ月間の延べ入院患者数」割る「その月の日数」です。
例)1月の1ヶ月間の延べ入院患者数を医事課などで調べ、31で割り算します。
- 1人の患者に一度に複数箇所の褥瘡が新規に発生した場合は1人と数えます。
例)1月3日にAさんの仙骨部と右踵に褥瘡が発生した場合は、1人と数えます。
- 1人の患者さんに同じ月の別々の日に複数の褥瘡が発生した場合は2人と数えます。
例)1月3日にAさんの仙骨部に、1月15日に右踵に褥瘡が発生した場合は、2人と数えます。
- 一度治癒した後に、再発した場合は2人と数えます。
例)1月3日にAさんの仙骨部に褥瘡が発生。1月15日に治癒。1月20日にAさんの仙骨部に褥瘡が再発した場合は、2人と数えます。
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(6)転倒転落防止率
[評価の目的]
転倒や転落は入院中に起こる可能性が高い事故のひとつです。また骨折や頭部外傷などの危険があるだけでなく、患者さんの精神面にも大きな影響を与えます。患者さんの状態を評価し、危険を予測し、安全へ配慮することで、転倒や転落事故を減らす努力の結果、転倒や転落事故をどれだけ防げているかを評価します。
[評価の期間]
3ヶ月ごと、1月、4月、7月、10月の1ヶ月間
[計算式]

[評価の基準]
- @ 転倒転落とは、本人の意思ではなく床に足底以外の体の一部が触れた場合とします。
- A 1人の患者が複数回転倒転落した場合は、転倒転落した回数の合計を延べ患者数とします。
例)Aさんが1月2日に2回、1月7日に3回転倒した場合は、延べ5人と数えます。
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(7)退院前カンファレンス開催率
[評価の目的]
慢性期の患者さんには、退院した後も医療や介護を必要とされる方がたくさんいます。退院した後も、安心して自宅や施設での生活を送るための準備の一環として行われるカンファレンスを評価します。
[評価の期間]
1月1日〜3月31日、4月1日〜6月30日、
7月1日〜9月30日、10月1日〜12月31日
[計算式]

[評価の基準]
- 退院患者数から、死亡退院、療養目的以外の転院は除いてください。/li>
- 療養目的以外の転院とは、疾患治療目的の転院、検査目的の転院、胃瘻造設や気管切開口閉鎖などの処置目的の転院などです。
- 退院前カンファレンスには、患者の治療に当たる医療機関の医師を含む多職種による評価に基づく計画が反映されていること、医療機関と患者本人または家族との双方向の意思疎通が図れていること、医療機関と在宅部門の担当者または施設の担当者との双方向の意思疎通が図れていること、の3点が満たされている必要があります。
- 退院前カンファレンスには、患者の治療に当たる医療機関の職員2職種以上と、在宅部門の担当者または施設の担当者および、患者本人または家族が参加している必要があります。
- 検査や処置などを目的として慢性期の医療機関に短期間入院し、入院前と変わらない状況で退院する患者は、分母、分子ともに含む必要はありません。
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(8)安心感のある自宅退院率
[評価の目的]
入院中の治療やケアを、安心した在宅生活に繋げなければいけません。自宅に退院した後も、安心して生活をしているかを評価します。
[評価の期間]
1月1日〜3月31日、4月1日〜6月30日、
7月1日〜9月30日、10月1日〜12月31日
[計算式]

[評価の基準]
- 自宅退院とは病院や介護施設(介護療養型医療施設、介護老人保健施設)以外へ退院した場合を言います。自宅には、患者自身の家、家族の家、グループホーム、老人ホーム、特別養護老人ホームなどを含みます。
- 入院とは、自宅退院後1ヶ月以内に何らかの医療機関に1日でも入院した場合を指します。
但し、検査入院など予定入院は含みません。
- 入所とは、自宅退院後1ヶ月以内に介護療養型医療施設、介護老人保健施設に入所した場合を指します。ショートステイでの利用は含みません。
- 終末期医療を行う中で、自宅で最後の時を迎えることを目的に自宅退院し、自宅で死亡した患者は分母、分子ともに含めてください。また、終末期に少し自宅ですごす目的で、訪問看護などの在宅サービスを使うために、一旦「退院」扱いとし、再入院が前もって決まっていた場合は、分母、分子とも抜いてください。
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老人専門医療の臨床指標Q&A[PDF]
Quality Indicators for Geriatric Care (English)[PDF]
Manual for completing the Quality Indicators for Geriatric Care (2010)(English)[PDF]
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