こぼれ話

老人医療NEWS第96号

昔 と 今
総泉病院 名誉院長 野喜久雄

こぼれ話しより、こぼす話しが多いこの頃であります。その背景には、色々な保険がうまく働かないことや年金の問題もあるのでしょう。

先日、ケアマネさん五〇〇人を対象に講義を致しました。認知症検査の説明の時に認知症スケールの長谷川和夫先生と、映画俳優の長谷川一夫さんとは違いますと言ってもピンと来ない方が多くなりました。昔は桜井長一郎という物マネをやる方の「オノオノガタ ウチイリナノダ」という長谷川一夫さんの物マネがありましたと言っても、ますます座が白ける一方でありました。ご老人にかかわることが多いケアマネさんという職種では、古い事も知っていた方がコミュニケーションにも役立つということで、時代劇の二大スター市川右太衛門さん、片岡知恵蔵さんの話しをしてみますと、こちらも年々知っている人が少なくなってまいりました。市川右太衛門さんの『旗本退屈男』の話しをしてもはっきりしませんので、ドテラ(これもまた古い)のような厚着の着物を着て、ナイキのマークみたいな額の傷を旗本退屈男が「この額の傷を」と言っていたことを話しても全然ダメであります。

さらに、最近はソフトバンクの白犬の声は誰がやっているか知っていますかと質問します。北大路欣也さんです。これまた反応なし。一寸前の「華麗なる一族」というドラマに出ていたオジサンです。この人が市川右太衛門さんの子供なんですと言ってもピンと来ず、白犬は二匹いて大人しい方の犬は雄犬でカイちゃんといいます、などが今の人にはうけるようです。

古い事というより昔の事、なじみの事が心の不安を取るのに良いと考え、私が働いている病院には『思い出ミュージアム』という場所を作りました。昔の赤くて丸い郵便ポストや昔の写真館のウィンドウ(現在、町ではデジタルカメラ屋さんですね)が展示してあり、ゴミ箱も置いています。ゴミ箱には昔の写真を置いて、こんな具合に町角にありましたと説明をしております。

この中の人気展示物はミシンです。昔は女性の方々の強力なサポーターであったこの機械(ミシンという言葉はマシンからきています)は、今日コンピュータ入りのミシンと変化しております。しかし、かなり大きな昔のミシンが一寸前までは家にあったよと言う方もおられ、若干ほっとしております。

思い出ミュージアムのそばにはネコボード、犬ボード、赤ちゃんボードがあります。ベニヤ一枚にネコ、犬、赤ちゃんのシルエットをつけ、皆様のネコ、犬、赤ちゃんの写真を飾らせていただいています。ネコ、犬もミケ、タマ、ポチ、シロというイメージより外国産の種類が多いのが特徴です。しかし赤ちゃんは今までハーフの方や外国の方はおらず、皆日本人です。(個人情報の関係からお名前は載せておりません。)

車いすでボードの前に来て、ネコ派、イヌ派、赤ちゃん派に分かれ見ておられます。お家にいたタマやポチを思い出されているようです。

さて最近は一寸前から『KY』という言葉が流行っていますが、なにか一般的にはそぐわない響きの感じがします。しかし昔からモボ・モガという言葉がありました。私が子供の頃『MMK』という言葉がありました。MMKの意味は(るまこててもてても)です。正解はカッコの中を逆に読んで下さい。

浮世の流れでしょうか、新しいことは古くなり、そして消えていったりします。世の中の制度は古き良きことは残して、新しくとも悪しき事は無くしてもらいたく思います。昔は年金で生活できたという話しが古い古い話になってしまったようです。今年も、梅雨の季節になるまでの新緑を楽しみましょう。 (20/5)
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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE