こぼれ話

老人医療NEWS第95号

医療と介護の関係
嵯峨野病院 理事長 清水紘

介護保険制度が始まって満八年になろうとしている。二〇〇五年の改正では、「尊厳の保持」が明示された。『何を今さら?』という印象を受けたが、現場では見直さなければいけない状況も多々あるように思う。

介護保険制度は当初から在宅重視・認知症ケアにも重点を置いているが、当院の介護療養型医療施設への入院申込みの状況を見て驚いた。一般病院からの入院希望で、『とにかくお風呂に入れてほしい』と家族が強く望んでいるケースがあった。数年前から認知症があり、毎日通所介護を利用していたが、夜間トイレに行こうとして転倒。大腿骨頚部骨折で入院し手術を受けた。環境の変化から認知症は進行し、リハビリもうまく進まず、終日ベッド上での生活になってしまった。このような状態になった時、『食事』『入浴』『排泄』の三大介護が最も重要であるが、入院してから一度も入浴させてもらっていないらしい。家族が看護師にその理由を尋ねたところ、「認知症がきついのでうちの設備では入浴介助できない」と言われたという。重度の認知症があると入浴もさせてもらえないのか。QOLも何もあったものではない。

とはいえども、転倒による骨折や慢性疾患の急性増悪により、一般病院で適切な治療を受けることは当然である。認知症ケアにおいては、診療科を問わず、医療関係者全員が正しい知識を身に付ける必要がある。

在宅においては、主治医とケアマネジャーの連携が重要として、居宅療養管理指導を行った場合、医師は指導内容をケアマネジャーにも送付するようになった。ケアマネジャーに情報提供を行った場合は介護報酬上も評価する仕組みだが、ここでもなかなかうまくいっていない。

通院困難になった場合の医学管理について、居宅のケアマネジャーから相談を受けた。「主治医と連携しようと思った場合、医療機関から探さなければならない場合がある」という。がん末期の患者で経口摂取が全く出来ず、退院直前まで中心静脈栄養を行っていた状態で自宅に退院させ、退院後の医療について本人・家族と充分に話合いがされないまま、退院四日目に状態が急変し亡くなった事例である。入院中、主治医に退院後の医療についてケアマネジャーがいくら相談しても、医師は「救急車を呼んで連れてくればいい」というだけだったという。家族は、何も食べられない患者の介護に不安を持ち、ケアマネジャーに在宅診療してくれる医師を紹介してほしいと頼み、板ばさみ状態で悩んでいる、ということであった。

居場所は変わっても医療が継続して受けられるようにすることは医師の責任である。ケアマネジャーや他職種からみても、医療体制が充実していることは何事にも変えがたい大きな安心である。急性期病院の平均在院日数の短縮問題がなければ、このような悲劇もある程度は防げたかも知れないが、それにしてもひどい話である。

しかし、安心であるはずの医療が本人・家族の大きなストレスになる場合もある。それは、医師が、在宅においても入院と同じ水準の医療や介護体制を求めたり、他の患者・家族と比較して更なる介護を強要する場合である。当院の短期入所利用の家族が「在宅の先生から、愛情がないと言われた」と、大変ショックを受けておられた。要介護度五の父親を昼夜問わず介護し、疲れ果てているところに、医師からの一言で夜も眠れなくなったと訴えられた。医師は自分の発言について、その影響力の強さを自覚すべきである。

よりよいチームケアを実践していくためには、いま一度、各職種における専門性とその役割を振り返り、他職種にも理解してもらえるよう積極的に関る必要があるのではないだろうか。 (20/3)
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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE