こぼれ話

老人医療NEWS第94号

病は自分がつくったもの 病は自分がなおすもの
医療法人柴田病院 病院長 柴田高志

最近、『メタボリックシンドローム』という医学辞典にも出ていないカタカナ言葉が目につき、耳にする。この十年ほど、『生活習慣病』という言葉がようやく定着してきたと思っていたら、今度は『メタボリックシンドローム』だ。どうしてこんな言葉が出てきたのかよくわからないが、生活習慣病の一部のようである。以前は、『成人病』と呼ばれていたもので、成人病の行く先が老人病だといわれていた。成人病の多くは心身症だともいわれる。

現代の変化が激しい、スピードの速い世の中で生きていくには、いくら自分一人が気をつけても避けられないように思われる生活習慣病の中で、せめてメタボリックシンドロームだけでも避けてほしいということなのだろう。国からすれば、医療費の削減が目的だ。呼び方は生活習慣病でよいのではないかと思うが、健康のためには間違った生活習慣、とくに食生活を身に付けてしまった結果のメタボリックシンドローム、老人病は、いわば自分がつくったものである。

私自身、四十二歳の時、右の耳下腺癌になり、三度手術をうけた。振り返ってみると、当時、医療の乏しいある漁師町で、ゆりかごから墓場までの健康管理、健康増進のための施設・システムづくりに取り組んでいた。病院をつくった後、町づくりの仕上げに〇歳児から預かれる健康管理の行き届いた保育園と、高齢化地区の福祉のために特別養護老人ホームの建設に同時に取り掛かっていた。あとひと月で完成というとき、手術を受けなければならなくなった。思えば当時、一日二十四時間のところが四十八時間欲しいと思う程、忙しい毎日を送っていた。それがストレスになり、癌を呼び起こしたのだろうと思われる。まさに自分が癌をつくったようなものだ。

その夢も概ね達成でき、二十年間の地域医療福祉活動も施設も地元の方々にゆずり、次は高齢者の医療と福祉の谷間をうめるために、昭和五十五年に医療法人柴田病院を開設した。福祉、つまり、その人の日常生活の中の不自由さを支え、より安楽な明るい日々を送ってもらうこと、を基礎において、その上で医療を提供できる病院をめざした。

入院して一ヶ月二ヶ月、半年と過ごす病院は、医療を受ける場である以前に生活の場となっている。その日々の生活の中で、不満、不安、悲しみ、怒り、ねたみ等のマイナスの感情があるなら、病に打ち勝つための自然治癒力が弱ってしまう。同じ治療を施しても効果は得にくい。若い者は肺炎ではほとんど死なないが老人は死ぬことが多い。これは、老人の自然治癒力の問題である。

しかし、病院での看護・介護が充実していれば、日々を明るく前向きに、小さなものでも目的をもち、少しでも生きがいにつなげることで、プラスの心理状態になり自然治癒力を高めることができる。環境に負けず自らが前向きに考え、気力を強く持つことで病に勝つことができる。自分の生き方をかえ、自分の持つ自然治癒力を高める努力をすることが大切だと思う。

病気のときは勿論、健康なときから日々はっきりした目的をもち、その実現のために努力し、前向きに何物にもとらわれることなく、今日を大切に生きることを勧め、それを支えていく。より健康な、至福に満ちた生活を求めるような生き方を考えていく。そのような目的で私は、四、五千年の歴史をもち今でも各国で研究が進められているインドの伝承医学『アーユルヴェーダ(生命の科学)』を実践したいと今、努力している。アーユルヴェーダは、治療は勿論だが、より健康になるための生き方をきめ細かく教えている予防医学でもある。日々の生き方を変えることで、病を自分で治すことができる。医師はそのお手伝いをするだけだ。 (20/1)
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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE