老人医療NEWS第9号 |
老人保健法改正を経た昨年は、中医協での薬価算定ルールの見直し、国民医療総合対策本部の中間報告と痴呆性老人対策本部の報告の公表、老人保健施設の諸基凖の答申、国保懇での活発な議論等医療をめぐる様々な問題が提起された。特に、老人医療については、増嵩し続ける老人医療費問題を背景にして、支払い方式の見直しを含めて様々な提言がなされている。
これらの中で、今後の老人医療に大きな影響を及ぼすと考えられるいくつかの間題について触れてみたい。
第一に、老人保健施設の施設療養費及び施設療養に係る運営基準以外の諸基凖が明らかになったことである。老人保健施設は、家庭復帰をめざす施設として施設・設備・人員の面でリハビリテーションを重視した施設となっている。また、デイ・ケア施設の設置により在宅・地域ケア重視の施設となることが期待されている。
一方、老人病院に目を転じると、運動療法(T)の承認施設は22、運動療法(U)の場合は15(昭和61年8月現在)とリハビリテーションへの取組みは必ずしも十分とは言えない。老人病院が老人慢性疾患の専門病院としての機能を強化するためには、リハビリテーションの充実にどう取り組むかが重要であろう。更に、地域ケアの支援機能についても目を向けていく必要があろう。
第二は、諸外国に比べて極端に長い入院期間の問題である。これについては、特養等の施設体系の整備状況、住宅事情、在宅支援機能等の要因によるところが大きいとの意見が多く聞かれる。確かにこれらの要因が関与していることは事実であろう。しかし、これらの要因があるからと言って長期入院を容認しようとする傾向は厳にいましめられねばならないであろう。
地域の診療所や老人保健施設との連携、市町村の高齢者サービス調整チームの活用、訪問看護への取組み等により一日でも在院日数を短縮させる努力が必要である。各地の経験の交換と蓄積が望まれる。
第三は、望ましい老人医療ヘ一歩でも近づくことである。最初にあげたこととも関連するが、老人のリハビリテーションの体系はまだ確立しているとは言い難いし、投薬・注射偏重の医療の改善は必ずしも十分とは言えない。また、老人の検査値の判断基準についても、問題の指摘はあるものの、体系的な取り組みがなされているとは言い難い。
いずれの問題も一朝一夕に解決するものではないとは言え、老人医療に実績を持つ関係者の積極的な取組みとそれに基づく貴重な提言が望まれる。
老人医療の大きな潮流をつくっていくうえで克服すぺき課題は多い。我々行政も関係者と手をたずさえて最大限の努力を払う考えである。
折りたたむ...富士山麓の好自然環境
北村:今日はケースワーカーの皆さんで、御殿場高原病院の紹介になるようなことを話し合って下さい。まず私から簡単に説明致しますと、私たちの病院は富士山のふもと、海抜620mの高原の豊かな自然環境の中にあります。ベッド数は196床で、清水允熙院長の下に、約100名の職員が勤務しています。開設は9年前の昭和54年4月で、診療科目は内科です。内容は、開設当初から「呆けておられるお年寄り」を対象にしています。以上です。
山下:よく痴呆老人専門の病院とか施設の話が出ると、「今はまだ無い」とか「どこそこが一番古い」とか聞きますが、御殿場高原病院が一番古いのではないのですか。
北村:私もそうだと思います。
佐藤:なぜ世間にはっきりと公表しないのでしょうか。よく外で「痴呆老人専門の病院はまだ無い」などと言われますが、私たちのしていることを考えると、時々変な気持ちになりますよ。
吉永:そうですよね。ご家族で理解して下さっている方が多いから、それでいいのかもしれませんね。でもやっぱりハッキリしていた方がいいかな。
積極的に呆け治療と取組む
北村:ところで私は、病院創立当時から仕事をしていますが、最初の頃と現在とでは病院の雰囲気もずいぶんと変わってきましたよ。
佐藤:それを詳しく話して下さい。
北村:最初の頃は勤務の内科の先生が「呆けは病気ではないので診られない」と言って、患者さんを皆な退院させてしまうんですよ。でも後から後から呆けた方が入院して来られるんです。
佐藤:それでどうなりましたか。
北村:入院相談を受けて、その患者さんが入院となると、ワーカーが先生方に嫌われるんです。看護婦さんも呆けた方をどうしていいかわからないから、感情のはけぐちとしてワーカーを嫌う。お互いに意志の疎通がうまくいかない状態でした。
山下:院長はどうされましたか。
北村:それはお困りだったでしょうよ。周囲の先生方は「呆け老人なんて点数(収入)が上がらないから、経営的には得にならない。内科患者にすべきだ、腎臓の透析でもしたら・・・」などとおっしゃっているし、看護婦さんは看護婦さんで「仕事が大変だ、手がまわらない、人員が不足だ・・・」とばかり言ってましたよ。
山下:私の就職前のことですね。
北村:まだ世間では「呆けは冶らない」という考え方が一般的であり、すべてであったころです。そのあきらめの考え方のためかどうかは判りませんが、先生方、看護婦さんたちはきちんと責任を果たしていたにもかかわらず、患者さんはどんどん呆けるし、死亡率も高かったですね。
吉永:それでもあまりおかしいとは思わなかった時代だったんですね。
家族ぐるみで呆け退治
北村:そこで院長は一つの方針を打ち出されました。「呆けてしまわれて、死亡されるお年寄りの最後の仕事・役割は何か、その役割を果たさせてあげたい」ということです。呆けたお年寄りのために、身内の心がばらばらに離れるのではなく、その呆けたお年寄りを中心に子供たち・お孫さんたちが、仲良く、もう一度心を寄せ合うようにすること、これがそのお年寄りの役劃かもしれないという考え方をしたのです。そして私たちは、そのようにさせてあげるチャンス・根回しを、患者さんとご家族の方に対して、してあげることが大きな仕事なのではないかということです。そこで、患者さんを中心とする医師・看護婦・助手さんたちの構成では、治療・看護にご家旋が参加しづらいので、何かもう一つ専門の担当部門が必要ではないかゐ考えられたみたいです。
山下:そうですね。呆けたお年寄りをかかえられているご家族は、温る意味で心に傷が付いていられる提合が多いですからね。
北村:そうです。それで、ご家族の心の傷の看護担当者でもある職員が必要だという方針になったわけですね。その担当者をケースワーカーにしたようです。
吉永:それでケースワーカーが大勢になったのですね。
北村:ええ。でも最初は2つの困難な問題がありました。1つには、このような部門を担当するワーカーと院内の他の職員との意志の疎通です。もう1つは、新たに就職してくる若いワーカーには、仕事が難し過ぎて荷が重過ぎるということです。勉強、勉強で、実際仕事に残れるのは、5人に1人ぐらいの割合だったのです。まあそれでも、不勉強とか傲慢とか、仕事が合わないといったような看護婦さんやケースワーカーはやめていき、良い婦長さんが来てくれたりで、次第に職員の質も向上してきたようです。不思議なことですが、この頃から、入院した時より症状が良くなって退院される患者さんが増えてきたのです。死亡率も低下しました。
山下:「呆けたお年寄りでも回復(軽快)される方がいる。問題は我々の対処の仕方だ」という院長の考え方が実証されたわけですね。
早期対応と小集団治療
北村:色々なことがあって今日まで来たのですが、最近の私たちの方針は「呆け状態は早期に対処すれば、進行を遅らせたり、避けたりすることができる」ということですね。
山下:私は現在、院長が「早期対応。日常社会の中で、小集団の治療・看護が効果的」という考えを実践するために、御殿場高原病院の分院として開設した、19ベッドの「学園クリニック』 (東京・練馬区大泉学園町)に勤務しています。ここでの開院後」年間の統計を見ますと、呆け状態で入院された方の延べ90名中、死亡2名、症状悪化で御殿場高原病院へ転院10名、現在入院中15名、入院時より良くなり、御家族の方が喜んで下さって退院となった方が延べ60人もおられました。外来での効果はもっと大きいかも知れません。
吉永:やっぱり大病院化は、痴呆老人の治療・看護には合わないという結果が出ていますね。
北村:それでは佐藤さん、まとめに一言発言して下さい。
佐藤:はい。よく言われることに、お年寄りに優しくしなさい、思いやりを持って接しなさいということがありますが、それはとても難しいことです。私たちの行なっていることが、医療・看護の中でどれだけ役に立っているのかと考えると、とても気が遠くなります。でも、御殿場高原病院では皆なが頑張っています。私も負けずに一生懸命勉強しています。皆さん、一緒に頑張りましょう。
折りたたむ...老人医療の質の向上と、病院経営の安定化を目的とする研究会として、出発した「老人の専門医療を考える会」は、主に老人専門病院の管理者により構成されている。
老人保健法施行以後、行政サイドの動きは急激である。医療法改正、老人保健施設、慢性病院構想、リハビリ、老人医療の見直しと、矢継ぎ早とも言うべき改革に対し、我々も適切に、かつ早急に対応する必要が生じている。
当会は今まで、全国シンポジウムや、広報活動を通して、国民に対して、日々の実践の成果と、老人医療が抱えている諸問題を訴え、問い続けてきた。同時に、医療行政担当者達とも真剣な討議を重ねてきた。これらの努力の結果として、我々の実践の向上も含め、かつて老人病院全体につきまとっていた暗いイメージを取り除いていく事にも大きな役割を果しつつあると思われる。
また、我々は現行の医療費の出来高払い方式も高く評価しており、今日の公平な医療サービス「誰でも、どこでも、いつでも、同レベルの医療を受けられるシステム」を創り出したものは、この出来高払い方式による所が大きいと信じている。が一方、老人保健施設のスタートは、この方式の再検討に他ならない。出来高払いの問題点である「過剰診療」に対して、定額方式の「粗診粗療」という大問題が生ずる可能性がある我々は今、医療の大きな過渡期に直面している。それゆえ、時代の流れや、国民のニーズをできるだけ正礒に認識しなければならない。
今、老人医療の内容に関しての一定のガイドラインを、現場で実践している我々が作成するという事は、さまざまな意味で大変重大なことであり、また、使命であると思われる。なぜなら、老人医療は、特に、心身一体として考えなければならず、心、精神科的問題は、身体、内科的問題以上に個別性が強い。また、診療行為とは、そもそも医師、患者間の信頼関係を基本としており、医療内容を規格化する事は望ましい事ではない。ましてやその規格化が、行政主導の形で行われる事には断固として抵抗しなければならない。 以上のような理由から、今回の医師のワークショップは「老人医療の内容についてのガイドライン」という課題であった。以下、各セクションごとに、レポーターの報告を中心にプロダクトをまとめる。
1.第一セクション(第一日目)
新規入会会員も数名参加していたことから、それぞれの病院の歴史、規模、地域の差違、入院患者の特色等を含め、自己紹介をかねた相互理解から始まった。前述したようなガイドラインの作成の必要性と全体的な認識を深め、強い連滞感を持つに至った。
2.第ニセクション(第一日目)
ガイドライン作成にあたり、まず、患者と家族が老人病院に何を求めているか、という議論がなされた。患者は、快適で意義のある余生をできるだけ長く送りたいと思っている。一方、家族の要求はもう少し複雑で、患者の希望をかなえたいと思いつつも、精神的、肉体的、経済的な負把についてはできるだけ少いことを望んでいる。例えば、患者が家庭復帰を望んでいても、ADLが自律していなかったり、痴呆症状等のために家族の受け入れが困難で、やむを得ず老人病院に長期入院しているといったケースも多い。
そこで、老人病院ではこのよう肯背景をもった患者に対する医療はどのようにあるべきか、が討議された。 患者と家族は、ただ単に延命だけをめざした高度の医療よりも、心のこもった手厚い介護を求めている車が多い。しかし、組診粗療が許されるわけではない。このような慢性安定期の入院患者にとっての必要最小限の医療とは何か。一般的定期検査について以下の合意が得られた。
心電図:月に一回
胸部レントゲン:三ケ月に一回位
血液検査:月に一回
内容項目:生化学(総蛋白、アルブミン、総ビリルビン、GOT、GPT、Al−P、Ch−E、γ-GTP、LAP、総コレステロール、尿酸、BUN、クレアチニン、Na、K、Cl、CRP)、血算(白血球数、赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリット、血小板、血液像)
尿検査:月に一回、一般定性、沈査
3.第三セクション(第二日目)
慢性安定期の入院患者の治療、リハビリのガイドラインについての討議となったが、基本的な精神、理念についてのガイドラインであって、具体的な指針ではない。しかし、将来予想される医療費のまるめ等に対して、上限を考えるのではなく、下限を定める目的で考えていこうという合意の下で始まった。
老人医療は治療、看護、介護、老人の生活を同時に考えるべきであり、従って、人権の問題、QOLの維持と向上、自己決定の問題、人間としての尊厳を保っているか、苦痛が少いか、意欲の問題、等を常に考慮すべきである。この観点から、点滴の必要性(食事摂取の問題)、抑制の必要性、投薬の必要性、等の討議がなされた。この時、急性増悪時、ターミナルの問題も一部討議された。
リハビリについても、患者全員が対象となるべきであり、長期的、維持的なリハビリを主とし、リクリエーション療法、生活リハビリも重視すべきである、という合意に達した。(東京都・上川病院副院長 老人の専門医療を考える会事務局長)
看護の原点から老人を看る
―寝たきりをつくらない技術的精神的フォローアップを―
本多和代
人は皆「生まれて死に至るまで健康で充実した生きがいのある生活を送りたい」と願っている。しかしながら、加齢にともなう身体的・精神的機能の低下は、どうしても避けて通ることのできないものだ。その上、何らかの疾患にかかり入院となると上述の機能の低下により環境変化に順応できず、体調を整えるのに長い時間がかかる。このような特徴をふまえ、看護婦として老人看護はどうあるべきかを、今以上に考えていく必要があると思う。
ワークショップでの看護部門のテーマとまとめは次のようなものとなった。
第一日目
「老人看護におけるガイドラインの作成―技術面から―」
まず、自分が入院した時に安心してまかせられるか、という視点から看護を検討してみた。病院では治療中心で、点滴や処置が終わればあとはベッドで横になるというような単調な毎日で、刺激が少なく、精神(意欲)・身体の機能の低下を経て寝たきりとなってしまう。”看護婦としてこれだけはやろう”ということで重点目標「寝たきりをつくらない」をあげ、目標達成の為にどうすべきかを以下の三つの側面から検討した。
第二日目
「老人看護におけるガイドラインの作成―精神面から―」
精神科看護は、人の表面に現われる現象から心の動きを推察し、治療的に関わるものである。全ての看護は疾患を問わず、人を看護する点で共通性があり、熟練された技術、科学的に裏付けされた知識、豊かな人間性を持ち、常に前向きの姿勢で取り組むことが必要であると思う。
老人看護の最終目標は社会復掃にあり、その最短距離になる看護を目指したい。
最後に、看護部門は三グループに分かれ検討したが、個々のグループ結果が、紙面に表現されていない点を、お断りしておく。(御所市・秋津鴻池病院総婦長)
変容期の病院におけるMSWの役割
―自らのカで独自性の発揮を―
岩見太市
最近になって特に老人間題に関して医療・福祉・保健の三分野が各々バラバラに対応するのではなく、「ネットワークを組む」とか「統合する」とかが盛んに言われるようになってきた。そして、事実老人専門病院で個々の入院患者に接すると、その必要性を認めざるを得ない場面に絶えず出くわす。
ひとりの老人が入院を申込む背景には、純枠な医療的観点からだけではなく、家庭での介護者不在、経済的な問題、親子の関係、子供同士のトラブルなどさまざまな問題を内包しているケースがあまりにも多い。
そして、それらの調整を進めていく過程で、その処理には家庭内の問題として、或いは治療機関の立場だけで捉えるのではなく、地域や行政への働きかけも含めた多角的な対応で患者家庭のニードに応えなければ解決に結びつかないのが、むしろ当り前になっている。その壁の前に立ってMSWはどう対処するのか。諦めるか、家庭に押しつけるか、それとももう一歩踏み出すか・・・。
今回のワークショップに参加して、MSWが自らの存在感を認識し、老人専門病院での明確な役割が周囲から認知されるかどうかのポイントは、以上のような時の問題処理の方法にあるような気がする。
ワークショップでのMSWグループのテーマは「MSWの役割と技術」だったが、現実はそのテーマに取組む前段階の問題が山積みしている。MSWの組織的な位置は、事務、医事、医局と所属がバラバラで、その職務内容も付添婦の人事管理をしたり、医事をサポートしたり、雑務を担当したり、本来の業務とかけ離れたところでMSWが位置づけられている病院もかなり多い。最近、各病院でMSWを採用したり増員する傾向が目立ってきたが、そのような変革の時期にこそMSW自身が自らの果たすべき役割を明確にして、その必要性を実績で示し、あいまいな状況から脱皮する時期に来ていると思う。
老人専門病院でのさまざまな職種の内、MSWはどのような職務を担うべきなのか。変容を迫られている病院運営の中でこそ、MSWは認知される大きなチャンスが訪れている、と考えるべきではあるまいか。
自称MSWも現実はソーシャルワーカーではなくケースワーカーである場合があまりにも多く、また院内外に積極的に自らの存在感を働きかけずに、医療相談室に閉じこもって受身になっているワーカーがあまりにも多い。
前段階が長くなってしまったが、老人専門病院のMSWはどのような職務を共通認識として捉え、患者家族の多様なニードに応えるべきなのか。医療、看護、事務などの一般的な病院組織と同じレベルでの独自性はないのか・・・。
以上のような状況をお互いが認め合い、老人専門病院でのMSWが果たすべき役割は何なのか、がテーマになっていた。それが解決しないと、ガイドラインの作成作業には到底手がつけられない。
8名のメンバーが2日間で5時間足らずの荒っぽい議論の結果、何とかまとまったのが次の5つの役割である。
以上の1〜5までの役割を1つのタタキ台として老人の専門医療を去える会に医療福祉部会(仮称)をつくって、より深く発展的な議論を者詰め、老人専門病院でのMSWの融務を明確にし、ガイドライン作成への足がかりをつかみたいものだ。(札幌市・西円山病院医療福祉課長)
折りたたむ...老人の心身の機能障害は、心疾患等の内臓疾患、リウマチ等の運動器官の疾患等疾患別のリハビリ、寝たきり老人のリハビリ、痴呆のリハビリ等々、種類、程度とも多様である。合併症も多く、体力、適応力、修復力等にも個人差が大きい。
今回は脳卒中のリハビリを取り上げるが、老人病院においては急性期の症例に出会うことは比較的少ないと思われる。多くは「つくられた寝たきり」状態で送られてくる。そうした症例では予後の決定やゴールの設定はなかなか難しい。合併症の有無は勿論のこと、本人の意欲に大きく左右され、家庭環境から受ける影響もある。高齢者の中には、一般の古い常識から、脳卒中の発病は二度と起きられないのだというあきらめの気持ちになり、周囲の人間関係などもあって意欲をなくしている場合が多い。
そのため、まず一日も早く新しい環境に慣れ、医療スタッフとのよい人間関係をつくることからはじめていく。他の内科的疾患や四肢等の苦痛を取り除き、寝たきり状態のみじめさを知ってもらい、家庭環境の整備をも含め家庭復帰が可能であるという希望をもってもらう。そして、ADLの自律への意欲をもつように根気よく動機づけをすることに努める。この意欲回復にときには半年、一年とかかることもある。
初期のベッドサイドの訓練はまず全身の関節拘縮予防にはじまり、健側四肢の筋力維持増強につとめる。しかし、高齢者では患側の機能回復は多くは望めないため、必要なら早期に「利き手交換」に取り組むのがよい。作業療法、また状況によっては言語療法も早期からはじめたい。
訓練室での訓練が可能になった後も、ベッド上、病室内の生活動作の中にも積極的に訓練を取り入れ、少しでも座位で、また車椅子での時間を長くするよう気を配る(バランス訓練)。そのためにも病院生活にいろいろな変化をつけることが望ましい。
ゴールがみえたら早めに家の改造(手すり、スロープ等の設置、特に風呂・トイレ)等のアドバイスをして家庭復帰の準備を整える。これには三ケ月、半年とかかることがある。退院後の「生活リハビリ」プログラムの家族への徹底等、再入院防止への努力も必要だ。
いずれにしても、医師、PT、OTはもとよりナース、MSW等すべての医療スタッフの密接な連携と協力が求められる。
折りたたむ...昨年11月28、29日両日にわたり、神戸市・有馬グランドホテルにおいて老人の専門医療を考える会主催ワークショップが開催された。同会では、これまでにも医師、看護婦、リハビリスタッフにおいては数回のワークショップを重ねてきたが、今回はこれに医療福祉職、事務職を加えた五職種合同のワークショップとなった。
参加者は医師18名、看護婦(士)27名、リハビリスタッフ13名、医療福祉職8名、事務職6名、計72名であった。ワークショップグループは職種別に分かれ、各グループごとにガイドラインの作成へ向け、延べ5時間にわたり熱心な討議が繰り広げられた。
グループ討議の後、病院管理研究所・小山秀夫氏のコーディネートにより各グループの発表と全伏討議が行われた。本誌では2回にわたり、各職種からのレポートを掲載する。なお、ワークショップ開催にあたって、希望者により医療法人甲風会有馬温泉病院(本誌会員施設訪問I掲載予定)の見学会を行った。同病院からは、各方面にわたる多大のご協力をいただいた。紙面をかりて、厚く御礼を申し上げる。
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