老人医療NEWS第8号 |
昭和62年7月に発表された厚生省・国民医療総合対策本部の中間報告は、冒頭で「我が国は21世紀を控えて、社会経済情勢の変動の過程にあるが、わが国の医療が来るべき世紀に於てさらにより良く国民の要望に即したものとなるための努力が求められている」と医療の現状に問題があることを指摘した。
さらに「医療は、その国の社会・文化に根ざしているものであり、国民生活の基本に係わるものであることから、その改革は、医療関係者のみならず、広く国民一般の合意を得ながら、着実に一歩一歩改革を進めていく必要がある」と医療改革の進め方を、慎重にするがごとくに表している。
ところが実際は、「その改革は、医療関係者のみならず、広く国民一般の合意を得ながら」とは裏腹に、これからのすべての改革路線が決められていて、タイミングを計りながら矢継ぎ早に発表しているのではないかというくらい性急である。
老人医療の問題点では、入院日数の問題に触れ、「老人入院患者が毎年相当程度増加を続けており、入院期間が6カ月を超える長期入院患者か半数を占めるなど、長期入院の大半は老人である。また、その中には、在宅や老人ホームなどの受け入れ基盤に欠ける等の理由で入院している、いわゆる社会的入院も少なくない」とこれまでの厚生・福祉行政に欠陥があったことを認めながらも、それと同時に、老人の入院医療について改革を進める必要性を力説している。
ところが、入院期間は患者の年齢や疾患の状況、治療目的、病院の機能、地域の環境等で大きく違う。この医療の実態を明確にしないで、長期入院の問題や、社会的入院の問題を論議する事はできない。厚生省が医療における改革の手本にするのが、推察するところアメリカであり、イギリスであることは間違いない。ところが、「医療は、その国の社会・文化に根ざしているものであり、国民生活の基本に係わるもの」である。だから、手本とすべきは、現在のわが国で幾多の先駆的な試みや、情熱を傾けて努力している人や組織が実行している、より良き老人医療を参考に改革をすすめるべきで、ヨーロッパやアメリカではないと考える。
昨年、山口県医師会が山口県下の全病院の協力を得て、61年9月9日現在の全病院における全入院患者の実態調査を実施した。そこで私は、そのデータより高齢者の入院実態を分析し、併せて老人医療の問題点に考察を加え、イギリスのブライトンで開かれた”Aging Well”いわゆる老年学会に参加した。 欧米で7年を過ごし、この9月にも16日間ヨーロッパの老人医療の実態を視察した私の感想は「厚生省さん、イギリスやアメリカの真似だけはしないで下さい」ということである。
折りたたむ...地域密着型老人病院建設への取組み
津島市は、名古屋市の西方約20キロにある人口6万人弱の小さな町です。かつては伊勢・美濃・尾張への港町として、また全国に数千の末社を持ち、その数を西の八坂神社と競うという津島神社の町として、干年近い歴史を逆上ることの出来る市です。その繁栄した姿は、今も毎年7月の第4土曜日に催される日本三大川まつりの一つで、華麗なまきわら船が暗い水面を蕉がす「尾張津島天王まつり」に、しのぶことができます。
開業に向かって
私どもの医療法人三善会津島中央病院は、その津島市のほぼ中央にあり、現在ベッド数150床、医師・看護婦らを含めた職員数、100名程の病院で、開院6年目に入っています。私の父で院長の安江敏夫が、当時既に市内の別の場所で産婦人科を開業しておりましたが、この病院をつくるに当たって、「永年お世話になった地域社会へ恩返しするとしたら、わが国をこの繁栄に導くため苦労を重ね、いま”老人”とひと言で片付げられている人たちのための専門病院を設け、ここで心身とも癒してもらうのが最もよいのではないか」と考えたのがきっかけでした。そこで産婦人科は長男に託し、自分と、当時国立名古屋病院に勤務していた二男の私が医師として、病院事務は三男が担当するという役割分担で病院運営に乗り出すことになりました。それが去る昭和57年11月です。
暗中模索の中で
開業当初、ベッド数は70床でした。それでも「本当にこのベッドが埋まるだろうか」と心配しましたが、幸いにも3ケ月後には満床となりました。が、それと同時に老人看護に不慣れなため、職員一同、入院患者さんに振り回されっぱなしの毎日でした。意思の疎通がはかれない患者さんに困惑したり、問題行動、例えば痴呆患者の室内徘徊や弄便をどう処理し、どう対処すればよいのか悩んだり、離院傾向の患者さんが窓柵を乗り越えてバルコニーに出、今にも落ちそうになりナースが真っ青になって連れもどしたり、一寸の隙に病院から居なくなりみんなで付近を手分けして探したり、などの連続でした。さらに、転倒事故からの骨折や食事時の嚥下障害による窒息の危険等、一般病棟では考えられないような出来事が数限りなく、数ケ月間はまるで戦争の様な日を送りましたが、当時の事を思い出すと今でも感無量です。
地域に密着した活気ある老人医療の実現を巨指して
しかしそうした生活の中で、院長がめざす「心の通った医療」実現のため、私たちなりにさまざまな努力を重ねてきました。まず、病院を単に寝たきり老人を収容する施設ではなく、老人疾病の特性を踏まえた医療と看護を施す地域密着型の病院にすることを目標に置いた上、心の通った医療とは多分にケア面が最重点と思われるところから、職員全員に患者さんへの接し方・看護などについて徹底教育を図りました。特に「医療もサービス業」という自覚を持たせるため、常に患者さんの立場で医療およびそれに付帯する業務を逐行するよう指導して来ました。
こうしたことは単に上からの押し付けでは限界があることから、職員各自の自発性を呼び起こすため、毎月各人が目標を決め、これが予定通り行われているかどうか自らチェックする反省会も定期的に開いていまず。さらに病院の方針や考え方を知ってもらう目的で、看護婦長や各科主任を院内の幹部会議や各種研修会に参加させ、その内容や議題に対する感想・意見を発表してもらうなど、常に全職員の創意工夫と参加によって活気ある病院づくりを目ざしております。
このほか医療面ではその充実を図るため、名古屋大学の関連病院指定を受けたり、岐阜大学や国立病院からの協力も得て、医学の進歩に遅れず、患者さんに最先端の医療が提供できるよう心がけています。そして昨年4月からは35年間、津島市氏病院で地域医療に貢献された前院長の神谷美都夫先生を名誉院長としてお招きし、医療スタッフの長として診療にあたっていただくと同時に、若手医療陣の育成にも尽力していただいています。こうした努力は病院内にとどまらず、当院の目標とする地域に密着した病院となるため、在宅寝たきり老人への訪問診察や、在宅リハビリ推進のためPTを同伴したり、更には入浴サービス等も実施しています。
ニーズに応じたサービスを
最近、患者さんの大病院指向がふえている現状ではありますが、その一方で医療機関に対しサービスの多様化を求める患者さんの声も強くなりつつあります。そうした二ーズを受け、私どものような私的中小病院が今後生き残って行くには、大病院ではできない細やかな心の通ったサービスがどれだけ出来るかということしかないような気がします。
このため私どもでは、先に述べた医療とそれに付帯する業移の充実のほか、病院から家庭生活ヘスムーズに移行するための通過施設としての老人保健施設の必要性を感じ、設置計画を進めております。
「三善」の理念を守って
去る昭和59年病院を増床し医療法人化した際、その名を三善会としました。その「三菩」は、兄弟三人仲善く、患者さんには最善を尽くし、地域社会には一善でも多く奉仕せよ―という父の願いを表わしていると同時に、今後、私たち後継者が守るべき目標という意味も持っています。
この五年間、目の前の業務・診療に追われ、あっという間の日々でしたが、高齢化社会を迎え老人医療に対するニーズは増々高まっています。そのためにもこの三善を忘れず、患者さんとのコミュニケーションを一層よくし、周辺診療機関との連携を深めながら、プライマリ・ケアの推進と専門性を色濃くすることで、自他ともに満足のいく病院にするため努力を惜しまないつもりです。
折りたたむ...低血糖症状は神経系の症状が主であって、自律神経症状と中枢神経症状に大別されますが、個人差もありその症状は多彩です。
特に老年者においては好発する脳動脈硬化症、脳卒中、痴呆などの症状と見誤まることや、互いの症状が錯綜して見過すこともあるので注意が必要です。
初診にあたっては勿論のことですが、それ以上に前記のような疾病で加寮中に、しかも糖代謝障害の既住がなくインシュリン、経口血糖降下剤などが投与されていない場合は、先入感も手伝ってその鑑別は必ずしも容易ではありません。
低血糖を起すことで特徴的なインスリノーマは老年者においても決して稀ではないようです。一般に加齢と共に腫瘍の発生頻度は高くなりますので、種々の膵外性腫瘍も低血糖の因となりますし、内分泌機能障害、高度の肝機能障害も血糖低下を起します。その他原因疾患を特定し難い場合もあります。
そして老年者の場合、一旦低血糖におちいると遷延しやすく、脳細胞も障害されやすいので、速やかな診断治療ときめ細かなフォローが大切です。
当然のことながら血糖降下剤投与例においては、常に注意深い観察、管理を要します。腎機能の低下によって薬物が蓄積されやすいことや、薬剤、病態に対する理解の乏しさ、更には拒食など精神症状や問題行動全身状態の低下などによって食事摂取量が不規則、変動的となり、老年者は低血糖になりやすい傾向を持っているからです。血糖降下剤の投与にあたっては、一般より少な目にするなど充分に配慮しなけれぱなりません。また、多くの疾患を合併する老年者は多種類の薬剤を服用し勝ちです。その中には低血糖を生ぜしめる薬剤が含まれていることもありますので、この点にも留意しなければなりません。
老年者の診察にあたっては、常に低血糖の可能性を念頭におくべきだと思います。
折りたたむ...―明るい老人医療の目指して―
7月18日午後1時30分より午後5時まで、老人の専門医療を考える会主催第4回全国シンポジウム「どうする老人医療これからの老人病院(Part4)―明るい老人医療を日指して―」が、東京都新宿区にある年金基金センターセブンシティにおいて開催された。会場には、医療関係者を中心に300人余りが集まった。今回のシンポジウムは、老人の専門医療を考える会編集「明るい老人医療<老人専門病院機能評価表>」発行により、具体的に老人医療のあり方が提示されたことに伴い、老人医療に対する各方面からの率直な意見が打ち出されることとなった。
以下に第1部講演、第2部シンポジウムの概略を記す。
第1部講演
「これからの老人医療施策の展開」
荻島國男
6月26日に、国民医療総合対策本部より中間報告が提出されたので、その内容について説明したい。
国民医療総合対策本部の背景
高齢化社会に向かって給付と負担の均衡をはかるため、昭和50年代より、医療と年金の改革があいついで行われてきた。例えば、老人と若い人の負担の均衛をはかるため、老人医療の一部負担が導入された。また、医療保険制度間の負担のアンバランスを是正するために退職者医療制度等が制定された。このように制度上はとりあえず一応の区切りがみられた。今後は医療サービスの質と効率性を追求する新しい医療の改革へと向かうため、同本部が設置されることとなった。
もう一つの背景は、これまで医療費の適正化に関しては、レセプトの点検等の短期的対策が中心であったが、今後は中・長期的対策を考えていかなければならない。さらに、医療の質の向上と効率化をはかっていくために、短期的対策よりも中・長期的な医療全体の構造対策に重点を置く必要がでてきたためである。 そこで、中間報告でとりあげられた今後の医療改革の四テーマについて主に老人医療を中心に説明する。
老人医療の今後の在り方
老人医療については、入院期間の長期化等による著しい医療費の増大といった理由から、特にウェイトを置いている。しかし、これは老人医療を圧縮しようとするのではなく、老人医療そのものを原点から見直そう、という観点から考えている。
現在の医療は、老人への積極的医療が欠けていると言えるのではないか。老人の残存能力や日常生活能力を可能な限り維持し、回復させるため、新しい評価の基準としてADL等をとり入れていく必要があろう。
施設ケアについては、老人の症状、状態等に応じて、老人病院、老人保健施設、老人ホーム、ケア付き住宅等において対応できるような体系整備が必要である。
在宅ケアについては訪問看護の拡充が望まれるが、これまでは診療報酬上の評価が低いこと、訪問看護まで手がまわらないこと、訪問の距離が遠いこと、等からあまり実践されていないのが実状であった。そこで、訪問看護を専門に行う看護婦の養成を検討していく。また、在宅ケアでは、医療サービスと福祉サービスが組み合わされ、継続してそのサービスを受けられるようにする。
老人医療の見直しということでは老年医学に関する調査研究を推進し良質な老人医療についてのガイドラインづくりを進める。また、リハビリテーション(以下リハビリとする)については、マニュアルづくりなどによって目的に応じたあり方を考えていかねばならない。また、患者の継続的な病状管理が適正に行われるよう、退院患者に対する医療情報の提供システムも重要である。
長期入院の是正
入退院の管理が適正に行われるようにするため、各病院内に入退院判定委員会(仮称)を設置する。その構成メンバーは、病院内の医師、看護婦、その他の医療関係者とし、チームとして入退院の適否を判断し、長期入院の是正をはかる。
大学病院における医療と研修の見直し
大学病院における専門指向、検査指向の行き過ぎを是正し、医師として十分な診療技術の修得をはかるため、地域医療、老年医学、医療経済等を研修プログラムに加え、総合研修方式の普及を推進する。
患者サービス等の向上
医療法に基づく広告規制の緩和等を行い、情報提供機会の拡大を行うとともに、「インフォームド・コンセント(知らされた上での同意)」の提唱や、医療機関による医療サービスの指針の作成により、医療機関と患者の関係の見直しをはかる。
給食サービスの向上をはかるための診療報酬の見直しや、メニューに選択の幅をもたせることも検討していきたい。
今後の対応
以上述べてきたように、ガイドライン作り、リハビリのマニュアル作りなどを早急に行っていかねばならないが、医療の改革は行政だけでできるものではなく、医療関係者のみならず、広く国民一般の合意を得ながら進めていくものである。現場からの声を聞き、それを今後の医療行政に反映していきたいと考えている。(厚生省大臣官房政策課調査室室長)
第2部シンポジウム
「明るい老人医療の目指して」
司会:天本宏(老人の専門医療を考える会・会長)の進行により、四名のシンポジストの発表が行われた。
老人医療を評価する視点
藤崎清道
老人医療では、これまでさまざまな評価が行われてきたが、3つの立場からの評価が考えられる。
第一は、老人医療に関する制度を維持していく立場からである。ここでは、老人医療費の増による費用負担の問題等がでてくる。
第二は、医療関係者の立場からである。この立場からあげられるのは看護、介護、リハビリ等への診療報酬上の不満であろう。
第三は、患者の立場である。ここで問題としてあげられるのは、快適環境がないことと、医療内容への不満等である。
以上のようなそれぞれの立場からの問題があげられるが、結局は経済原則の要請と医療の質の確保との整合性を如何に実践していくかの問題にまとめられよう。ここでは、医療の質を確保する方策を次の三項目にまとめてみた。
一、老年医学
老年医学については学問的到達レベルが臨床家に充分普及していないという問題と、非定型的長期慢性疾患の病態の未解決をはじめとした学問上の未成熟さの問題とが存在する。医師の教育に関する取組みと老年医学の確立が必要とされている。
二、医療供給体制
特例許可老人病院、老人保健施設と機能の分化をはかってきたが、今後とも医療関係施設の機能の再編成を継続し適切な医療が提供できるようにしていく必要がある。
三、診療報酬
在宅ケアの促進、廃用症候群の発生予防等老人のADLを維持・向上させる行為の評価を高める必要がある。国民医療総合対策本部の中間報告でも、特に老人医療に重点が置かれている。老人医療への明るい兆しに他ならないと確信している。(厚生省老人保健部老人保健課)
老人保健旋設の与えるインパクト
矢内伸矢
4月より老人保健施設「伸寿苑」のモデル事業を始めた。この施設は南小倉病院という一般病院に併設されている。当院でのリハビリは、実生活に近いところで行うということで、訓練室には乗用車、電話ボックス等が設備され、調理実習もできるようになっている。
長期入院、社会的入院を防ぐために、院内にプロジェクトチームがある。患者も家族も3ケ月ぐらいまでは「帰りたい」「引き受けられる」状態にあるので、約3週間で在宅の方針を打ち出し、3ケ月を目途に退院の方向にもっていくようにする。このチームは、看護優先の立場から検討するようにしている。
以上、当院での取組みについて述べたが、老人ホーム、老人病院につぐ第三のメニューとして登場してきたのが老人保健施設ということであろう。医療看護と生活介護が複合され、新しい位置付けがなされたと言える。
また、老人保健施設がこれまでの施設と異なるところは、自由競争と原価意識が出てきたことである。多様化するニーズに応じられる魅力のある内容とする、すなわち質的なものへの需要から生れてきたと言えよう。
現代は、安くてよい品、自分の好む品を買う時代である。この社会のニーズ、流れに一体化するようなものを、医療・福祉としてもサービスとして提供できるようにしていかなければならない。まず、その第一歩を老人保健施設が踏み出したのである。(南小倉病院院長)
在宅ケアの現場からみた老人病院への期待
山崎摩耶
医療状況の変化により、病院への市民の要求も出せる時代となった。積極的に在宅ケアを望む家族も増えてきたが、その裏には老人医療への不安、不満もかなり含まれているのではないだろうか。
よく「在宅か施設か」と言われるが、二者択一ではなく、相互を行ったりきたりできるような環境が望ましい。「地域の路地は病院の廊下」と頑張っている病院もあるが、廊下であるなら往復できないと在宅ケアの受皿にはならない。老人や家族は、在宅で困難になったら病院へ、よくなったら在宅へ、という病院と地域の間の安心できる関係を望んでいる。
機能訓練についても同様である。日本の住宅構造上からも家庭での訓練は無理なことが多い。老人のリハビリの専門機関で、家庭と往復して機能訓練を受けられるようにしていただきたい。最後まで自分らしさを保ち、生き生きと動けて人生を終えられる、ということが大切だと思う。
老人医療の柱は「医療.看護・介護、リハビリ」と言われているが、看護、介護へのニードはかなり大きいと思われる。それに応えられる老人病院であってほしい。
また、在宅で頑張っておられる中にも、最後はどうしても医療機関の援助を必要とする場合も少なくない。そのような場合は、地域のミニ・ホスピス的に門戸を開いていただきたいし、家族も含めたターミナル・ケアをできるようにしてほしいと思う。
明るい老人医療のために、明るい在宅ケアを支えて病院機能を地域まで拡大するとともに、地域市民も参加して声を大きくしていかなければならない。国民医療総合対策本部の中間報告へも大きく期待している。(新宿区民健康センター・保健婦)
明るい老人医療の実現を目指して
柴田高志
倉敷市にある当院の現状を中心に老人医療に携わっている立場から述べさせていただく。
まず、当院の内容であるが、226床のうち約50%が脳循環障害、約20%が痴呆である。ADLの状況は、オムツをしている者が約40%、入浴介助を必要とする者が約70%、自立歩行できる者は約20%である。入院期間については、約30%は6ケ月以内であるが、半数は1年以上の長期入院となっている。
3階にある痴呆病棟には約70人が入院しているが、半数が長谷川式知能テストで痴呆と診断され、残りが準痴呆の患者である。ここには風船の間と名付けた40畳の畳敷の部屋を設げている。そこでは、自分で布団を敷いたり掃除をしたりと、なるべく家庭と同じリズムで生活できるようになっている。入院当初大声や興奮等の問題行動のある患者も、風船の間で大勢で一緒に生活していると一週間程でほとんどは治まるようだ。また、個々の生活史の中から経験のある作業に毎日取り組んでもらい、グループワークやレクリェーション療法をとり入れることで長谷川式知能テストでも点数が上がり、痴呆症状もかなり回復する者が多い。
入院患者には、一般病院で急性期がすぎADLの改善されないまま放置されて病状固定の状態になったために退院要請をうけ、転院してきた者が多い。その中にはリハビリへの恐怖すらもっておられる方がいるし、とにかく意欲、集中力が低下しているためリハビリへの動機づけが大変である。そのため、訓練室でのリハビリとともに、レクリエーションや日常生活の中で自然な形で身体を動かす機会をつくるよう工夫している。
老人の声なき声をどれだけ聞きとれ、日常の医療に反映できるかが、今後の老人医療を明るいものとする鍵であろう。(柴田病院院長)
折りたたむ...11月2日、老人保健審議会が開催され、本年5月以降、10回に渡って討議された老人保健施設部会の窓申案を承認し、公表した。
答申は、老人保健施設の諸基準について、おおむね厚生省案に添った内容である。施設基凖については、1室当たり4人以下、1人当たり床面積8平米とし、廊下幅は、中廊下で2.7m、片廊下で1.8m以上とし、機械訓練室、談話室、食堂、レクリエーション・ルーム、浴室などが必要であるとした。なお、病床転換の扱いについては、一人当たり6平米以上、廊下幅については、拡張困難な場合は既存のままという特例を経過的措置として認めた。
人員基準は、入所者100人につき、医師1人、看護婦8人、介護職員20人、相談指導員1人とし、PT、OT、栄養士については、配置が確保されていることが必要と判断した。さらに、運営基準については、入退所基凖および入退所のための協議が必要とし、適正な生活サービスの確保や市町村等との連携、協力病院等が必要とした。
費用については、今後、中央社会医療協議会で審議されることになるか、利用料の範囲などについて、行政当局の指導や配慮が必要とした。
これで老人保健施設の内容が明確となったが、細部については今後の通知に委ねられている。今後の議論の中心は、施設療養費ということになるが、診療報酬と同時公表ということで、来年5月までかかろう。
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