老人医療NEWS第10号 |
医療費との関連で、老年患者の長期入院が問題視されている。入院というのは社会からも、また家庭からも隔離されるわけで、患者はもとより医療人もそれを望んでいるわけではない。しかし、全国の医療機関における平均入院日数をみると、6カ月以上の長期入院か約半数以上を占めている。社会的要因の関与も少くなくないと思われるが、その医学的要因について少しく考えてみたい。
一般に、老年患者はいくつかの慢性疾患に罹患しており、その悪化、続発症の発症、新たな急性疾患の履患などの場合に、入院加療となると思われる。これらの病態を反映して、老年患者ではその転帰で全治がほとんど期待できない。筆者か前に勤めていた教育病院でのそれを調べてみると、全治はわずか1.1%で、軽快51.7%、不変29.3%、増悪・死亡12.4%、転医・転科5.5%である。約80%が軽快ないし不変となっていることからみて、それらの症例では、いつ入院治療から外来治療に変えるかの判断か医学的 に問題となろう。
学生教育の必要性から、その病院では診断および治療方針が決定し、急性期の治療が終了し、ある程度家庭での介護か可能ということになれば、退院ということを心掛けている。その結果、入院日数は20〜29日のものかもっとも多かったか、それでも三カ月以上の長期入院となる例が約10%に認められている。それらを分析してみると、長期入院例は呼吸器疾患、消化器疾患、脳神経疾患などが多かったが、前二者では癌などのために疾患が重症で、延命効果を期待しての治療により、また脳神経戻患では軽快をはかるためのリハビリテーションによって、それぞれ長期入院となっていた。
それとは別に、大学病院、リハビリ病院、老人病院などの退院患者を対象として、退院後家庭復帰が可能かどうかを決めている要因、について共同研究を進めたところ、病態の重症度と日常生活の障害程度、の二つが重要であることが明らかとなり、上述の成績をほぼ裏付ける知見が得られた。
老年患者では同時にいくつかの疾患に罹患していることが多いのみでなく、全身の各臓器・組織に老化現象か進行している。それらのこともあって、老年者では疾患の重症度と病態のそれとは、必らずしも一致していない。治療させることはできないが、退院となれば直ちに死の脅威となるであろうという病態も確かにあると思われるが、それらを含めて高齢者の病態については、なお今後の検討が必要であろう。
もう一つの長期入院の要因である日常生活能の低下は、脳血管障害や骨折などのような疾患にもとずく場合が多いと思われるが、その他いわゆる廃用症候群が原因となることもあると考えられる。これらを含めて、入院時ことに初期の積極的治療やリハビリテーションの重要性が、強調されねばなるまい。
折りたたむ...高齢化社会に対応する包括的医療を地域ぐるみで確立する
札幌市南区の国道230号線沿いにある愛全病院は昭和44年、北海道における高齢者医療を志向し、内科系病院として開設した。当時は、老人患者が各病院より疎外される状況下にあったため、老人患者に安らぎをあたえる意味で設立され、いわば医療と福祉の混合型であり、収容型病院としてのスタートであった。
その後、系列施設として50年には特別養護老人ホーム、さらに養護老人ホーム「静山荘」を開設し、医療と福祉を明確に分離した。58年には高齢者の病態生理学的な特殊性を考慮した検査棟を中心とした新病棟、62年には現代の老人医療には不可欠のリハビリ専門棟を新設し、次々に時代の要請に応えた体制を整えてきた。数年来より「病院機能の充実」を最重点課題として捉え、高齢者の特殊性に応じ内視鏡、超音波、RI診断(核医学検査)など身体に負担にならない検査を積極的に活用、専門的な治療につなげているほか、診療科を持たない婦人科、泌尿器科、外科などについても各科専門医や近隣の医師とタイアップするなどして総合的な対応が可能となる体制をとっている。このほか、病態別の病棟編成、ボケ(痴呆)の症状を持つ患者さんへの専門的対応等々、北海道における老人医療のパイオニアとして新しい課題にたえずチャレンジしている。
全人的なリハビリテーションへの取組み
リハビリ部門は62年に道内の特例許可老人病院としては初めてリハビリテーション施設認定医療機関となり(スタッフは理学療法士5名、作業療法士4名など)理学療法、作業療法、物理療法、言語療法、ADL(日常生活動作訓練)などを通し、機能回復を図り、1日でも早い社会、家庭への復帰に努めている。また、救急患者対応としてICU(救急集中治療室)も備え、幅広い疾患、病態にも対応できる体制を整えている。
老人デイ・ケアの開設
近年は、地域ケアとりわけ在宅療養の継続を支援する目的から訪問看護、デイ・ケアにもカを入れている。訪問看護は、入院待機、退院者のための在宅ケアをスタッフがチーム(看護婦、ソーシャルワーカー、リハビリスタッフ、栄養士など)を作り、幅広く活動を続けているものである。
さらに62年10月から開始した「老人デイ・ケア」。特例許可老人病院でこのサービスを始めているのは全国でも数える程(道内では第一号)しかないが、訪問看護と共に退院後のスムースな在宅療餐を可能するための二本柱に位置づけている。また、精神的ケアにも着目し"逆デイ・ケア"と呼ぶ「ふるさと訪問」も実施、患者さんから喜ばれている。これは、希望する入院患者を逆に家庭に半日がかりでスタッフが連れていく、というものである。この制度がスタートしたことで数年ぶりで「我家の風景」を見た、という人もいて、入院生活の励み、大げさに言えば「生きる励み」にもなっているようだ。
開かれた病院をめざし地域社会活動を展開
「地域社会活動」としては、地域健康教室の開催、医療相談、病院見学会の実施、さらにボランティア活動の、病院への導入などに取り組んでいる。特にボランティアは62年夏から受け入れ始めており、5グループ(63年1月現在)が参加している。患者さんの話し相手になったり、病院行事の手伝いなどが主な仕事だが、62年12月に開いた第1回病院祭ではボランティアの人たちが大活躍、ボランティア活動の一環として近くの小学生らによる吹奏楽演奏なども行われた。病院行事も新春ゲーム大会、遠足、クリスマス会など、まさに多種多彩といったところだ。
老人保健施設の開設に国庫補助
このような努力が認められて、昨年12月には、国の新しいケア施設である「老人保健施設」の開設に国庫補助が認められた。1.ヘルスリハビリテーション、2.在宅支援機能(デイ・ケア、ショートスティ、入浴サービス等)、3.精神的ケアサービスを前面に打ち出した施設運営(本年10月オープン予定)をめざし開設作業を進めている。
しっかりとした医療の基盤に立ちながら、幅広い地域社会活動を続ける愛全病院は、今後もさらに本道における老人医療のパイオニアとしての道を切り開いていく覚悟である。
折りたたむ...先年、フランク永井に高気圧酸素療法が試みられてから、この治療法の存在を知る人が多くなった。さらに、マイケル・ジャクソンが健康法にとり入れているとか、酸素バーが出来たりで、一般人の中に酸素がブームになっている。そのためか、患者やその家族からの要望もあり、老人医療に高気圧酸素療法を積極的にとり入れてみた。高気圧酸素寮法は一般の酸素療法とは異なり、血液中のHbが酸素によって飽和された後も、さらに酸素を生体内に供給することができ、その増量には限界がない利点がある。
この療法は化学療法と併用し、次のような治療に効果を挙げている。
どの患者も最初は大きな鉄のチャンバーに入る不安感を訴えるが、この治療法の効果と安全性を充分に説明し、チャンバー内にも音楽を流したり、絶えずチャンバー内との交信をとって、患者をリラックスさせるようにすると、2回目からは不安感もとれ、高気圧酸素療法の効果が自確できたこともあって、進んで治療に協力する患者がほとんどである。
多くの症例は加圧減圧に各々15分をかける。その間60分を2ATAにて高気圧酸素下に置く。症状の改善具合に応じて、これを1〜7回繰り返して行う。まだ症例は多くはないか、適応と認めた全ての症例に、有効または著効を示した。特に老人に多い麻痺性イレウス、脳血管障害、末梢動脈閉塞症には著効例が多かった。また、副作用は耳痛以外ほとんどなく、意識混濁者や心筋梗塞の患者にも、モニターを見ながら治療ができるため、有効性とともに安全性も確かである。
折りたたむ...前号に続き、昨年11月28、29日両日にわたり神戸市・有馬グランドホテルにおいて開催された老人の専門医療を考える会ワークショップより、リハビリテーションスタッフおよび事務部門からのレポートを掲載する。
老人へのリハビリテーション・アプローチ
―専門性の認識と具体的施行方法―
西沢滋和
リハビリテーション(以下リハビリと略す)グループでは「老人におけるリハビリのあり方とその意義」と「老人病院におけるリハビリのガイドライン」の二つのテーマにそって熱心な討議が交わされた。参加者の職種別構成は、PT6名、OT6名、ST1名であった。
第一日目のテーマ「老人におけるリハビリのあり方とその意議」では、概ね以下の通りに討議が進んだ。
第二日目は「老人病院におけるリハビリテーションのガイドライン」について討議された。以下に項目別にまとめてみる。
今後、過去に例を見ない急速に進む高齢化に向けて、機先を制する役割を「老人の専門医療を考える会」の使命として果していけることを願うものである。(多摩市・天本病院理学療法士)
よりよいサービスを求めて
村山英生
事務部門ワークショップは、今回のテーマである「病院機能の充実と合理化を図るには」「老人病院の行方と生残り戦略を考える」について五病院六人の仲間で討論を進めた。 以下にその内容を簡略に記すが、まとまりのないものとなってしまったことを前もってお許しいただきたい。
2月25日、厚生省より中央社会保険医療協議会へ、診療報酬の改定および老人保健施設における諸基準の設定等についての諮問書が提出された。
診療報酬の改定については、これまで当会が提言を行ってきた、退院時指導料の増点、訪問リハビリテーションの評価、重度痴呆患者の収容治療料およびデイ・ケアの評価等が含まれている。
老人保健施設については、本格的実施に向け、療養費の額と設備及び運営に関する基凖が示された。これで、いよいよスタートするわけである。
今回の老人診療報酬改定の趣旨は、「老人の心身の特性等を踏まえ、より良質かつ効率的な老人診療報酬の設定を推進する観点に立って、入院医療の適正化、在宅医療の促進等を図るものとする」となっており、より老人医療の専門性を求めた改定内容となっている。競合施設ともいえる老人保健施設との役割分担を明確にし、協力施設となることが望まれていると言えよう。具体的には4月1日から実施となるが、昭和63年度は老人医療にとっては、一つの節目を迎える年となりそうである。(詳細はPDF参照)
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