老人医療NEWS第80号 |
病院の機能別分類が進んでいる。療養病床を持つ病院は特定機能病院や一般急性期病院との連携により、重要な任務を果たしている。急性期病院での治療の後、適切な慢性期医療により回復した患者が在宅へと生還している。急性期病院の短縮化した平均在院日数のため、不完全治癒の状態で在宅復帰した高齢患者の予後の悪いことも多いという。良質の療養病床は、治療の流れの中では必要不可欠で重要な治療過程となっていることは、今後も療養病床の責務として心しなければならない。
急性期病院といっても、救命救急センターや地域支援病院のように法定の医師数ではてんてこ舞いをしている病院もあれば、一応急性期病院の顔はしていても
実態は外来も入院も老人ばかりの病院もあり、急性期病院と一口に言っても医師の業務量に大きな差が出てくる。
一方、療養病床は法定医師数が一般病院の約三分の一であるが、次第に重症化する高齢者を多く抱え、大変忙しい病院も多い。その一部は特殊疾患療養病棟や回復期リハビリテーション病棟のように病棟での医師の専任や専従が定められている制度もある。「いわゆる急性期病院」といわれるものより、むしろより高度の医療を行っている療養病床もあり、今後、患者の医療の必要度をめぐって病院の機能別分類が更に進まざるを得ないであろう。
それにしても私が委員長を仰せつかっている日本療養病床協会の食事と栄養委員会の調査によると、療養病床に入院する低栄養と褥瘡の患者の実に約七〇%が急性期病院からの持ち込みであるとの調査結果もあった。優良な療養病床では、それら低栄養と褥瘡を治療することで在宅復帰につなげているということからも、急性期病院の補完的機能が要求されていると考えられる。これは、急性期病院の医師にも低栄養に対する認識の低い医師のいることが要因として考えられる。もちろん療養病床の医師も認識の低い方も多く、それらからみても医師全体の低栄養に対する認識はまだまだ低いと言わざるを得ない。
また、急性期病院での重篤患者の死亡直前一週間の出来高治療費が医療費の増大を助長しているとの意見もあることから、回復不可能な状況の患者の治療を包括医療制度である療養病床に任せれば、多分何十分の一の費用で、しかるべき成果が出ることも期待される。
一方で、包括医療であるために症状の軽い患者を集めることに腐心しながら運営してきた療養病床も一部あるように聞くが、今後療養病床が地域に必要とされるためには、急性期病院の補完機能を十分に持ち、コメディカルを中心としたチーム医療という医療資源を整えた療養病床たることが求められている。行政も国民も病院機能別分類の谷間となっている重要な治療過程を十分担ってくれる療養病床の台頭を望んでいると確信している。我々に突きつけられた課題は重いものと自覚し、精進しなければならない。
折りたたむ...今年五月二日、北海道新聞の「介護に想う」というコーナーに二つの投書が掲載されており、その記事の切り抜きが院内に設置している、ご意見箱(投書箱)に入っていました。
恐らく当院を利用されているご家族かどなたかが、この記事を職員に読んでもらいたいとの想いで投函したのではないかと推測しております。
一例目は、老健の認知症棟に短期入所で利用した母親を迎えに行った時、担当看護師から自宅にいるときの母からは全く想像できない問題行動があったとの説明で衝撃を受け、さらに、その後の施設利用はやんわりと拒否され切ない気持ちになった。すぐケアマネジャーに相談して他の施設を利用したところ、そのような問題行動もなく今では満足している。母にも問題はあったと思うが、前の施設側に非は全くなかったのか。看護介護のプロである施設職員は高い知識や技術を持っているのではないか。家族や利用者に不安や悩み、苦しみを与えない介護を強く望みたい、という内容でした。
二例目は、ホームヘルパー利用者からの投書で、ベッドから車椅子に移動するとき、ヘルパーはズボンの後ろ側を下着ごと持ち上げるので局所に食い込む。介護する側にとっては腰を痛めない楽な介護方法かもしれないが利用者にとっては苦痛で嫌なもの、という内容でした。
当法人では今年一月、全事業所でISO9001の認証を受け、その活動の一つに全事業所から委員を選任し参加しているサービス委員会があります。この委員会では顧客満足度の向上を目指して、接遇や身だしなみの啓蒙、外部講師による講演会、アンケート調査など様々な活動を活発に行っており、このご意見箱もサービス委員会が事業所内の各所に設置し、管理しています。
今回の新聞記事投函に対しても委員会で協議を行い、記事の拡大コピーとともに病院及び老健の看護介護責任者や居宅介護支援事業所・ヘルパーステーションの責任者がそれぞれの立場からの感想を掲示しました。直接の反応は余りありませんでしたが、多くのご家族やお見舞いの方が読んでいる姿を見受けました。それ以上に多くの職員が真剣に読んでいる姿に驚くとともに、私たちが行っている仕事を一人一人が見つめなおし、患者さんやご家族がどのように感じているのかを考えてもらうよい機会になったと思っています。
アンケートの結果や投書に対する回答は基本的には患者さんやご家族に対してのメッセージですが、同時に職員に対してのメッセージでもあります。
顧客満足の調査や向上については多くの病院が取り組んでいるかと思いますが、患者さんやご家族からの本音の部分を如何に引き出し、どう改善に結びつけることができるかを、どの病院も悩み苦労されているのではないでしょうか。
当院のように長期に渡り患者さんやご家族とお付き合いをさせて頂く病院としては特に大切なことと考え、このサービス委員会の活動が活発に、そして長く継続するよう応援したいと思っております。
折りたたむ...本欄への執筆を仰せつかり何を書こうかと考えた挙句、利用者の皆さんに忌憚のない御意見を戴く御意見箱を題材にしようと考えた。
当院では平成三年六月から御意見箱を設置しており、いただいた御意見に当方の回答を付して、各病棟を始め院内に設置した掲示板に貼って公開している。
まずはそのQ&Aを過去にさかのぼってみてみようとしたが、あいにく、平成十三年六月以降のものしか残っていなかった。
そこでふと思い出したのが、平成七年八月に札幌市で行われた第三回介護力強化病院全国研究会において、当時の相談室のスタッフが発表した「御意見箱」である。
当時の発表原稿をみると、平成三年六月から平成七年八月までの五年三ヶ月の間に頂戴した御意見の分析であり、現存するものと奇しくもその期間が同じであったので、六年の歳月を隔ての意見内容・意見数の比較をすることとした。
意見内容による分類は前回調査に従い、クレーム・要望等については「看護・介護」、「食事」、「接遇」、「環境」、「利便性」、「その他」とした。
また暖かい評価や支援、励ましは適切な表現とは思わないが前回同様「感謝」とした。
前回調査時の病床数は二七〇床から三一〇床であった。今回は四一〇床と入院患者数が多くなっているのだが、意見総数は少なくなっている。
「看護・介護」は医療も含むが特に深刻なものはなく、件数は比率にすれば前回と殆んど変わらない。
「食事」は大幅に減少している。以前から同じ業者に委託しているが、給食委員会など、協調した対応が功を奏しているのであろう。
「接遇」は半減している。
「環境」は前回と今回の間に病棟の殆んどを新築したのだが前回より増えている。
においについてが五件、空調の寒い、暑いが三件、飾ってある花が枯れているが三件、(全館禁煙にしているが)便所でにおいがしたなど煙草に関して三件、感染症対策に関してが二件となっている。
「利便性」は院内表示が判りづらいなどだが大幅に減、「その他」に関しては入院生活における個別的要望や、記入した面会票を個人情報保護法の観点からきちんと処理するように等、大幅に増えている.
もっともこれらの増減については前回との間に分類の基準におけるズレがあるかもしれない。
ともあれクレーム・要望等は前回よりも減り、「感謝」は増加という結果を得た。
ところが本年十月から介護保険病棟において居住費・食費として利用者負担が大幅に増加する。
その分クレーム・要望が増加することも考えられ、減収と共のダブルパンチとなりかねない。
頭の痛いことである。
クレーム・要望等 |
感謝 |
計 |
|||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
看護・介護 |
食事 |
接遇 |
環境 |
利便性 |
その他 |
小計 |
|||
平成3年6月から平成7年8月まで | 21 |
29 |
18 |
17 |
21 |
5 |
111 |
22 |
133 |
平成13年6月から平成17年8月まで | 14 |
5 |
6 |
20 |
4 |
21 |
70 |
39 |
109 |
ドイツの公的介護保険が施行されて十周年をむかえた今年、どんなことになっているのか訪問してみた。
わが国では、ドイツの介護保険がお手本になったということで、いろいろと紹介されてきたが、介護ケアの水準という面では、最先端という状況にないと思う。また、強固な保険制度ということで、さすがビスマルクの社会保険の伝統といっても、保険財政あっての保険という考え方が定着しているということである。
ものの見方や考え方は、千差万別だが、ドイツという国から我々は多くのことを学んだ。学問も工業技術も優れているばかりか、医学、特に精神医療は、世界に大きく貢献した。
一九〇一年、フランクフルトの市立病院で医長を務めていたアイロス・アルツハイマーは、アウグステという婦人を診察した。それから九十三年後にロナルド・レーガン元大統領が自らがアルツハイマー病と公表して、友人に別れの手紙を書いた。今日では、世界中に三〜四千万人の患者がおり、大きな社会問題となっている。
ドイツの公的介護保険は、当初、この認知症に対する適切なケアに取り組まなかったし、リハビリテーションについても「効果がなくなった人々に対するサービスとしての介護ケア」を考えていたように思う。
このことは、認知症こそが大問題だと考えてきたわが国とは対象的である。先進国の中では、比較的同居率が高いわが国では、認知症の問題が、他の国々よりも身近な事実として受け取られるようになったともいえる。ただ、現時点では、認知症のケアに関しては、改善の余地があまりにも多いことは、各国とも共通している。
わが国の介護保険法が「認知症」という用語を決定したことは、それなりに意味があると思う。ただし、呼び方を変更したからといって、ケアが向上したり、まして問題が解決されたわけではない。認知症に対しては、グループ・ホームが有効だということで急増されたが、質がピンキリで、グループ・ホームだけで全ての認知症に対応できるものでもない。また、今回の改正で、認知症の予防ということがクローズアップされたが、効果を科学的に証明できるかどうかが大きな課題である。
さて、ドイツの認知症ケアの現場をみて、わが国との大きな差として老年精神科医の存在がある。ドイツのナーシング・ホームに非常勤でも老年精神科医が関与していることで、それ自体がケアの質の向上にどの程度影響を与えているのかはわからない。しかし、認知症かどうかの診断判定に関与していることは確かである。
医療制度も介護保険制度もドイツとわが国では差があるのは当然だが、認知症という診断に老年精神科医が必ず関与するということは、とても大切なことである。というのは、アルツハイマー病は脳の病気であり、医師なら誰でも診断できるわけではないからである。
認知症であるか、ほかの病気であるかといったことも問題だが、あまり軽々に認知症だと誤診されてしまうことによって、本人にも家族にも将来的に不利益をこうむることがあるからだ。
介護保険は、自立を支援し、予防を優先する使命があるが、認知症の診断ということについては、老年精神科医も老年科医も制度に組み込まれていない。それは、老年精神科医が少ないとか、老年科という科ですら、各医学部にあるわけではないといったことに関係している。
われわれは、だから老年専門医とか、老年精神科医の育成が必要だと考えてきたのである。次回の制度見直しまでに、再度提言したい。
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