老人医療NEWS第78号 |
少子化時代の始まりは人口減少も招いている。日本人の人口はここ一、二年でピークに達してその後は緩やかに減り続け、二〇五〇年頃には一億人を切るらしい。そうなると景気は更に減退し日本は沈没するだろう、というのが世間の大方の意見ではなかろうか。本当にそうなのかと思うが、「人口構成も逆ピラミッド型になり、働く人口より年金を受ける人口が増えて若者の負担は更に増え、年金のカットは当然のことになる」と、疑問に畳み掛けるように日曜日の時事放談の解説者が述べていた。ともかく人口減少は負のイメージで語られている。
しかし、そのような時には人は自己保存本能として公に頼れないと五感で感じ取ると、自分のDNAを持った子孫を多く創り将来を託する行動に出るのではないだろうか、とも思う。その証拠が大混乱の時代に誕生した団塊の世代の存在そのものである。だから、そんなに多くの人口減少は起きないのではないだろうかと思うが、現実では緩やかな人口減少に現場では悩まされている。
具体的には医療の現場では、介護職の若年層の獲得がかなり困難になっている。二月の国会答弁を聞いていると、企業の経営利益が回復しているので、その利益の一部を人に回すように、つまり給与を上げるように総理大臣が述べていた事実から分かるように、企業戦士の給与は上がる方向にあると思って間違いない。これからは減りつつある若年層という働き手を得るために、大きな企業と小さな我々の争奪戦が始まる予感がする。
今までは、看護師等が辞めても他の類似施設に転職しただけで地域から見れば全体の数は変わらなかったが、問題はまったく別の異業種が介護の担い手である人々に手を伸ばし始めることだ。そのことにより医療現場から工場などへと力のある若い人々が奪われる懸念がある。外国人の労働者の導入も検討されているようだが、工場等では有効であっても私どもの現場では疑問符を持って見ざるを得ない。痛い、かゆい、つらい等という表現の裏には感情が覆い被さっていて、その感情を汲み取り介護するのだから、日本語を母国語としない人が入ってきても戦力にはならない。
従い、緊急の課題として、若人に働き甲斐があり魅力ある職場作りが求められている。福利厚生の充実など各々工夫を凝らしているのも、その念頭には上述したようなことが発生するかも知れないと案ずる気持ちがあるからだ。しかし、旅行等を盛り込んだ福利厚生で、それで十分かといえばそうでもない。私どもの職場へ来る若人はむしろ、そんなことより精神性を求めている気がする。
人が人を看護、介護するにはこういった物より心の要素は大事なことであり、私どもは人としての精神性を高めたいと思っている若人の期待に答えねばならない。それは何かといえば、教育を受ける、ということであると思う。向上心を刺激する職場にしたいと考えている。
折りたたむ...近年医療界は変革の時代に入っている。かつては、病院が努力せずとも患者様は来院され、病床稼働率が高い時代もあった。しかし、病院、病床が増加し、日本経済が傾きはじめた頃から、患者様が自分で病院を選ぶ意識が高まり、病院の経営努力が不可欠となった。急性期病院では治療実績等のクリニカルインディケーター(CI)を公表するようになり、患者様から選ばれる病院作りに力を注いでいる。
一方、慢性期病院に対する患者様の目も自己負担額増加にともない、一層厳しくなることが予想される。今後、慢性期病院においても患者様に選ばれる病院になるための改革を自ら行っていかなければならないと考えている。
当院も慢性期を主体とする病院として、「医療の質向上」に取り組んでいる。
「医療の質向上」とは、(1)医療を提供する者の技術的要素、(2)医療を提供する者と患者様との相互信頼関係、(3)医療が提供される療養環境の適切さ(快適性と安全性)を改善し、向上させていくことだと考えている。
当院におけるCIは、診療のプロセスやアウトカムについて数値化し、目標値を定め、それが達成されているかどうかを評価するために活用している。つまり、過去のCIと比較し、何がどれだけ改善されたか、どのような問題点や課題があるのかを検討し、更に新しい目標を決めて医療の質の改善を図っていくためのものである。
慢性期病院でのCIは、診療やケアの改善を図りたい事柄のうち、データの測定や収集、把握が現場で容易にでき、評価が簡単なものを項目にすることが考えられる。例えば、褥瘡の入院中新規発症率、口腔清潔度改善率、転倒転落発生率などである。
実際に現場にCIを導入するに際しては、まず現状把握と業務改善による業務の軽減が必要であろう。例えば、従来は看護師の業務であった搬送、洗体、事務処理などを他の職種の仕事とし、看護師の看護業務時間の増加を図ることにより、看護密度を上げるようにするなどである。
また、職員を対象に実施した「医療の質に関するアンケート」の結果から、当院での問題点として、マンパワー不足、能力不足、チーム医療ができていない、医師のコミュニケーション不足などがあげられた。これらの結果をもとに診療部の改革にも現在、取り組んでいる。まずは医師の医療技術・知識の向上やコミュニケーション能力の向上を図ることを目標に、学会や研修会へ参加しやすい体制作り、回診の義務付け、行動指標遵守の評価などからはじめている。
今後、慢性期の病院においても気管切開やIVHなど急性期医療に近い技術が求められることが考えられよう。そこで、このような医療技術を忘れかけている医師を再教育する研修病院や研修機関の設置を病院団体に求めていきたい。
機能評価としては、慢性期病院の医療の質を確保するためにも、当老人の専門医療を考える会の老人病院機能評価マニュアルの活用が有効であると考えている。
折りたたむ...日々、高齢者の医療に携わっていて思う医療や医師像について考えてみます。
現実にはこのような理想的な医師はいないと思いますが、可能な限り近づきたいと願って日々勉強しています。
折りたたむ...厚生労働省の社会保険審議会医療保険部会は、来年の医療保険改革で柱となるといわれていた高齢者医療制度の導入について、本格的に議論を開始した。もともとこの問題については、いくつもの案が立案され、消えていった。今回の検討は、三度目で、計画では今年二月から検討を始めるはずであったが、三カ月遅れでスタートしたことになる。
今回の高齢者医療制度の基本方針では、現行の老人保健制度を廃止して、七十五歳以上の後期高齢者医療を別建ての独立制度にするもので、社会保険方式を維持することがすでに閣議決定されている。
制度改革のねらいは、後期高齢者に公費を重点化することにある。つまり、七十五歳以上に公費を集中し、前期高齢者については国保や被用者保険に加入し、現行の公費負担を結果として引き下げ、保険者間の負担の不均衡について制度間で調整しようとするものである。
今のところ健保連や日本経団連などの財界の主張は、年金制度などとの関連で「六十五歳以上」を対象とする独立保険とすることを求めており、厚労省案に反対している。
また、全国市長会は、基本的に現行制度下での財政調整方式を主張するとともに、本音では市町村が保険者となること自体に負担を感じており、これも完全に厚労省案に反対である。
だれがみても反対する制度案を厚労省がなぜ審議会にだしたのであろうか。それは、政府が「高齢者医療改革」を行うという決定をしているからである。しかし、どう考えてもまとまる案ではないだろう。
市町村が保険者である国保は、いわゆる老人医療無料化で財政危機に陥り、その反省から昭和五十七年に老健制度が発足したが、それ以降も人口の高齢化が伸展し、独立の保険制度としては維持することができず、五割程度の租税と、他の保険者からの財政調整という名の強制的支援によって、かろうじて制度を存続させている。
平成十二年に介護保険制度が施行され、四十歳以上の国民全てが保険料を支払い、集まった保険料と同額を租税から拠出して基金をつくり、利用者からも一割負担してもらうという仕組がスタートした。現行の国保や老健制度よりも介護保険制度はスッキリした制度で、保険料も市町村ごとに設定されているので、地域格差はそれぞれの市町村で解決する仕組となっている。
われわれ老人の専門医療を考える会としては、明確な対案があるわけでないので、高齢者医療改革に賛否を表明することはできない。高齢者医療の一翼を担うわれわれは、医療費の負担と給付に重大な関心があるのは当然であるが、単純な疑問として、『なぜ、高齢者医療の本質やサービスの質が議論されないのか』という強い疑問がある。
医療内容について、年齢による差別を行うことは、許されないことであるが、小児科医療とそれ以外の医療に差があることは、だれの目にも明らかであろう。これと同じように老年科にも、精神科にも専門性がある。このことがまったく考慮されずに、高齢者医療改革が進展するはずはないと考えられる。
老人の専門医療は、欧米の老年科と同じように、一般内科、老年精神科、リハビリテーション科を基盤とした医療であるが、チーム医療を基本とし、ターミナルケアや認知症に対する専門的対応を目的としているのである。
高齢者医療制度が独立することによって、その専門性が十分に認知されるのであれば、われわれも賛成しやすい。しかし、単なる財政対策で、各団体の利害対立のみが強調された高齢者不在の議論には反対だ。
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