老人医療NEWS第77号 |
昨年よりケアマネジャーの集まりのお世話をすることになり、勉強になっております。特に医療と福祉の両面から見ると考え方の違いがあり、若干そのすりあわせをお手伝いさせて頂いております。
かかりつけ医の意見書についてでありますが、行政から介護度を教えてもらえないのは愉快でないという医師サイドの意見があります。御本人や御家族に聞くとすぐ教えてくれるのであるが、書面で教えられないという紙が入っていて面白くないぞという御意見であります。これは御本人の判断力がはっきりしていない場合に起こる現象でしょう。
一方、かかりつけ医の診断書は公開せずというところへチェックされる医師もいるので、ケアプランを立てる時に困るというケアマネジャーサイドからのコメントもあります。個人情報保護法の点が絡んでいるとも思えませんが、どんな病気か、どんな薬を服用しているかを知ることが訪問看護師も含め医療情報は必要なのであり、ケアプラン作成の際に知りたいもののひとつでしょう。
またケアマネジャーが医師に状態を聞きに行くと、忙しい時に来られても困ると何時間も待たされる事もあるそうです。 医療事情を他に見せたくない何らかの理由があるなら、今後さらに検討すべきことと思います。
また、聞きに行ってもあまり教えてくれない、行きづらい、行きたくないというケアマネジャーのインプレッションも好ましいものではないので、医療と医師サイドとケアマネジャーとの集まりをやっていく必要もあるでしょう。
しかしここでもう一つ難関が出て参りました。ケアマネジャーがある病院へ電話をしたところ、入院患者さんの名前について問い合わせると「いる」、「いない」とも言えないと言われ認定調査も出来なくなってしまったとのことです。
よく検査時にはHIVの検査は慎重に行われていますが、入所のときの慣例でワ氏反応は同意せずにやっています。これについても、これからどう変わっていくのでしょうか。インフォームドコンセントはますます難しくなっていくようです。
医療機能評価にもありますが、病室のネームプレートやベッドのネームプレートの点も今回話題になってきています。
最近本院でネームプレートについてご要望を伺いました。ほとんどの方はネームプレートはつけたままで良いとの事でしたが、数名の方はつけない方を選ばれました。その理由はわかりませんが、家人の方にも色々とお考えがあるのでしょう。機会があらばどんな理由かをお聞きしたいとも思っておりますが、余計なことは聞くなと怒られるかもしれません。
但し、名前がはっきり言えない高齢者の方も多いので、安全管理上リストバンドは付けさせていただく事に致しました。
個人情報保護法も色々なところで絡んできており、ますます複雑になっていくかも知れません。
折りたたむ...在宅医療は介護保険導入を機に、訪問看護や、ホームヘルパー、デイサービス、ショートステイと急速に戦力がそろってきました。特に訪問看護とデイサービスの充実は目を見張るものがあります。ところが、在宅リハビリテーションは一人取り残された感があります。
では、現状の在宅リハビリテーションはどうなっているのでしょうか。
患者さんのニードはかなり多岐にわたっています。つまり、急性期から回復期、そして慢性期の患者さんまでさまざまな患者さんがいます。
たとえば、在宅で多発性脳梗塞による若干痴呆のある方が肺炎になったとします。診断的には血液検査もできますしポータブルのレントゲン撮影もできます。また治療的には抗生剤の点滴治療もできますが、早期離床が大原則の訪問リハビリテーションはこのような現場に入れないのです。このため下肢の廃用症候群になり寝たきりになるケースが後をたちません。この結果介護費用が発生します。
というのも在宅リハビリテーションの現状があまりすっきりしていない点にあります。
現実問題として在宅のリハビリテーションスタッフはあまり多くありません。そのため多くの在宅リハビリテーションスタッフが訪問看護ステーションの所属になり、やどかり活動をしています。(医療機関のリハビリテーションスタッフも理論上考えられますが現実的には活動は皆無です)
またリハビリテーションスタッフには訪問看護ステーションを有機的に活性化した特別訪問リハビリテーション指示も認められていません。
これでは今後急速に増える在宅リハビリテーション事情にこたえられません。
このような弊害をなくすために、できれば、訪問リハビリテーションステーションをサテライト展開できる制度改革があればよいと思われます。その場合、活動内容としては特別リハビリテーション指示書ができれば当面は何とかなります。
また長期的視野に立ちますと、リハビリテーションスタッフの充足が求められます。
現状で在宅リハビリテーションのニードは患者さん一〇〇〇人に対しておおむね三〇〇人前後です。在宅医療を受ける患者さんの三〇%は何らかのリハビリテーションの必要性があります。言い換えればおおむね要介護2以上の患者さんの三〇%といってもよいかもしれません。(在宅医療の場合癌のターミナルの患者さんや神経難病の方も含みますので単純にはいきませんが)
そもそも、現在のリハビリテーションスタッフ養成の基礎データは施設ケアをもとに算定されていて、在宅ケアにこれだけのニードがあることは考えられていませんでした。このようなことがわかっただけでも介護保険制度になってよかったと思われます。
今後、在宅リハビリテーションの現状をさらに明らかにする必要がありましょうが、在宅リハビリテーションの制度改革とリハビリテーションスタッフの養成は急務と言わざるを得ません。
折りたたむ...以下は、私が尊敬する一人で、世界にPOSを広めた心臓病学の大御所ウィリアムハースト先生の一文「良い教師の条件とは」であります。
[A]と(B)は、私が勝手に抜きました。例えばそこに、医師と患者、医師と看護師、親と子、夫と妻など種々入れてみても不思議に合うように思います。なぜなら、コミュニケーションスキルの基本とあるべき姿が凝縮されているからです。皆さんは、AとBにどんな言葉を入れるでしょうか。是非一度試してみて下さい。
介護保険改正法案が国会で順調に審議されている。いろいろな意見もあるのだろうが、この法律案の目的規定に「要介護状態となった高齢者等の尊厳の保持を明確化する」ことが盛り込まれていることを高く評価しておきたい。
我々、老年専門医が絶えず確認しなくてはならないのは、患者様の尊厳を決して冒してはならないということである。言葉としても重いが、このことを毎日のように確認することが老人の専門医療のスタートだと思う。要介護高齢者の尊厳が保持されていない状態を、我々は体験として知る立場にあるし、場合によっては人間にとって最も基本的な人権である尊厳を傷つけてしまう側になってしまうこともあり得る。
入院されてくる患者様のうち、怯えきった様子の方にお目にかかることは、決してまれなことではない。ご家庭や何らかの施設でひどい目に遭ったと想像せざるを得ないこともある。わが国では、老人虐待が大きな社会問題として取り上げられたのはつい最近のことである。家庭内暴力や児童虐待と比べても、取り組み自体低調である。
老人の尊厳が傷つけられたという事実を発見するのは、看護師であったり医師であったりする場合が多いが、よく考えてみると「見てみないふりをする」と批判されるかもしれない。我々はもっともっと老人の尊厳に対して敏感である必要があると思う。
さて、尊厳ということを考えるにつけ、リハビリテーションが名誉回復とか復権という意味であり、そこから社会復帰とか更正を意味するようになったことも忘れてはならない。要介護者の自立支援するための介護保険サービスという位置づけも要介護者の尊厳の保持と同じ様なニュアンスであると思うし、全てに万能ではないにしてもリハビリテーションが尊厳の保持に役立っていると理解したい。
今回の改正案では、介護予防という新しい考え方が提案されている。我々は、寝たきりや痴呆、あるいは廃用症候群やターミナルケアについて多くのことを主張してきたが、介護予防という発想は、あまり強くなかった。それは、なんとか質の高いケアを提供することばかり考えてきたので、要介護状態を予防するということに集中できなかったということでもある。
この意味で、今後一層研究して介護予防に関する活動を強化したいと思う。また、介護予防は、要介護状態に陥らない一次予防も大切だが、リハビリテーションも三次予防という考え方で取り組みたいと思う。
介護予防小規模多機能型居宅介護や介護予防認知症対応型共同生活介護というものが、どのようなものか理解できないが、前者が文字通り小規模で介護予防という観点からのケアが重視されるのであれば素晴らしい。また、後者が介護予防のためのグループホームなら新しい試みであろう。いろいろ考えてみても、結局は実践してみて成果を見守るよりしようがないと思う。
いずれにせよ、介護保険で提供するサービスは、介護予防とリハビリテーションを重視しなければならないということが新しい原則になって欲しい。特に、小規模な施設はよりきめこまやかなケアや家庭的雰囲気のサービスが可能であるが、外部から目が届きにくいとか、ひとり一人の職員の資質が直接ケアに影響するということもあるので、しっかりとした教育研修およびマネジメントが必要だと思う。
尊厳の保持という老人ケアの基本が再認識され、地域密着型介護予防サービス事業という新しい考え方が導入されることにより、老人の専門医療がもう一歩前進して欲しい。
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