老人医療NEWS第59号 |
三方一両損の思想で始まっている医療改革の姿は、次年度診療報酬改定で少しずつその輪郭を表し明確になりつつある。見える輪郭は「医療の対象の絞り込み」である。八十二万八千床の調査によれば「受け入れ条件が整えば退院可能か」との質問に、二十二%の約十八万床が「退院可能」と病院側が答えている。マスコミなどの報道を見ていても「医療の対象の絞り込み」の視点から、この約十八万床が標的であることにほぼ間違いはない。問題は何処へ持って行くかである。その答えは「適当な介護保険施設等へ移す」である。簡単な答えだ。
「適当な介護保険施設」については平成十三年十二月十日開催の第三回介護給付費分科会で既に提示されている「転換型老人保健施設」が該当するものと思える。介護療養型医療施設の残りのベッド数は五〜六万床しかないはずなので、十八万床から五〜六万床差し引いた数が「転換型老健」へと行く方程式が見て取れる。が、転換型老健の枠もそんなにないはずだ。あっても五〜六万床で、介護療養型、転換型老健ともに狭き門となった。同じ第三回の分科会で、資料として「転換型老健」のハード面が示されている。詳しくは厚労省のホームページを見ればよい。いずれにせよ、この流れに乗って既存病院の整理は進むものと思われる。
第二のテーマは、平成十四年二月六日に開催された第十七回中医協で示された「長期療養の入院基本料等の特定療養費化に伴う経過措置」だ。歓迎する部分として、医療の本質部分でない療養環境等に掛かる費用を公的保険で保障するのではなく、利用者の自己負担分で賄うという考えが入ってきたことにある。少子化に歯止めが掛からない現在、子の負担を減らすためには有効であろう。だが反面、長期入院の入院基本管理料は八十五%しか払わないから残りは特定療養費として頂きなさい、との仕組みも入っているので、このような仕組みの下で大雑把に計算してみると、病院の収入は患者一人あたり月平均四〜五万円ダウンすることになる。従い、勢い病院側は残りの十五%を利用者に求めることになり、結果、支払い可能な人しか病院は利用できないことになり、新たな火種になりそうだ。病院もそのためにはハード面の改善がなされていなければならない。でないと利用者は負担増を避けて他の類似施設へとシフトする。受け皿として五〜六万床の転換型老健が用意される予定だ。
このように考えてくると、介護報酬はどのようになるのか不透明感があるが、一応落ち着いて仕事が出来る環境にあるので、この一年に先を争って介護療養型へと参入してくることが予測される。問題はそのような「様子見」をしていた病院群が、老人でもやるかとか、老人しかできない、との認識で入ってこられることに警戒をせねばならないということにつきる。高齢者のケアの質を保つために老人の専門医療を考える会を立ち上げた頃を思い出し、新たな思考を提示する時期かもしれない。
折りたたむ...このところ医療保険対象療養病棟をどのように運営していくかが問われている。介護保険対象療養病棟、回復期リハビリテーション病棟、特殊疾患療養病棟、一般病棟への転換などが選択肢にあげられよう。この中で医療体系として異質な病棟は何かと言えば、やはり唯一出来高払いである一般病棟ではなかろうか。高齢者医療は、平成二年以来包括化医療が中心となり、それまでの点滴、投薬や検査重視の医療より、バランスのとれた、医療、看護、介護、リハビリテーションを中心とし、ターミナル時は、緩和的医療を重視する方向が志向されてきた。そしてこれらの方向が次第に定着し、高齢者医療に対する一定の信頼と評価がなされてきたと信じたい。ここでは一つの建物の中に一般病棟をもつ意味を考えてみたい。
一般病棟がある事のメリットは、
一般病棟を持つ病院に求められる条件は、
ところで、高齢者医療を担う私どもにとってターミナルケアはとても重要な役割である。一般病棟を持つ長期療養病院の療養病棟でターミナルケア期に入ってきた患者さんは、一般病棟に移っているのだろうか。もし移っているならば、何故移っているのだろうか。ターミナルに至った時こそ、慣れた病棟で長期間ケアしてきたスタッフが必要なのでは…と思う。一般病棟は一般病棟でみる意味のある患者さんが入るべきであり、間違ってもターミナルケア中心にみる病棟であってはならないと思う。そして前記、一般病棟であることのメリットであげた大半の事は、療養病棟でも既に行っていることである。また、同じ施設の中に、包括という療養病棟、介護病棟の思考過程と、出来高という一般病棟の思考過程が共存している事は、高齢者医療のあり方にあいまいさをもたらす可能性があるのではないかと考えているが、いかがであろうか。
折りたたむ...〈疥癬症の現状〉
高齢者の特殊な感染症として疥癬が、特に施設内集団感染の危険性があることも含め、近年問題となっています。厚生労働省も、介護施設における疥癬防止対策に国庫補助を行っています。
疥癬はヒゼンダニによって引き起こされ、以前は三十年周期で流行すると言われていましたが施設介護の広がりで、周期性が崩れ、また、施設の利用者と介護する職員に発症が増えています。
〈普通の疥癬とノルウェー疥癬〉
普通の疥癬では千匹程度の感染であり隔離は不要ですが、重症型のノルウェー疥癬では、百万から二百万匹も寄生し、きわめて感染力も強く、同室患者、看護・介護職員、さらにこれらの家族にまで二次三次感染の危険性があり、隔離が必要です。重症型は感染やステロイドの大量投与など免疫能が低下している方などに発症しやすく、腎不全等の併発を引き起こし、死に至ることもあります。
しかし普通の疥癬に対しても隔離を行ったり、施設を一時的に閉鎖までする例が見られます。このような過剰反応は不要ですが、免疫能が低下した老人が集団生活を送っている施設で集団発生した場合はノルウェー疥癬の可能性を考慮して対処すべきでしょう。
〈清潔の徹底〉
最近見られた注意しなければならないケースとして、リハビリ職員が感染の拡大を引き起こした事例が見られました。両前腕を疥癬症に感染、ステロイド軟膏の塗布で憎悪された患者を担当した理学療法士が、手洗い手技を患者様ごとに行うように厳密に行っていなかったため、訓練で多数の患者様にも疥癬を広げてしまいました。これは多くの施設でも起こりうる問題と思われ、当施設のリハビリ職員等でも手洗いの厳密さが不十分であることがわかり、改善を図っています。
〈爪疥癬〉
疥癬は一度罹ると再感染はまれだと言われていましたが、ガイドラインによると免疫は獲得できず、現実には再感染や完治せずに虫卵や虫体を体に持ち続けているケースも多く見られています。その部位として爪床が挙げられます。爪床内に罹患すると爪が白濁、増悪すると蛎殻様の爪の肥厚がみられ、爪白癬と区別できない状態、もしくは白癬との混合感染状態です。それらが宿主の状態によって活動を再開、全身に広がり再発します。
〈治療薬について〉
治療に用いられる薬剤でここ最近、話題になっている薬剤を二種紹介します。
塗布薬のペルメトリンは虫卵にまで効果が認められるのが特徴で、日本以外の国では医薬品として認められ一般的に使用されていますが、国内では医薬品としての承認はまだです。しかし、その効果や安全性のため、国内でも燻蒸式やスプレー式の殺虫剤として広く使われています。
内服薬のイベルメクチンは犬のフィラリアの予防薬として使われ、人間における疥癬に対しても一〜二回の服用で有効との報告があり、国内でも承認に向けて治験が進められています。
現在のところ、これらの薬剤を手に入れるためには以前のバイアグラのように海外からの輸入によるしかなく、個人では医師の処方箋、医療機関では薬監証明が必要であり、他の医師や、医療機関への薬剤の譲渡は不可で、原則、個々に輸入して頂くしかありません。もし入手を希望なさるときは、当院のホームページ(http://www.kyujinkai-mc.or.jp/)にも、輸入に必要な手続きや書類とそれらの記載方法等を載せておりますので参考になさってください。ともあれ国内における早急な承認が求められます。
折りたたむ...介護療養型医療施設と療養病床との関係については、平成十三年九月一日現在、療養病床等の総数は三十五万九千床で、うち介護保険適用は十一万九千床であり、残りが医療保険適用であった。
同年十二月十日に開催された第三回社会保障審議会介護給付費分科会では、入院医療の必要性が低い長期入院患者への対応案が示された。それに関連して、次期介護保険事業計画に盛り込む介護保険施設数の参酌標準の基本的考え方が明らかにされた。この案では、現行の「平成十六年度における六十五歳以上人口のおおむね三・四%」を「十九年度における六十五歳以上人口のおおむね三・二%」に引き下げる一方、新たに痴呆対応型共同生活介護等の利用者数の目標を〇・三%とし、合計では三・五%と、現行を〇・一%上回る数値が示された。
新しい目標数と現行計画数を比較すると、介護老人福祉施設は二万人近く増える一方で、介護療養型医療施設については、現在の十九万四千床を十三万八千床とし、差し引き五万六千床減少させることになる。これは、「療養病床等における長期入院患者のうち退院の可能性が高い者の数を勘案」するためであると説明されている。
また、分科会に事務当局から病院病床を転換し、老人保健施設を開設する「転換型老人保健施設」を特例で設けることを検討する案が示された。この提案は、(1)医療資源の有効活用と介護基盤整備促進を図る観点から、病院が既設の療養病床の転換により介護老人保健施設を開設する場合に、施設及び構造設備について一定期間の特例措置を設ける。(2)特例が受けられるのは、病院の既設の療養病床が病棟単位で病床転換を行う場合で、(3)人員基準・運営基準及び介護報酬については、現在の病院等併設の介護老人保健施設と同様とするというものである。
入院医療の必要性が低い六ヶ月以上の長期入院で退院の可能性が高い利用者については、介護老人福祉施設、介護老人保健施設、グループホーム等にて受け入れることとする一方で、医療保険適用の病床で入院期間が六ヶ月以上で入院医療の必要性が低い利用者に対しては、いわゆる病院のホテルコストを請求することになった。具体的な内容は、百八十日を超えて入院している患者に係る入院基本料の基本点数の八十五%を特定療養費として給付するというもの。ただし、(1)難病患者等入院診療加算を算定する患者、(2)悪性新生物に対する腫瘍用薬を投与している状態、(3)人工呼吸器を実施しているなど、患者の状態によっては対象から除外される。また、患者のたらい回しを防止する観点から、患者は退院証明書を発行してもらい、医療機関は患者の入院履歴を確認することが入院費用支払いの要件となる。なお、激変緩和のための給付率、対象入院期間については二年間の経過措置を設け、完全実施は十六年四月からとし、十五年三月までは九十五%が、それ以降十六年三月まで九十%が特定療養費として給付され、十六年四月から八十五%にする。
つまり、介護療養型医療施設の計画数を現在から差し引き五万六千床削減する。その代わり「転換型老人保健施設」の特例を新たに設け療養病床から五万床を転換させる。その一方で、医療保険適用の病床で入院期間が六ヶ月以上で入院医療の必要性が低い利用者に対しては、患者負担を強化するというものである。
このように医療保険適用と介護保険適用の療養病床の整合性確保は、一応の整理がなされたことになる。しかし、医療保険の七十歳未満一部負担三割への強化や、七十歳以上夫婦二人年収六百三十万円以上の二割負担、あるいは高額療養費の引き上げなどが、介護保険制度にどのような影響を与えるかが大問題であろう。
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