老人医療NEWS第53号 |
会員の皆様の御推挙により、今後2年間、会長の任に当たることになりましたので、引き続き御指導、御協力を賜わりますようお願い申し上げます。
さて、当会の結成の目的は、昭和50年代の後半、悪徳病院の代名詞のように云われていた老人病院の質の向上にありました。爾来17年余が経つことになりますが、当会の結成の目的はどこまで達成されたのでしょうか。行政への働きかけや、会員間の研鑽により、老人病院の内容は大きく変わったように思われます。特に平成2年4月から導入された介護力強化病院制度により、付き添い頼みの介護体制は大きく変わり、薬漬け、点滴付け、検査漬けに代表される過剰、濃厚診療もなくなりました。また、療養型病床群への誘導よりも空間も一気に広がり、さらに公的介護保険制度の発足に伴い、老人病院はその呼称すら変わろうとしています。
しかし、社会の老人病院に対する評価や期待が高まってきたかと云えば残念ながら答えはノーのように思われます。
何故なのでしょうか。理由は簡単です。需要があるのをいいことに制度の上にあぐらをかき、最低限の対応で事を済まそうとする病院が今以って余りにも多いからに他なりません。行政が示す基準なるものは、必要最小限の義務であって、病院が果たすべき役割でもなければ、ましてや達成すべき目標ではないにもかかわらずです。
当会の発足時からの理念は、社会の期待に応え社会に評価される『これぞ老人病院』といったものを作ることでした。では、当会の会員病院では、この目標はどの程度達成されたのでしょうか。周辺の病院とくらべて、あるいは周辺の老人施設とくらべて、ダントツに光り輝き、社会の支持を得ているところはいくつあるのでしょうか。
当会の会員病院や診療所は、もう一度原点に立ち返り、次の点をチェックしてみるべきように思われます。その第1は同じ様な状態の高齢者を扱いながら、一般病院とは全く違う成果を出していること、第2は医療機能を兼ね備えていることで、他の高齢者施設とは明らかな違いがあり、かつそれが利用者の満足度向上に結びついていることであります。
もしこの役割を十分果していない所があるとすれば、すぐなすべきことは、かなり簡単なように見えます。つまり、自分の親を託す、あるいは自分の身を託すとしたら何をどうして欲しいか、何をして欲しくないかだけを考えて内部の改革に取り組むことです。
確かにそのような思いがあったとしても各種の制約下で『出来ない理由』や『やらない理由』はいくらでもあることでしょう。しかし、当会に参加するということは、自分達の責任において、各種の取り組みを行い、社会のシステムとしての良き高齢者施設の重要性、必要性を自ら訴え、あるいはその成果を享受した利用者に訴えてもらうことにあるのではないでしょうか。
折りたたむ...第4次医療法の改正が3月1日より施行されました。今回の改正のなかで、病床区分の変更や広告規制の緩和などについては多くの方がコメントをされています。
しかし、もう1つのポイントである『臨床研修の必修化』については実施が16年4月と先のこともあり、あまり述べられていません。
この点について少し述べさせていただきます。
今回、医療従事者の資質の向上を目標として、医療法が改正され、@医師は2年以上、歯科医師は1年以上の臨床研修が必修とされ、A研修中は臨床研修に専念することも義務づけています。B研修修了を登録制とし、C病院・診療所の管理者は研修の修了が必須要件となり、未修了者には診療所の開設も制限される様子です。
現在の国家試験合格者(年間16000人)のうち約85パーセントが臨床研修を受けていますが、現状の研修期間、内容、方法などプログラムは多種多様であり、今回の改正による実施体制の全国的な整備は大きな課題と思われます。
研修内容の詳細はまだ公表されていませんが、研修プログラムには、内科系、外科系双方は必修で、さらに救急医療等も研修できるように盛り込むこととされています。
これはかなり高いハードルで、独自で研修プログラムを作成できる大規模な病院は単独で研修指定病院となれるでしょうが、私どものような中小規模の病院では単独で指定を受けることは到底不可能です。その点を考慮して『病院群』や『研修施設群』としての研修も行われる予定です。そのため、例えば徳島大学では『徳島大学関連病院会』の会員病院を中心に、複数の病院で研修施設群を形成し登録(全県下を3〜4病院群に分割)、研修を担っていく方法を検討しています。私どもの施設もその病院群の中で『長期療養』と『リハビリテーション』の研修の担当としての指定を受けられるよう目指しています。
また、研修中は、研修に専念することが義務づけられているため、研修指定病院に研修医が専属するような形となり、研修未指定病院には卒後2年以内の医師が非常勤や当直として勤務しなくなる可能性もあり、地域の医療供給体制にも大きく影響します。そのため、中小病院であっても、何らかの形で研修指定病院(群)となることが必要です。まだ具体的な動きの出ていない所が多いようですが、今後の地域の大学の動向に気をつけてください。
まだまだ多くの課題があり、複数の病院で分担する場合、研修先毎による給与差の問題や2年間に内科系、外科系、救急等の研修先をローテーションするため、2〜3ヶ月ごとに研修先を移動する形となり、研修を受けている側も指導側も共にかなり負担も大きく、また研修先について研修医の選択となるため、分担制であっても質の高いプログラムや指導医の質の確保も大変な課題となります。
今後、研修の方法や内容についても順次公表されますので、その点についても気をつけてください。
折りたたむ...5年間に渡る米国での臨床研修を終えて4年3ヶ月ぶりに日本に帰国したのは平成12年7月2日のことでした。その後、鶴巻温泉病院にて勤務し、老人医療を行っています。
日米の医療現場で実際に患者を診てきて一番に感じる違いは、医療現場で何に主体がおかれているかということでした。その違いとは、日本では医師が患者そして他の医療スタッフに対して圧倒的に優位な立場に立って、ほとんどの場合、医師の独断で現場が動いているのに対して、米国ではチームで医療を行い、患者にいかによい医療サービスを提供できるかということに主体がおかれているという点でした。
老人医療においても何ら変わりはなく、その一つが老人医療における包括的な診断並びに治療であると思われます。アメリカではよく“comprehensive geriatric assessment”あるいは“geriatric evaluation and management”などと呼ばれています。これはどのようなものかといいますと、外来、入院、あるいは在宅医療において医師だけで患者の治療を行うのではなく、看護婦(士)、ソーシャルワーカー、理学療法士、作業療法士、言語療法士、薬剤師、あるいは栄養士などがチームになり、患者の疾患に対する治療のみならず社会的経済的背景も含めた点より医療サービスを提供していくというものです。
このようなサービスを受ける患者の多くは身体的あるいは精神的に脆弱になっている老人です。そのような脆弱な患者に対していかに良い生活の質(qualityoflife)を獲得してもらえるようどのような医療サービスを活用するのがよいのかを検討していくことになります。この際、チームで考えるのは、患者にある種の医療サービスを提供すればこのように患者の治療効果(outcome)を変えられるということが中心になります。逆に言えば“outcome”を変えられない医療サービスは無駄な医療とみなされ、実施してはいけないということになります。これは処方される薬の1つ1つについてまで検討されます。
例えば、老人医療(geriatric medicine)の専門外来に紹介されてくる患者を診る場合、先にも述べましたようなチームが問診、診察を行いその場でその患者さんの治療方針が疾患から見た医療ばかりでなく、社会的、そして介護の面からも検討されることになります。そこには当然のことのように医療費に対する検討も加えられます。そこで、患者、家族がその病気、病態を理解した上で最も自分達の希望に沿っていると思う医療サービスを受けられるように医療従事者は努力を重ねていくことになります。
このようにして外来で初診の患者さんを診るには少なくとも1人あたり数時間かけることになります。その結果はディクテーションされタイプされた後に必ず紹介医のもとへ送られることになります。そうしてプライマリーケアードクターと専門医の間に患者のケアに対するずれが生じないようになっています。米国では多くの臨床研究の結果からこのようなアプローチにより老人に特有な疾患、病態のみならず生活の質、医療費の抑制そして生命予後までも改善されることがあるという“evidence”が残されています。
昨今の日本の医療現場を取り巻く社会的な環境をみていますと、患者あるいは家族からの医療に対する要求は急激に変化しているように思えます。そのような要求に答えられない医療現場は今後淘汰されていく時期に日本も入ってきていると思われます。これかの老人医療を考える上で大切なのはそのような要求に答えられるよう医療現場の教育を含めた改革を行い、患者そして家族が医療の中心におかれるようなシステムを構築していくことが急務であるように思えます。
折りたたむ...介護保険制度についてとやかく言う時期ではないことはわかっているが、老人の専門医療という立場から、デイケアの医療保険適用が必要であることを主張したい。
介護保険制度によって、老人デイケアは全て介護保険適用ということになった。確かに、介護保険でデイケアを給付することは、有効な手段ではあるが、病院や診療所の行うデイケアに一切、医療保険が適用されていないのは、むしろ不自然だと言わざるをえない。
デイケアの歴史を知っている人であれば、デイケアが長期入院を是正したり、患者さんのQOLを向上するという効果があることを十分に理解していると思う。問題は、要介護や要支援とならない人に対しても、ごくまれではあるがデイケアが有効な場合もあることで、介護保険以外でデイケアを給付しないということを、何とか改善したいのである。
老人の専門医療を推進させる同志として、デイケアの質の向上にこれまで努力してきたし、何とか医療保険でデイケアができないかと考えるのは、自然なことである。
介護保険のデイケアに対し、医療保険のデイケアは、リハビリテーション目的により、リハビリテーション職員の複数配置や3対1の配置基準でもよいと考える。また、施設基準は別にして、スペースを十分に取ってよい。なぜ、医療保険が必要かということについては、介護認定外の利用者の対応やリハビリテーション職員の積極的配置という理由意外に治療過程上の問題がある。
急性期病院から老人専門病院に転院してくる患者さんに対し、デイケアを直ちに利用することで、家庭復帰を可能とする患者さんは少なくない。しかし、デイケアが介護保険だけに適用となっているため、要介護認定を受けなければデイケアを開始できない。このことが、家庭復帰を遅らせて、長期入院につながるのであれば、何のためのリハビリテーションであろうか。
医療保険のデイケアへの参入ハードルを高く設定してもよいから、次の診療報酬改定では、リハビリテーション医療や老年医学の必要性に応じてデイケアを医療保険適用にすべきであると考える。対象者も限定的になるかもしれないが、老人の専門医療の確立という観点からも、やはり改正すべきといえよう。
介護保険の中の医療部分と、医療保険の中の今にも残る介護部分を明確に区別すること自体に、かなり難しい面があり、全てのケースを満足させる制度を構築することがいかに困難であるかは、十分に理解しているつもりだ。しかし、どこまでが医療保険で、どこまでが介護保険かという議論があるのであれば、入院してから6ヶ月までが医療保険で6ヶ月以降は介護保険という考え方も成立するはずである。そのようになれば、医療保険と介護保険の両方に同じサービスがあることが前提となり、デイケアも双方になければ難しいのではないか。ものの考え方として、入院は介護保険と医療保険のどちらにもあり、同じようなものであるといっているのに、デイケアだけは片方だけというのがおかしいのではないだろうか。
これから、介護保険と医療保険の再区分の議論がおこるのだろうが、老人の専門医療という立場からも、十分な理論武装が必要であると思う。患者対介護職員の3対1問題もあり、厚生労働省も根拠を示して、十分な整備に進めて欲しい。
デイケアの医療保険適用の議論は、全体からみれば小さな問題かもしれないが、医療保険と介護保険で老人医療を区分するということがいかに困難であり、その分正確な実践データから議論する必要があるということを物語っているように思う。この時期にそれぞれの施設でデイケアの実績を積んで欲しい。
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