老人医療NEWS第35号 |
ここ1年余りは、今後の高齢者対策にとって大きなターニング・ポイントになると思われる。
昨年の夏以来、平成2年にスタートした「高齢者保健福祉推進十か年戦略」、いわゆるゴールドプランのみ直しが議論され、昨年末の政府予算原案作成時に、大蔵・自治・厚生3大臣の合意がなり、平成11年度までの「新ゴールドプラン」として再スタートをしたところである。
また、「21世紀福祉ビジョン」(平成6年3月)、「社会保障将来像委員会第2次報告」(平成6年9月)、「新たな高齢者介護システムの構築を目指して」(平成6年12月)と矢継早に、今後の高齢者の保健・福祉・医療に係る重要な報告が出されている。これらの報告の中で提言されている事柄は多岐に亘るが、一致して、21世紀の高齢社会における介護問題に言及し、現行の社会保障システムの機能等には限界があり、多くの課題を抱え充分な対応が困難であること、新しい高齢者介護システムを早急に構築する必要がある旨を指摘している。
厚生省の老人保健福祉審議会では、これらの流れの中、既に高齢者の介護問題について議論を始めている。具体的にどのようなシステムを考えるかについての議論は今少し先になるとみられるが、いずれにしても、現行の高齢者に対する保健・医療・福祉対策を「高齢者介護」という切り口でみ直し、新しいシステムを構築することになる。これは新しいシステムそれ自体をどうするかという問題と同時に、既存のシステムもまた、再整理・再構築を迫られることは必死である。
そういう意味で、今は21世紀の社会保障に向けての歴史的ターニングポイントと言っても過言ではないと思う。この時期に、この問題にかかわることのできる我々は「以って銘すべき」であるし、また、現在、高齢者の介護問題に携わっている大勢の方々も、受け身でなく、積極的にこの問題にかかわり、それぞれの立場から意見を言うことが必要と思う。
今後の高齢者対策のキーワードは「利用者本位のサービス」、「在宅ケア・地域ケア」と考えている。
折りたたむ...わたしの病院
「1981年設立、104床の内科とリハビリが主体のゆったりとした病院です。ずっと患者さんの立場に立った医療をして来ました。だから、優しく親切な人でさえあれば大歓迎です」と言うのが当院事務長の看護婦面接時の定番です。後半はどこの病院でも似たようなことを言っているはずで、わたしの病院の内容も彼の台詞の後半部分と同じように、特別書き立てるようなことはなにもありません。
92年に小山秀夫先生(国立医療・病院管理研究所医療経済研究部長)の講演を聞いて、素直な性格のわたしはケアミックスを採り入れました。入院医療管理料が60床です。すると青色吐息だった病院が利益率5%の優良企業?に様変わりしました。これには驚くやら嬉しいやら、「小山先生には足を向けて寝られない」と、神棚を作って先生の御写真でも飾りたい気分になったことを覚えています。断じて仏壇ではありません。
お人好しでもあるわたしは、出た利益のほとんどを「床面積を増やす」ためにつぎ込みました。人間時期によっていろいろしたいことがあるようで、あのときは「魔が差した」のでしょう、ひたすら患者環境改善に入れこみました。嬉しがって暑中見舞いにこのことを書いたところ、ご同業のかたがたから「お前んとこは田舎やからなぁ」とお褒めいただきました。周りは田圃なので蛙と一緒に喜びの歌を合唱しました。
ついでに病院の化粧直しもしたところ、建物がすっかり明るくなりました。すると従業員も明るくなりました。そして、な、なんと、“神様”である“患者さま”の表情まで明るくなり、オーラまで揺れ始めたのです。朝の待ち合い室などは、お年寄りの笑顔また笑顔でまさにシワクチャだらけです。
「わては笑ろとったら長生きできる思てんや。ケッケッケ」という“笑いの翡翠(カワセミ)ババア”まで現れました。ひ孫の家に行った日、嬉しさの余り入れ歯を入れ忘れて「コンニフィファ」としか言えなかったと言っては笑い、隣のジイさんが犬に追いかけられたとき、曲がっていた腰が伸びたと言ってまた笑うのです。きっと箸が転んでもおかしかった乙女時代に回帰しているのでしょう。
私といえば、かつて専門だった精神科の病に罹ってしまいました。診断は“躁病”です。50年前、いやそれ以上教科書が変わらないのが精神科のいいところです。だからかつての名医はいまも名医です。診断には自信があります。小山先生は自称“躁病”ですが私もそれに異を唱える気持ちはさらさらありません。どうやら小山先生のは伝染性らしく、私に移りました。躁病になりたくない人は、小山先生にあまり近づかない方が安全でしょう。
躁病になってからというものは、事業展開を図りたくてたまらなくなりました。「介護力強化病院連絡協議会」などで先哲(と言ってもほとんどの人が私より若いのはシャク)とお会いし、その素晴らしい人柄に触れたときなど、まるで自分が大事業をすでに成したかのような心境になってしまうのです。「何か私にも出来るものはないか」と考えて、訪問看護ステーションを開設しました。なんたる喜劇、そこに応募してくる看護婦はみな見事躁病にかかってしまうのです。
「寝たきり」高齢クリスチャンに聖書を読んで聞かせたら起き上がって十字を切ったとか、「金色夜叉」の芝居を見せて、“難しいお人”を演じ続けてきたバアさんをニヤリとさせ、終に操を強奪したとか、これも大変なことになっています。
そして前述の事務長も「病に起き上り」ました(病には伏せるのが普通です。)分不相応にも「老人保健施設を建てよう」と言い出したのです。
たしかに、入院医療管理料病棟は老人保健施設と連携することによりパワーアップします。いま地域が求めているのも、デイケアを主とする「在宅医療」ですから、彼の主張は全く正しいのですが、唯一、「日野病院は貧乏だ」という事実認識に欠けていることが躁病の躁病たる所以といえましょう。
私も「同病あい喜んで」この話を進めようと、多少汚いのは辛抱して、彼の尻を叩きました。なにせ躁病に罹っていますから、彼はたちまち馬車馬のごとく走り始めました。設立の理念は「ダメモト」です。
そして銀行の融資係長に「躁病ウィルス」を移してしまいました。「よろしい、融資しましょう」と、手を差し延べてくれたとき、その手がまるでグローブのように大きく暖かそうに見えたものです。
98年8月〜10月に完成を予定している老人保健施設は150床ですが、うち100床を「痴呆」病床にします。「寝たきり」との比率を考えると、この数字に社会との整合性があると考えたからです。これからも病気の続く限り頑張ります。よろしくご支援下さい。
折りたたむ...老人病院の現状と課題
高齢者の急激な増加、疾病構造の変化、家庭内における介護力の低下などの要因に伴い医療上の管理や、看護あるいは介護を必要とする高齢者の専門病院として老人病院が誕生した。当初は要介護老人に対応するための機能が不充分だったことから、その後介護力の機能を重視し、医療の質の向上と効率化を図ることを目的とした老人病院制度や、介護力強化病院制度が施行され、年々介護力の強化が図られてきている。
老人病院における入院患者の特性としては、
病気や障害を抱えた高齢者は、若年者に比べて身体機能の低下や精神機能の低下により日常生活に支障をきたしやすい。特に慢性期疾患を抱える後期高齢者の場合は、日常生活における活動性の低下により、ささいなことで身体機能や精神機能の低下を招きやすく、日常生活上の障害を増大させやすい。
またこれらに加えて過度な安静、過度の医学的管理などの制限により、能力を持ちながら療養生活にその能力が活かされず、日常生活において活動の制限を余儀なくされ、中には寝たきりに陥っているケースもみられる。
疾病や障害を抱える高齢者の問題として上げられる虚弱化・重度化・寝たきり化は、疾病や障害の要因の他に、日常の生活のあり方と密接に関係しており、図に示すようにQOLの低下と深くかかわっている。
老人医療の根本的な対策として浜村は、以下の3点を上げている。
老人病院におけるリハビリテーションのあり方
老人病院におけるリハビリテーションは、具体的・精神的機能の障害、もしくは高齢、疾病に起因するところの身体機能・精神機能の低下などにより日常の生活に支障を抱える高齢者に対して、生活の破綻を防ぎ、生活を改善し、健全な生活を取り戻していくことである。
従来、リハビリテーションは、早期診断、早期治療の立場から、急性期および回復期のリハビリテーションの重要性が唱えられ、機能障害に対しての改善を主たる目的として機能回復訓練が行われてきた。このため、今日我々が手にするリハビリテーションの書物の多くは、急性期あるいは回復期のリハビリテーションの内容が主となっている。
老人病院におけるリハビリテーションでは、その対象は主として慢性期の障害老人であり、障害も重度化、複雑化しているケースが多い。これらの慢性期の障害老人の抱えている問題は、医療上の問題、生活上の問題、心理的問題、社会環境上の問題などが混ざり合って、日常生活において生活上の障害をきたしている。
慢性期の障害老人に対するリハビリテーションは、身体機能・精神機能障害の対する機能訓練にとどまらず、個々の生活の視点に立った生活障害の側面を含めて、実際の障害老人の日常生活の状況と照らし合わせて行なっていくことが重要である。機能訓練は、日常生活に結びついて始めて意義を持つものである。全体的な日常生活の問題点の把握も充分でなく、今行なっている機能訓練が日常生活にどのような意義を持っているか理解できず、日常生活における目標も明確化しないままに機能訓練だけを延々と続けることは避けたいものである。
リハビリテーション部会の活動
リハビリ部会の目的は、リハビリテーション部会の活性化、老人病院(特に慢性期リハビリテーション)における専門性の確立・役割の明確化などである。この3年間の活動を通して、リハビリテーション部会では、老人病院におけるリハビリテーションの諸問題を整理して、リハビリテーションのあり方について討議を重ねてきた。これらを要約すると以下のとおりである。
老人病院におけるリハビリテーションのあり方
障害老人のQOLの向上
個人の能力とバランスのとれた生活の構築
ハビリテーション部会では、慢性期の障害がこれほど多くなりながらも慢性期におけるリハビリテーションのあり方を示す書物が少なく、リハビリテーションの進め方を示すものがない現状を踏まえて、次のような難しい課題について、調査および研究を重ねてきた。
入院患者の生活時間帯構造に関する調査・研究では、院内生活自立群も要介護群も一日の多くの時間をベット上もしくはベッド周辺で過しており、日常の生活のあり方を今後充分検討することが必要と言えよう。
また、廃用症候群の調査・研究からは、入院患者は多種多様の廃用症候群を発生しており、それらは活動性の低下に伴い、より多くの廃用症候群を、より高率で発生しており、障害の重度化・寝たきり化と密接に関係していることが報告されている。
慢性期におけるリハビリテーション評価では、身体機能や精神機能の評価に止まらず、心理的側面や社会環境の評価も含めて、日常生活の状況と照らし合わせて、障害構造を分析し、どこの場所でどのように影響しているかを評価を通して明らかにしていくことが重要であると述べられており、その中心となるのはADL評価を中心にした能力評価であると報告されている。
慢性期におけるリハビリテーションの実施ケアに際しては、幅広い対応が必要であり、チームアプローチが非常に重要になってくる。チームアプローチの調査・研究では、その必要性、現実に抱える問題点、対策等について細かく報告されている。
老人病院における家庭復帰への援助についての調査・研究では、老人病院入院後はその約7割が家庭復帰が困難となっている現状ではあるが、調査結果より約28%の老人が家庭復帰をしていることがわかった。ここでは、家庭復帰に向けた阻害要因や、具体的な対策について報告されている。
またターミナル期におけるリハビリテーションの役割についての調査・研究では、ターミナルケアへの取り組みが必要と考えてはいるものの、現実的なリハビリテーションのかかわりは乏しく、対応にも困惑が見受けられることが報告されている。
活動報告の詳細については、老人病院におけるリハビリテーションの課題とその方策として、小冊子にてまとめて報告させて頂きたいと思う。
この活動を通してお忙しい時間をさいて、熱心にご指導下さった国立療養所長崎病院副院長浜村明徳先生、宮崎リハビリテーション学院副学院長米田睦男先生には心より感謝申し上げます。
折りたたむ...質の高いケアを提供する前提として適確な評価が必要なことに異論はないと思います。その評価の重要な部分を占めるのが疾患の診断だと思いますが意外とこの診断がおろそかにされていないでしょうか。
老年期の痴呆性疾患の大部分が疫学上、アルツハイマー型痴呆および脳血管性痴呆で占められ、これらの疾患の中軸症状である知能低下に対しては未だ有効な治療手段を持たないこともあって、痴呆とおぼしき状態の高齢者にこれら両疾患名が安易につけられていないでしょうか。
「痴呆」はご存知のように状態像であって疾患名ではありません。さらに「痴呆」と鑑別別すべき状態として、いわゆる仮性痴呆(うつ病、精神分裂病、心因反応などの機能性の精神疾患)、軽い意識障害(身体的基礎疾患にもとづくせん妄状態など)、限局性脳病変にもとづく失語・失行・失認が挙げられます。
少なくとも、最初に長谷川式のスケールがあり、しかも1回のテストで低い点数だったから「痴呆」と診断することがないようにしたいものです。
それから、「ボケ」ということばがよく使われますが、一般の人達への啓蒙という目的の為には許されても医学用語の「痴呆」との区別は、きっちりして用いてほしいと思います。最近、福祉関係者の方たちと接する機会が多いのですが、彼等の中に、老人ボケ=老人性痴呆=医療の対象外=福祉での介護の守備範囲、との図式が形成されつつあることを知り、そのことに私は少なからず危惧を覚えています。
ところで「痴呆」との状態診断が得られても、その次のステップである原因疾患の特定が大切なことは言うまでもありません。
いわゆるTreatable Dementiaをひきおこすことのある疾患(慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、脳腫瘍、代謝性脳症など)見逃さないことに主眼を置いた除外診療は特に重要と思われます。たとえ前医の紹介状があったとしても、もう一度、自分の目で、あるいは当該医療機関の医師の責任において見直す慎重さが欲しいものです。
私は特別養護老人ホームに入所中の老人の中からこれらの疾患を何例か経験し、頭部CT検査の重要性を改めて認識させられました。
薬物の影響(あえて副作用とは言わない)による痴呆にも配慮することが必要だと思われます。また、高齢者においては脱水の有無のチェックが重要と思います。
痴呆の診断に当たっては、さらにその増悪因子(身体的・心理的・環境的)の分析も必要でしょう。老人性痴呆疾患センターの医師には、痴呆を診断する際には単なる病名付けに終わることがないよう、日頃からお願いしています。
保険診療のためと思われる、必ずしも医学的診断と一致しない病名、それとは逆に定額制医療による診断名の軽視はないでしょうか。
私達に与えられた課題はまだまだ多いと思いますが、私は医療の専門性の一つとして診断にこだわり続けていきたいと思います。
折りたたむ...厚生省の高齢者対策本部が2年目を向えた。専任事務局員14名、次長が5名、そして関係各課の課長補佐がほとんど兼任するという一大プロジェクトに成長した。この20年間で省内プロジェクトとして最大規模のオール厚生省体制の誕生だ。
21世紀に向けて公的介護保険の導入が必要であることについては、理解することができるが、正直、いったい我々はどうなるのかということについては、先が見えない。積極的に情報収集を行い、会長を先頭に「老人の専門医療の確立」を実践家集団として、主張していきたいと考えている。
介護保険といわれると、なにやら介護に関する公的保険制度のようにも受けとれるが、保健医療・福祉に関する高齢者サービスを包括的に保険に吸収するという方向が見え出している。
この問題に関しては、老人保健福祉審議会で活発に審議されているし、サービス供給者側を中心とした「高齢者ケア支援体制に関する基礎調査研究会」が設置され、当会の事務局長でもある斉藤正身先生(霞ヶ関南病院長)もメンバーである。
座長は井形昭弘先生(国立療養所中部病院長)、日本医師会の糸氏英吉先生と宮坂雄平先生をはじめ18名の委員で構成されている。
この研究会は、高齢者対策本部が事務局で、各地域(全国15から20地区)における高齢者ケアに関する実情の調査・分析と、要介護判定基準やケアプラン作成基準のあり方について、試案を用い、各地域でその意義と問題点を調査検討することを目的としている。なお、使用される試案の内容については、現時点ではその詳細が不明である。
この研究会は夏以降に中間報告、年末までに報告書の作成というハードスケジュールで、地域調査、要介護判定基準案の地域での試行までを行う予定になっている。そして、この会の報告内容は、実質的に公的介護保険に大きな影響力を持つものと予測できる。
我々としては、これらの調査研究に協力するとともに、主張すべき時期に、何らかの形で意見を公表したいと考えているが、各役員の勉強会や当会内部の意見交換会を予定し、会員の意見をまとめ、広範な問題について着実に対応したいと思う。
どのような議論展開になるか予想できないが、当会のような全国の老人専門病院の医師の集団は他になく、日本医師会をはじめ関係機関に対して老人医療の現場の声をこれまで以上に届けることが必要である。
我々の意見の第一は、老人専門病院制度の確立であり、第二は高齢者の介護において医療が必要であることである。要介護老人のほとんどが何らかの基礎疾患があり、障害を持っていることから、医師の関与は不可欠であるばかりか、医師が不在の介護は考えられない。
また、10年以上も専門医療の確立を要請してきた当会としては、臨床老年科医の重要性をはじめ医療スタッフのチームアプローチを実践する専門病院制度の確立を求めていきたい。
老人専門医療の特色は、その総合性である以上、医師、歯科医師、薬剤師、栄養士、理学療法士、作業療法士、言語療法士、看護婦、看護士、准看護婦、准看護士、臨床検査技師、診療放射線技師、ソーシャル・ワーカー、社会福祉士、介護福祉士、介護職員、その他の病院職員がチームを組み、その総合性を発揮しなければならない、そして、リハビリテーションやデイケア、訪問看護やその他の在宅ケアを進め、なるべく多くのメニューを地域に提供することが必要である。
会員各位の一層の団結と協力が最も必要な時代を向えている。
*へ ん し ゅ う 後 記*
新宿御苑に事務所が引越し、始めての春を迎えました。秋に引越しをしてから、窓から見はらせる新宿御苑は、紅葉の森から桜の森へ移り変わりました。事務所スタッフも増え、これまで以上に皆様の要望に応えていけるよう頑張ってまいりたいと思います。どうぞよろしくご指導下さいますようお願い申し上げます。
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