老人医療NEWS第34号 |
9月に入り、平成7年度予算編成作業も本格的に始まった。医療費(医療保険)予算の構造は基本的には極めて単純で、一人当たり給付費×人数×補助率に還元される。一人当たり給付費も人数も年々増加するから、医療費予算はほっておいても年々数千億円の規模で増加する。バブル時代のように税収が伸びている時はよいが、ここ数年のように税収が伸びないどころかむしろ対前年度マイナスになっている時には、医療費予算を伸ばす訳にはいかないので、あの手この手の工夫が必要となる。
しかしながら医療費予算は、最終的には大部分医療サービスという形で国民に還元される社会保障予算であるとともに、25兆円を超える規模を持つ医療産業に対する振興的要素を持つ予算である。そう考えると、医療産業=医療供給体制をどのようにすればよいのか、マネーの流れも含めて再検討する必要があり、「医療費予算」が「医療」の向上に結びつく途ではないかと思う。
一口に医療産業と言っても、直接患者に接する医療機関から製薬業、医療機器製造業までいろいろあるが、ここでは医療機関について考えてみたい。
医療機関には、大学病院のような先端医療を期待されている病院から診療所まで、その施設の持つ機能がかなり異なるものが混在している。現行医療法では、診療所、病院、そして病院の中で特定機能病院、総合病院を特掲し、またその一部をなすものとして療養型病床群を規定しているが、病院の機能をもっとサービスを受ける側の立場に立って体系化できないものだろうか。例えばかかりつけ医―地域中核病院―特定機能病院を連携させ、かかりつけ医のところに行けば症状に応じ地域中核病院、更に特定機能病院へと紹介システムが完備しているような体系を作り、そういう体系を構成している施設を優遇する措置をとる、あるいは患者を誘導するシステム等が考えられる。
老人病院においても同様であり、老人保健施設や福祉との連携、あるいは同じ老人病院でも介護力その他の機能を評価し、診療報酬だけでなく、患者を誘導するシステムを導入する必要があるのではないか。これは、医療機関の差別化であり、競争原理の導入につながる。医療に競争原理のなじまない側面があることは充分承知しているが、適度の競争原理を導入することが、努力している医療機関が報われる途であり、経営改善にも資するのではないかと思う。
折りたたむ...やさしく、あたたか味のある老人病院を目指して
長岡病院は、神奈川県茅ヶ崎市北部丘陵地で藤沢市と隣接した所に位置しています。冬暖く、緑と清澄な空気に包まれた高台で、療養生活には最適な環境に恵まれた所にあります。また、病院の北西地域には、文教大学、慶応大学湘南藤沢校が開設され、福祉施設も特別養護老人ホームが4施設あり、当病院の周囲は医療・福祉、教育施設を中心とした閑静な文教地域となっております。
[沿革]
当院は昭和57年4月、鉄筋3階建延1857u、許可病床80床の一般病院(内科、神経科、理学診療科)として開院致しました。周囲に医療施設が少ない地域であることと、藤沢市、茅ヶ崎市等の地元の先生方や市民病院、大学病院からの紹介患者が順調に入院し、数ヶ月で満床となったため、院内および周辺を整備して116床で運営することになりました。 最初は職員の定着も悪く、入院患者も急性期、慢性期、痴呆の合併等と様々であり、毎日が予想もできないことが起ったりし、その対応にも追われる日々でした。その後、医師の補充、職員の確保、院内整備が少しずつ進んだところで、運営の安定、経営の明確化、将来の医療を考え、昭和60年9月に法人化に踏み切り、医療法人社団湘南健友会長岡病院となりました。
しだいに落ちつき職員も充実しましたので、地域医療計画の関係もあり昭和63年2月、二期工事完成(鉄筋コンクリート4階建延1982u)110床増床し、計226床となりました。また、これを期に急速に進む高齢化社会の中で、入院患者のほとんどが老人であるという現実から特例許可老人病院の許可を受け、名実ともに老人医療専門病院に進む体制となりました。
しかし、その後老人医療は目まぐるしく変化し、どのように対応したらいいのか大変悩んだ結果、看護関係職員の充実をはかり、平成3年10月老人特例看護2類から1類を取得しました。翌4年7月には1病棟57床を老人病院入院医療管理料を申請、いわゆるケアミックス体制を施行し、老人医療の特性について医師を初め職員全体の意識の改革をはかりました。
平成4年10月には、第三期工事として鉄骨4階建延1345uを増築、個室18床、2人室16床が完成し病院全体のアメニティーの改良を行い、結果として将来の療養型への転換も可能になりました。これによって建物に関するハードの部分の整備が一応完了した事になります。
そして、今後の老人医療と福祉問題、老人医療費のことを考える時、必然的に老人病棟入院医療管理料を選択することになりますので、当院も介護職員の採用に努力をした結果、平成6年2月全病棟226床が入院医療管理料(T)(4月1日法改正で入院医療管理料(U))の承認を受けることができました。今後はケアプランの勉強をして新制度での入院医療管理料(T)を取得するよう努力する所存です。
[今後の課題]
開院当初の病院の理念として、以下を念頭に出発しました。
開院以来13ヵ年経過し、近接に医療施設が少ないことから輪番制二次救急も行い、一般急性期疾患と老人医療を目指してきましたが、時代のすう勢で老人の慢性期要介護者の入院が多くなりました。そのニーズにあった医療サービスを積極的に提供することとして、介護力強化病院に踏み切り、老人医療の専門病院として地域の人達に信頼される病院を目指しております。
介護職員もなかなか充足が困難でしたが、ここ2、3年来の不況のためか男子を含め若い介護者が定着し、比較的スムーズに老人の専門病院に切替えることができたのは幸いでした。しかし、医療介護についてはほとんどが素人のため、教育、訓練、研修が必須条件で、幹部職員による定期的な院内勉強会を開催し、基礎的な勉強から始めております。今後は職員の労働条件、職場環境の改善等も念頭に置き、患者を中心とした、やさしく、あたたかい介護ができるよう職員全員が協力して進んでゆきたいと思います。
また、在宅医療については、3年前より退院患者を中心に主に外来看護婦が訪問看護サービスを実施しておりますが、今後はできれば介護支援センター、老人保健施設等、地域の医療・保健・福祉の中核となって活躍していきたいと思っています。
折りたたむ...今回の海外視察には2つの大きな目的があった。一つは、施設から在宅まで継続したケアを実践し、ナイアガラモデルとして知られるカナダ、オンタリオ州のナイアガラ市老人福祉課への訪問である。日本以上に家族との同居が少なく、また、施設に入所している高齢者の比率が高いカナダで、どのような基本的理念の基に地域ケアシステムを展開しているのかをみることである。もう一つは、現在我々が取り組んでいるケアプランの原型であるMDS(ミニマム・データ・セット)等の発案者のフリーズ氏(ミシガン州立大学)とディスカッションをし、実践施設であるボストン郊外のヒーブル・リハビリテーションセンターを視察することである。
総勢19名の参加者は10泊12日で訪問先が9施設というハードスケジュールの中、日本の現状と照らし合わせながらの視察はいろいろな意味で実り多いものであった。 カナダの老人施設ケアは次の3タイプに大別される。
(1)Nursing Home(ナーシングホーム)
(2)Home for the Aged(ホーム・フォー・ザ・エイジド)
(3)Cronic Care Hospital(クロニック・ケア・ホスピタル)
高齢者のほとんどは民間のナーシング・ホームと公的な施設で日本の養護老人ホームに相当するホーム・フォー・ザ・エイジドを生活の場としている。クロニック・ケア・ホスピタルは平均在院日数3年半であるが、入院種別は、1.合併症をもつ高齢者 2.退院に向けての短期入院 3.若年者 となっている。
合併症をもつ高齢者はほとんどが病院で最後を迎えるが、今後、クロニック・ケア・ホスピタルは自宅と施設の中間に位置する重要な役割を担うようになるそうである。日本でも老人病院あるいは老人保健施設が求められている機能である。病院の役割は「自宅で少しでも長く暮らせるように援助する」ことであり、コミュニティーサービスの拠点と位置付ける努力が見受けられる。
トロントの5地区では急性期対応の病院と慢性期病院(クロニック・ケア・ホスピタル)が連携をとり、同地区の7病院に高齢者対応のアセスメント機能を備えている。アセスメントは高齢者全員に実施するのではなく、機能低下やADL低下をしている人に対して行われる。老年科医を始めとするアセスメントチームは、人口15万人に1チーム(老人1万人に1チーム)と思ったより少なかった。
カナダとアメリカの国境、雄大なナイアガラの滝のカナダ側に位置するナイアガラ市は先進的な老人福祉行政が、そのゆったりとした環境の中に自然に溶け込んでいるかのようであった。ナイアガラ老人福祉は以下のような理念のもとに構築されている。
(1)A CONTINUUM OF CARE
(2)QUALITY FOR EVERY LIFE
ナイアガラモデルの基本はここにある。住宅・コミュニティサービス・ロングタームケア・人生の質向上のプログラムなどがコーディネートセンターを中心に機能し、高齢者本人からの希望を最優先するものである。業務の概略は、図1の通りであり、調査研究の中には日本でも有名なマロイ氏の「Let me decide」がある。現在、高齢者本人と家族にどのような最期を迎えたいかアンケートを実施している最中だそうである。
ボストンのヒーブル・リハビリテーションセンター(HRCA)は725床のロングターム・ケア病院である。MDSの開発に始めから関与し、現在もその研究・普及活動の中心的な施設である。
アメリカでもMDSの導入にはかなり苦労したらしい。特に医師の協力体制とナースの意識改革が問題だったそうである。これは日本と同じであるが、HRCSではMDS委員会を編成し、院内教育・研修プログラムを実施している。その詳細は図2の通りであるが、現在、日本でも行われている高齢者ケアプラン策定リーダー研修や、各病院・施設内の教育・普及方法と何ら変わらない印象を受けた。しかし、その教育方針は「From Walking to running」というようにじっくり時間をかけながら徐々に軌道に乗せていくという、我々にも大変参考になる基本的なスタンスで取り組んでいる。
HRCAの特筆すべきは病棟運営にある。入院(入所)時、機能のアセスメントを行い、その機能レベルに応じて17あるユニット(病棟)に振り分けるグルーピングが行われる。どのユニットにも医師、ナース、マネージャー、MSWからなるプライマリー・ケア・チームがあり、患者のレベルに合わせたケアを実践している。
ミシガン大学のみしがん・ジェアトリックセンターでは、MDSの考案者であるフリーズ氏からMDSの誕生の経緯、その導入効果、問題点などアメリカの現状の説明があった。ナーシングホームのケア内容は向上したものの、入所者のレベルアップに本当につながっているのかは未だ検証されておらず、現在データを集積している最中であること、また、要医療の入所者に対しては医師による再チェックの必要性があることを強調されていた。
今回の海外視察は、ナイアガラ(カナダ)の高齢者に対する地域ケアシステムの現状に触れ、アメリカのMDS・RUGの考案・実践者とのディスカッションなど、とても有意義なものであったが、我々の高齢者ケアに対する取り組みと同じ方向を向いていることを確認できたことが一番の収穫だったのではないだろうか。
折りたたむ...川村構造先生がおなくなりになって、早くも一年以上が経過した。
先生との出会いは、昭和60年の秋、私共の財団法人を見学にみえた時であったと記憶している。その折の先生についての第一印象は「随分と腰の低い方」であった。
昭和61年12月には当会主催の施設見学会で小山田施設群を訪れることとなり、実際に施設群を目のあたりにし、また、その沿革や理念について聞き及び、大げさではなく大きなショックを受けたものである。最も愕然とさせられた事は、施設群の医療の核である小山田記念温泉病院が、老人専門総合科病院と位置付けられていた点である。老人医療を最終的にバックアップするためには、総合科による対処が必要である。また、医療、福祉の複合施設群の中核には正にそのような施設が必要である。この考え方は、現在も理想型としては肯定的な意見を持たれる方が多いと思われるが、実現するとなると経済的に不可能に近いであろう。当時の私にとって、この見学で老人医療、福祉の一つの模範解答をいきなり眼前につきつけられた思いがあり、川村先生のイメージは、紳士から怪物へと一気に私の中で変貌してしまった。しかし、見学グループとの対談では、あい変わらず紳士然とニコニコと質疑に答えられていた笑顔が昨日のことの様に思い起こされるのである。
平成2年7月に川村先生ご夫妻他のご一行に加えていただいて、フィンランド、オランダ、ベルギー、フランスと4カ国を訪れていた。
この訪問の時のオランダでの印象が強く、9月の当会のデンマーク視察の際、後半では川村先生と二人だけで別行動をとり、アムステルダムへおもむき、当地の福祉施設を訪問したのも懐かしい思い出である。
オランダ訪問は、「クラウスという民間の福祉団体が在宅医療、福祉の多くを担って幅広く活動している」との情報を追っての旅であったが、アムステルダム滞在中は、汽車やバスに乗って移動することもあり、より生活感のある旅を経験できた思い出がある。 第3回目の旅行は平成4年10月、川村先生の施設と姉妹施設であるQEGD(クイーン・エリザベス・ジェアトリックセンター)の訪問をメインとするオーストラリア視察であった。
成田出発当日より顔色のすぐれない川村先生を見て心配はしたものの、出発の時は過ぎ、機内でも日頃の元気な先生らしくなく、ほとんど休まれておられた様子であった。到着と同時に私に「入院したい」と申し出られたため、旅行社から病院の手配をしていただいて翌日入院となった。出発の時すでに倦怠感はかなり強かったのではないかと推察されるが、団長としての責任感と、日頃から体力に自信を持たれていたことが、かえって裏目になったと思われる。
私たちが旅の日程を消化する間、川村先生は入院治療に専念されることとなった。その後、奥様もオーストラリア入りされ看病をされたが、経過はおもいの外好転せず、主治医も付き添った上での帰国となった。肝炎の経過の悪いタイプと思われるが、翌平成5年3月17日に先生は帰らぬ人となられてしまった。
日本の老人医療、福祉にとって大きな穴をあけることになった先生の死を悔んでも悔みきれない思いである。
川村構造先生のご冥福を心より祈念いたします。
折りたたむ...老人の専門医療を考える会は、6月25日、日本都市センター(東京)において第11回全国シンポジウムを開催した。主催者挨拶で天本会長は、これまでに発表してきたマニュアルをベースに、更に利用者の方のニーズにきめ細かく対応できるよう細かく評価し分析するという過程を大切にし、今後も様々な意見を取り入れながらよりよい老人ケアを目指していきたい、と述べた。会場には約300人が全国から集まり、質疑も活発に出され、熱心な議論が交わされた。
記念講演
高齢社会と医療
厚生省大臣官房審議官 阿部正俊
高齢社会の考え方については、あらゆるところで語られているが、まず、高齢化社会になった原因は何なのか、4つの要因を挙げてみたい。それは
である。
この4つの要因は、一つは社会発展の姿である。今の成熟社会に付け加えるべき価値観は人間である。人間に対するサービスをどう考えるかということの延長線上にサービスの評価があるのではないか。
医療は、もう少し範囲を広げて予防・生活支援としての医療も含めるべきではないか。また、もう一方で、対人サービスとしての医療をもう一度組み立ててみる必要がある。私達が目指すものはサービスとしての中身であり水準である。負担という論理でものを考えようとするから抵抗感があるのであり、国民経済全体からすると沢山のお金を要している。限られた老人や福祉という範疇ではなく、もっと広い枠の中で負担や分配はどのくらいなのかを考えていく必要がある。
利用者の地域性というものを考えて、老人保健福祉計画を全市町村が作った。これは歴史上初めてのことで、中身を批判する前にこれが100%市町村で行われており、住民の負担によって賄われているということにもっと注目して欲しい。
サービスの中身としては介護サービスと生活支援サービスを含んだ一体的なサービスであるということ。在宅でも施設でも費用的にも物量的にもバランスのとれた姿にすべきであろうということ。年金・医療・福祉を整合性の取れた仕組みにすること。皆が介護状態になる可能性があるのであり、介護とは年寄りに対する特別なサービスではないということを認識したい。
シンポジウム 機能評価とサービス評価
シンポジウムは国立医療・病院管理研究所医療経済研究部長小山秀夫氏を司会として、4名のシンポジストが今後の老人医療における機能評価とサービス評価についての期待と課題を語った。
「病院機能第三者評価の実践について」
東京大学教授 郡司篤晃
医療の質を第三者で評価するという動きは、米国では1910年から、日本では1987年に日本医師会と厚生省で機能評価マニュアルの合意ができ、病院医療の質に関する研究会が発足した。
医療の質には大きく分けると技術的要素と人間関係的要素という二つの要素がある。そしてそれらはお互いに影響しあっている。よい人間関係が保てないのに、よいデータはとれない。よいデータが取れなければ、よい医療はできない。このためには、何をなすべきかという目標をたてるための基準づくりが必要であり、そしてその基準が満たされているかどうかを評価する採点表が必要となる。
しかし質は量のように目に見えて計れるものではなく、その評価は評価者の判断に依らざるを得ないことが多い。また、この評価基準というものは、次々に改正していかなければならない。そして、その改正されたものが良いものになっているかどうか確かめなければならない。改正すると、別の病院に移ったときに前の病院と比較ができない。さらにその評価は評価者に非常に影響を受けるという三つ巴の困難がある。私達は一つ一つの病院でむしろ評価基準を評価しながら、評価者自身の内的な基準というものを向上させながら、次の病院に行ってそれを検証していくというサイクルで今進んでいる。
設備構造や患者からの評価、目標などを統合するような評価の指標をこれからも作っていきたい。
「老人病院機能評価マニュアルの取り組み」
青梅慶友病院理事長 大塚宣夫
この会が発足したのは約10年前だが、イメージの悪い老人病院を少しでもよいものにしていこうということで取り組んできた。その活動の一環として、昭和62年に日本医師会が出した病院機能評価をもとにして老人病院版を作った。その後、随分制度が変わったことから、平成4年の3月からこの機能評価表の改定作業に入り、老人病院機能評価マニュアルが平成5年に出された。
改定にあたり議論を重ねた結果、次の5つが老人病院の機能であると考えた。
この機能評価マニュアルの調査では104病院から回答を得、その結果を見てみると、この中で一番特徴的なのは「社会、地域への貢献」が少ないということであった。
今回の調査は自己評価であり、どの程度中身が正確に表されているかわからないが、ともかくこれをたたき台にしてスタートし、第三者による評価というよりも自分の病院はこういう水準にあるのだということ、それに対して患者さんがクレームをつけてくれることに、我々が対応することができるようになるということが一番手軽で理想的であると思う。
「老人保健医療政策と医療の評価」
厚生省老人保健課課長補佐 関山昌人
医療の質をよくするためには3つの条件がある。
人病院についても、本年4月に診療報酬改定が行われた。老人にやさしい病院作りということで老人病院の看護・介護体制について見直しをはかった結果、患者さんと3人に対して介護職員を一人配置する体制ができてきた。そこで、質的なものをどのように保っていくか、ということからケアプラン(看護・介護計画)が導入され、量的および質的充実によって今後老人病院についての底上げを図っていきたいと考えている。
よりよいケアの確立ということでケアプランという手法が提言され、今後、老人病院等の施設でこの手法が導入されることにより、さらに改善され定着してくることが期待される。 また、質の向上ということでは、これまでは個々の経験と勘に頼っていたが、このケアプランによってより患者の満足を重視し、客観的なケアへの手法の確立へと向かうことになると思う。今後の高齢者ケアについて、ケアプランを積極的に現場で採用していただけるよう念願しており、この定着を老人病院がさらに高めていただくことを期待している。
「看護サービス評価とケアプラン」
西円山病院看護部婦長 岩坂信子
当西円山病院は942床の老人病院で、平成2年より定額制を導入。導入後、日常生活行動基準表とケア効果表を策定し、毎月チェックして患者さんの状況を把握。一年後には約65%の患者さんにADLの向上が見られ、4年後にはじょく瘡、おむつ使用者等も半減という結果がでた。定額制による看護介護サービスの結果であると思う。患者の日常生活自立を目的とした、医師、リハビリ等他職種ともどう協力していくかということも大切である。
高齢者アセスメント表は、看護婦を中心にアセスメント表記入・問題領域選定と進め、カンファレンスには主治医も参加するようになっている。できるだけ患者の家族も参加しやすいように、土日に職員の多くが交代で出勤している。ケアプランの内容はまだまだ未熟だが全患者について4月から実施している。これからはケアプランの内容が課題と考えている。それには、高齢者の特性やケアのあり方についての学習やカンファレンスの充実が必要と考えている。
また、今後はケアプラン策定による患者の変化を追跡しケアプラン策定の評価を行っていきたい。私達の提供したサービスを患者さんや家族が評価するものであることを意識して今後も努力していきたいと思う。
折りたたむ...[はじめに]
わが国の痴呆老人も百万人を超え、私達の会員病院にも数多くの方が入院されています。他患やスタッフへの暴力行為、激しい暴言、夜間の大声、スタッフが仕事ができないほどのまとわりつき行為等、重大な問題行動を呈する方も多くおられます。痴呆そのものに加えて、性格変化、せん妄等の要因が重なりあって生じていることが多いようです。
各患者さんをよく観察し、個別性、パターンを知り、様々な工夫をこらし、人権に対しての意識を強くし、人間らしく看護、介護することによって、かなりの部分は解決しないままでも、許容範囲におちつくケースも多いことはよく知られています。この時、向精神薬の適切な使用により、スタッフのストレスも減り、さらによい方向への相乗効果が得られるというのが、私の体験の結論です。
[当院での実態]
93年10月に当院(48床)で調査したところ、16名が、かつて他院でベッドに縛られていました。当院に転院したその日から問題行動がある場合が多いのですが、当院では縛ってはおりません。ここで、物理的拘束と化学的拘束の議論がでてくると思いますが、「向精神薬の量」と「副作用のチェック」を適切に行えば、化学的抑制にはならないのです。セレネース等は、最少錠型が0.75mgですが、この半錠を1回量と考えるのが適当だと思われます。アメリカの教科書等には1日量4.5mgと書かれていますが、そのままの量を使用すると化学的拘束、抑制となります。まして、そのまま漫然と投与を続けると患者さんはすぐ衰弱してしまうでしょう。
副作用のチェックに関しては、医師の頻回な観察以外に、他の全スタッフにも副作用に関して熟知させることが必要です。そして、リアルタイムに患者さんの状態をフィードバックしてもらい、変更(多くの場合、減量、中止、他剤への変更)することです。当院では日替わりメニューと呼んでいます。また、バイタルサインや心電図も多くの情報を与えてくれます。
最後に、当院で比較的使用している薬剤を、その最低量とともにご紹介致します。 ミラドール(1日30mg)、セレネース(1回0.75mg半錠)、ニューレプチル(1回5mg半錠)、コントミン(1回12.5mg)※コントミンはあまり用いません。 サイレース(1回1mg半錠)、ユーロジン(1回1mg)、ピレチア(1回25mg)、アタラックスp(1回25mg)、ルジオミール(1回10mg)
なお、メジャートランキライザー使用時には抗パ剤、アキネトンを併用しています。 以上で、私の体験からの痴呆性老人の問題行動に対する向精神薬の使用方法の報告を終ります。
折りたたむ...平成6年の医療保険・老人保健制度改革は、4月と10月の2回の改定で、大幅に変更された。これからは、付添廃止政策により、入院医療管理料を採用する病院の急増が予想されるとともに、在宅ケア部門の拡大が期待されている。
老人保健制度改革は「利用者本位、在宅ケア重視の総合的老人保健福祉施策の推進」という旗印を掲げた。利用者本位とは、利用者、消費者、家族など顧客へ老人保健福祉サービスを提供することを病院に求める結果となる。狭い病院、早く、冷たく、まずい食事サービス、プライバシー、インフォームド・コンセントなど、これまでの医療現場で、繰り返し問題視されたことへの改善に着手せざるをえない。
利用者本位のサービスを達成する方法としては、診療報酬上の評価に加えて、食事療養費の導入や療養型病棟群の差額室料の拡大、あるいは差額ベッドの届出の廃止や50%までの行政指導などにより、なんらかの利用者負担の導入策が実施されている。
多少の負担があっても、質の高いサービスを求める高齢入院患者やその家族は決して少なくない。ただし、料金を負担したくとも負担できない本人や家族もいる。そこで、最低限のサービスと、比較的質の高いサービスについては、保険点数化し、それ以上については、療養費の利用者負担を導入せざるをえないという判断が、厚生省の根底にあるように思えてならない。
別のいい方をすれば、病院サービスのネセスティ(最低必要限)は診療報酬で、質が高く投下費用がかかり、保険者も必要とみとめたアメニティにも保険の支払いをするかわりに、患者の希望や都合による高品質のサービス(ラグジュアリー)には利用者に直接負担してもらおうという考え方である。
このような方向について、当会では、社会保障全体の中で医療費が保障されることを前提に、患者の望むアメニティの向上や、ラグジュアリーサービスの開発に努力してきたことから、おおむね賛成しているのである。
もう一方の在宅ケアの重視については、老人病院機能評価表による調査結果からも明らかなように、老人専門病院の在宅ケアへの取り組みは、必ずしも満足できる状況にない。そこで、今後は、訪問看護、訪問リハ、PT・OT・栄養士、薬剤師などの訪問指導を一層充実するとともに、老人デイケアや老人デイサービス(医療法人にも可能となる)などの通所ケアにも積極的に対応する必要がある。
在宅ケアについては、老人保健施設の活動が活発で、病院の対応が遅れがちであったが、今後は、地域の他の医療機関、特に診療所のギブ・アンド・テイクの関係を前提に、有機的な連携を進めることが大切である。また。訪問看護ステーションや支援センターとの連携や併設、地域内の情報提供の促進による市町村との連絡も密にする必要があることは、会員の合意をえている事実である。
このような在宅ケア重視、利用者本位のサービスの展開は、今後とも地位の拠点となる老人専門病院の必要性と重要性を強調することになろう。
平成6年改革の後には、国民健康保険法、医療法などの改正スケジュールがあり、消費税などの税制改革では、十分な老人保健福祉財源を確保でき厚生省が、全省をあげて「介護保険」の制度化に突進することも確かになりつつある。
全員に残されている、時間的、資金的余地は少ない。なんとしても介護保険導入までには、質が高く、だれからも信頼される在宅ケアを含めた老人専門病院を確立することが最大の目的である。
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