老人医療NEWS第30号 |
入院医療管理料承認病院(入管病院)が最近急増しており喜ばしい限りである。平成4年9月末で、374病院、52300床が増えたことになる。
昨年4月の老人診療報酬改定での21%以上の大幅な入院医療管理料の引き上げがこの急増に寄与していることは疑いのないところであるが、老人医療における入管病院の果たす役割りが、世の中に認められ始めたことも忘れてはならないと思う。
特例許可老人病院入院医療管理料は、平成2年4月の老人診療報酬の改定で新設されたものであるが、過剰診療を招きやすい出来高払いの弊害を是正することを目的としていることは御承知の通りである。従って、介護力を強化し手厚いケアを行うとともに、付添い看護を廃止した医療機関に限定して承認している。
この制度が導入された結果として、
ところが、最近、一部のマスコミ等で老人病院に対する批判記事が目につく。「老人ころがし」「ピンポン」「5年もの、10年もの」等の刺激的な用語が使われ、入管病院では元気な患者だけを集め、手のかかる老人は病院から締め出すということが行なわれているという。さらに、昨年暮れには老人病院でのMRSAが新聞紙上をにぎわし、手抜き医療あるいは不適切な医療が行われているともいわれた。一部の病院でのことであり、老人病院全体を評価するマスコミの書き方には反感を覚えるが、過去の老人医療の暗いイメージが根底にあるようだ。
一方で、入管病院を中心とした老人病院に対する高い評価も耳にする。先日も寝たきり老人が一般病院から老人病院に転院し、見違えるように元気になったと大いに感謝された。 老人病院にとって、過去のイメージを振り払い、国民の信頼を得るために今が大切な時期であり、関係者の皆様の更なる御努力を重ねてお願いしたい。
折りたたむ...大口市は鹿児島県の最北部に位置し、県内で海を持たない唯一の市である。また、熊本県、宮崎県へ通じる交通の要衝となっており、数多くの観光資源に恵まれ、勇壮広大な曽木の滝、清流の十曽渓谷等たくさんの史跡と景勝の地に恵まれている。
このような環境のなかで老人の総合的医療・福祉を求めての試行錯誤の取組を紹介したい。
[施設紹介]
施設全体は医療法人と社会福祉法人から成り立っている。この施設の特徴は同敷地内にすべての施設を配置し、医療と福祉の結合を図り、相互の施設利用ができることが特徴である。
また、全施設において良質の温泉が利用できるようになっている。この温泉は入浴や建物の床暖房に利用され、入院患者、入所者の方々に本当に喜ばれている。しかし、施設のバランスの問題、予想さえ出来ない問題が起こり、毎日がその対応に追われているのが現状である。
それではこれらの施設を順をおって紹介したい。この地域は人口26000人と市としては人口の減少している典型的な地方都市であり、農家が多い田園地帯である。
まず、医療法人で運営している大口温泉病院は、平成元年、老人保健施設の開設と同時に医療、福祉の合体を目標として移転を決意し、70床に増床し特例許可老人病院としてオープンした。同時に平成2年4月より入院医療管理料が制度化されると同時にその申請を行い、同年9月より入院医療管理料Tの許可を得た。この時点では老人病院にすること、入院医療管理料を選択すること等不安があったが、老人医療の特性、老人医療費の問題等から見ても当然そういう方向で進むであろうことを考え、二もなく決意した次第である。現在この方向が全体にも意識され、方向が間違っていなかったことにほっとしているところである。病院のこの方向はまだ緒に付いただけであり、今後、この分野は医療、福祉の合体が必要となってくるであろうことから介護力強化病院連絡協議会の努力が問われることとなろう。
次に社会福祉法人の紹介をしたい。
初めに、昭和48年特別養護老人ホーム「ことぶき園」を開設した。現在、一般110床、平成3年10月に増床した痴呆専用棟20床の合計130床で運営している。そして昭和61年、在宅福祉の一つとして大口市から委託を受け「ことぶき園デイ・サービスセンター」を開設。規模としては、現在登録者数250名、1日40名の在宅の方々に利用していただいている。昭和62年にはことぶき園地域交流センターを建設した。この施設は地域の方々に利用していただく施設であり、公民館的に利用してもらい、その結果を入所者等と結び付けることを目標としている。
そして昭和63年、老人保健施設「ことぶき園ナーシングセンター」の建設にとりかかった。この老人保健施設は入所117床、通所40名の規模で運営している。また、平成3年10月より軽老人ホームの1タイプとして登場した、ケアつき住宅ケアハウス「グリーンハイツ周山」をオープンした。定員は50名である。最後に、平成4年6月より大口市の委託を受け「大口市在宅介護支援センター」を開設した。
これからの高齢化社会を考えると施設福祉も大事であるが、基本的には在宅福祉を考えていかざるを得ないのが実情である。このことから、大いにこの機能を充実させていく努力をしたいと考える。
[今後の取組]
これまで、21世紀の超高齢化社会を想定した「高齢者保健福祉推進10ヵ年戦略」を念頭においた施設づくりに取り組んできて、小規模とはいえ少しはその目的が達成できたと考えている。しかし、まだ施設相互間の有効な利用をマスターするには、今まで以上の努力が必要になると同時に、処遇の改善、職員の教育等、ソフトウェアーの開発が数多く残されている。
そういう環境の中で、急性期患者も抱えた病院での老人の処遇、看護内容の変化や介護職の仕事内容、また医師も含めて病院全体の職員のこれまでの考え方、意識を全面的に改革していく必要がある。この点を介護力強化病院の連絡協議会が中心となって老人病院の確立を図っていくことが重要となろう。私もその一翼を担わせて頂き、少しでもお手伝いができればと考える。
最後に、これからの最大の問題は高齢者の数から考えても在宅福祉に移行せざるを得ないと思う。ところがこの分野は本当に緒についたばかりであり、本腰をいれて取り組まなければならないだろう。当施設も若干の在宅支援機能は有しているが、老人訪問看護ステーション、福祉機能としての入浴サービス、給食サービスや家庭内での在宅機能の強化、サービス等、姿がなかなか見えないといった施設福祉と違った面を持っている。また、この問題は一施設で実現されるものではなく、地域(行政、医師会、保健所、一般市民、ボランティア等)が一体となって協力しなければ実現は不可能であろう。
取り止めもなく定まらない視点で述べてきたが、これから会員の皆様方のご教授を得ながら、力不足ではあるが老人の医療・福祉に取り組んでいきたいと考えている。
折りたたむ...私は十年前に東京から三重県四日市市の病院へ赴任して来たのだが、三重県では骨粗鬆症による脊椎の圧迫骨折の多いことに驚いた。東京では大腿骨頸部骨折の方が多かった。この印象は東京から手伝いに来てもらっている先生も同じである。これは地域性の問題なのかそのうち統計をとってみたいと思っている。 骨粗鬆症は高齢化社会では避けて通れない問題である。当院では、自覚症状が少なく加齢と共に進行する骨粗鬆症の早期発見、早期治療のために従来の人間ドック「骨ドック」をとり入れている。この結果は第三十三回人間ドック学会に発表し、テレビに新聞にと話題を呼んだ。
発病前の健康人に対する骨ドックで、女性の五五〜五九歳は十三・〇%、六〇〜六四歳は二二・七%、六五〜六九歳は三一・六%の骨量減少値を示した。女性の骨量は閉経を境に急激な減少を示し、この頃からあわてて治療をするが、進行を完全に防ぐというのは難しく、相当の努力を必要とするし、必ず予防出来るわけではない。
では、骨粗鬆症の予防はいつから始めるべきなのか。世界一の長寿を誇る日本国民としては、ピーク・ボーン・マス(最大骨量)の増大を図ることが基本的な予防である。貯骨(貯金にもじって・日本は世界一貯金の好きな国民と言われている)は一〇代前半から三〇代前半までに行うべきで、ここでピーク・ボーンマスをできるだけ増やしておいて、あとはこれを取りくずさないように生活するのが理想である。高齢化社会において骨粗鬆症にならないように予防するには、一〇代からの生活態度に左右されるのである。
骨粗鬆症は直接生命にかかわりのない病気だが、一度進行すると元に戻すことは難しい。また、油断すると誰でもがかかりやすい病気ということを認識してもらいたい。
では、どのようなタイプの人がかかりやすいのか、性別では女性が圧倒的に多く、男性の六〜八倍と言われている。人種は白人、東洋人に多い。やせた人、運動をしない人、牛乳のきらいな人、あまり日光に当たらない人、などはかかりやすい。逆に、かかりにくい人は黒人、肥った人、といわれ、これは体重が常に骨に刺激を与えているからという説もある。運動をよくする人、牛乳をよく飲む人、よく日光にあたる人もかかりにくい。
この他、遺伝の問題や地域の問題なども関係してくる。特に日本は火山国のため欧米に比べて土壌に含まれているカルシウムが少ないことも原因のひとつである。このため水や農作物のカルシウム含有量が少なく、その分カルシウム摂取に努力しなければならない。日本人のカルシウム平均摂取量は五三一rで厚生省の決めた六〇〇rより不足している。理想は一〇〇〇r位摂取することが望ましい。
今や健やかに老いる時代である。今からでも遅くない。貯骨のある人は減らさない様に、ない人でもこれ以上減らさない様に努力しよう。
折りたたむ...ニーズにあわせたサポートシステムを
昨年10月、老人の専門医療を考える会では第3回海外研修として、11日間をかけてオーストラリアの老人関係施設を中心に視察を行なった。川村耕造団長以下18名は、ナーシングホーム等の設置規制、在宅支援サービスの充実といった十ヵ年計画がすすめられているオーストラリアの老人ケアの実際をみる研修となった。
オーストラリアの社会と高齢者の現状
オーストラリアは、日本の20倍以上の広大な国土に総人口約1700万人が住み、その約6割は5大都市に集中している。もとはイギリスから移民によって開拓されたが、建国200年を迎えた現在では、世界120カ国からの移民によってつくられた多民族国家となっている。
私たちが訪れた10月は、ちょうど春の息吹を感じはじめた頃で、オーストラリアの桜と呼ばれる紫色の花を満開にした木が、その雄大な自然の一端を見せてくれた。オージー気質といわれるおおらかなオーストラリア人を育んだ大陸に根づく樹木はどれも、空に向かいひたすらまっすぐに天高く伸びていた。
政治的には、エリザベスU世を元首とする立憲君主国で、連邦政府と州政府での役割が分担されているが、権限は州政府が強い。
1990年に60歳以上の高齢者が総人口に占める割合は15%であったが、2021年にはそれが24%になると予想され、高齢化先進国といえる状況にある。家族形態としては、子供との同居はほとんどなく、法律的にも子供に老親の扶養義務はない。そのため、老夫婦か単身で地域で生活を送っている人が約90%を占め、残り約10%が何らかの施設に入所しているという。
社会保障と施設ケア
オーストラリアの社会保障は連邦政府の管轄となっている。老齢年金は男65歳、女60歳から受給でき、税金により支払われる無拠出の年金となっている。医療保障については、1984年より「メディケア」といわれる強制加入健康保険制度を実施している。これは課税所得の1.25%(本年1月より1.4%)を保険料として収め、外来や入院の医療費用と視力矯正の85%をカバーしている。
病院数は、精神病院を除いて1000を越えるものがあり、約7割が公立である。人口千人当たりの病床数は約6床、平均在院日数は約8日と短い。
施設ケアにはホステルとナーシングホームがあり、70歳以上の高齢者の1割を施設ケアの対象と考え、その数の整備をすすめている。ホステルは一部介護を要する高齢者が対象で、個室、家具の持ち込みが可能である。ナーシングホームは24時間重介護を要する高齢者が対象となっており、個室から6人部屋まである。入所に要する費用は、ホステルは個人の年金額の85%、ナーシングホームは同じく87.5%である。
オーストラリアの十ヵ年計画
1980年代初頭の調査において、ナーシングホームにかかる予算の増大と、不十分なサービス内容が問題となったことから、十ヵ年計画がたてられ、より高齢者の自立と尊厳を保つサービスへと政策の転換がはかられることとなった。その骨子は、
在宅生活をサポートする器具センター
このようなオーストラリアの現状をふまえ、今回の訪問では、5カ所の施設とビクトリア州にある連邦政府厚生住宅国民生活省を訪れた。その中から特に印象的だった施設をあげれば、インディペンデントリビングセンターと、クィーンエリザベス・センターである。
シドニー郊外にあるインディペンデントリビングセンターは、高齢者や障害者の自立のための補助器具を展示し、情報の提供を行っている。展示は、寝室関係、排泄関係、台所関係、車椅子関係など展示室ごとに区分されており、約2500点の展示品がある。センターの利用は予約制で、1日当たり平均25名の利用者があるとのことだ。常勤4名、パート4名のOTが、個々のニーズにもっとも合ったものを選べるよう援助を行うが、購入については紹介を行うのみであるため、利用者の負担とならないようになっている。
こういった器具センターは各州に設置されているとのことであり、情報を集中させ、実際的な援助と自立の促進へと結ぶ方策の一つであると思われた。
地域の核となる老人総合施設
クィーンエリザベス・センターは、メルボルンより車で約2時間のバララット市に位置する。高齢者が家庭で独立した生活をできるだけ長く継続できるよう、種々の付帯施設やサービスをもち、幅広い活動を行っている。対象人口は167000人、内70歳以上人口の占める率は8.6%である。
ベッド数は、アセスメント棟25床、リハビリ棟36床、そして老年精神病棟10床が近く増床される予定となっている。ナーシングホーム、ホステル、デイホスピタル、デイセンターの施設もあわせもち、スタッフ数1000名の地域の中核となるセンターである。
そのサービスとして、まず、ACATのアセスメントサービスがある。年間3400件のアセスメント件数があり、その依頼はGPからのものが約半数を占める。結果は、医学的なアドバイス20%、在宅サービスの紹介42%、リハビリのアドバイス17%、施設入所19%となっており、予防から施設ケアまでのアセスメントが行われている。
次に、老化に関する啓蒙の一環として、医学生を対象としたセミナーや、一般の人々へのキャンペーンを実施している。
また、在宅サービスとして訪問看護や補助器具の無償貸与、ホームヘルパーの派遣、デイセンター、デイホスピタルにおけるサービスなど、多方面にわたるサービスがニーズにあわせて利用できるようになっていた。
一つの施設が総合的なネットワークをもつことにより、個々にニーズにあわせたマネジメントができるような仕組みがこのセンターではつくられていた。
オーストラリアは、北欧のように高い負担を国民が負わないかわりに施設ケアも贅沢なものではない、というところは日本に似ているといえる。しかし、個人を重視したサービスに力を入れ、在宅サービスの充実とともに、施設においても色使い、家具等に配慮した家庭に近い環境づくりがなされているところは、一歩すすんでいるように思えた。施設で出会う老人達は、たとえ重い痴呆症状があっても、そこには生活が感じられたのが印象的であった。
折りたたむ...平成4年12月末現在、特別許可老人病院入院医療管理料承認病院は、436病院、59510床となった。4年4月の改定以降、新規参入病院が増加している。制度の発展普及という観点では、大歓迎だが、老人の専門医療の確立の目的ではなく、単に収益増加策として算入する病院も少なくないように思われる。
この制度は、当会が望んだ制度であり、お年寄りの入院患者に対する「薬づけ、検査づけ、付添づけ」の解決を目的としたもので、それまでの制度より利点が多く、社会的にも高い評価が得られるはずである。
だが、世間の評価は、今一つである。お年寄りの患者に評判が良いからといって、世間の評判が良くなるのが道理だが、どうもそうならないのが不思議でもある。
軽い患者を集めてる、モウケすぎなどの、いわば感情的な批判は、科学的データの蓄積と公表によって対応するしかない。しかし、どう考えても、世論とは感情の要因が多く、実態を調べるより、アナウンス効果によって左右されやすい。
注意しなくてはならないのは、このような大衆感情的批判は、一般に世間に受け入れられやすい。おまけに、制度を改正した厚生省当局でさえ、批判されると「結局は、老人病院が良くない」という姿勢を示すことがある。人口の高齢化が急激で、施策対応も在宅対応も後手に廻っていたが、それでも21世紀に対応する制度の一環として、この制度を選択したのであれば、ねばり強く指導育成して欲しい。
なぜならば、どのような側面から考えても、戦略的にも、戦術的にも老人医療に対する介護力強化病院の導入は、必要かつ不可欠だからだ。
老人の専門医療の確立を旗印しに10年、2度と老人病院の不祥事や社会的批判が起きることのないよう、医療の質の向上を望んできた少数の同志が、その成果とした制度改革を、まったく逆の方向から批判されるのは、どうしてもがまんできない。
しかし、世間の目は急に変化するわけではないし、この問題については、新しく組織された介護力強化病院連絡協議会に委ねることになる。
さて当会としては、引き続き老人の専門医療の確立のため努力を続けるが、介護力強化の方法以外にも、老人医療の問題は、山積されていることを理解するべきである。介護力によって、若干経営が安定すれば、老人医療が確立したなどとは、到底考えられない。むしろ、これからが老人の専門医療の確立期である。
第一に、お年寄りの入院患者に対するQOLの向上が必要である。第二に、老人病院と他の医療機関との連携を強化する必要がある。第三に老年専門家医を多数育成する必要がある。第四に、老人にふさわしい老人専門医療の技術を確立し、普及することが望まれる。第五に、21世紀をめざした老人医療の制度改正のための研究が必要である。
これら5つの目的のため、当会は引き続き研鑽を重ね、団結を強化する必要がある。そのためにも、当会から医療の不祥事や社会的批判を受ける病院を出してはならない。この10年、活動を続けられたのは、当会全員が、相互に病院をチェックするシステムを採用したこと。入会条件を設定したこと。組織の規模が小さかったことがあげられる。
介護力強化病院の協議会は、これらの要件を満していないが、規模が大きくなっても、なんらかのチェック機構と評価基準が必要とならざるをえない。
感情的な世論に、納得してもらうには、この方法しかないように思う。これからの介護力強化病院の行方は、当会がこれまで歩んできた道程と同様であろう。不祥事を起こすことなく、老人専門医療を確立しよう。
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