老人医療NEWS第28号 |
四月の診療報酬改定で新設された「特別管理給食加算」は、病院の種類を問わず明暗を分けたといえよう。社会の求めることを先取りし、努力してきた施設はその労が報われ、承認基準に合致しない施設はこれから、ということになる。しかも管理栄養士の常駐という条件を含めると、病院給食の新しい体制を期待する考えが伺える。
患者サイドの医療評価で真っ先にとりあげられるのが、医師や看護師の親切さ、そして食事のレベルであるという。しかしながら、病院経営の戦略にフードサービスの水準向上が準備されていただろうか。一般的には医療の末端におかれているのが実情ではないか。
老人の専門医療を考える会の栄養士部会にかかわっている立場で、特別管理給食加算の可能性を開くために必要な問題点を列記してみよう。
まず、誰が何をするか、の自覚を促したい。
次に、多様な考え方を整理しないとスタートしない。
最後に、サービス水準の目標をあげてみる。
当院の成り立ち
小林記念病院のある碧南市は、名古屋から約四十キロ南へ下った愛知県の中央部に位置し、人口6.7万人の小都市である。当市は工業都市であるが、住民の移動は極めて少なく、住民感情としては、むしろ農村型といえよう。歴史をひもとけば、本能寺の変の直後に、徳川家康が伊賀の山中より、海路本拠地三河にたどり着いた所でもあり、最近はトヨタ自動車関連会社、三州瓦で全国的に知られている。
この地に当院の前身である小林外科医院が産声をあげたのが昭和20年で、私の父である小林清院長が戦後間もない時期に開業したのであった。その後、昭和55年には全面改築を実施し、小生が院長に就任した。さらに、昭和59年に196床に増床し、平成2年より理事長も兼務して現在に至っている。
当院の目標 −地域密着型の病院−
当院は、この地域の人たちと密接に結びついた、アットホームな病院となるように、「いつでも高度な医療を受けられる、快適な病院」を医療理念に掲げている。
その具体的な対外活動をあげれば次の通りである。
「満足」を求めて
過去における日本の医療は、医者が病気を治してやるという図式で現わされていたと思うが、今後は患者がいかなる医療を必要とするか、患者のニーズに合った医療を提供する図式に変化しなければならないと思う。それは病む者が「安心」できる医療であり、「満足」できる医療でなければならない。
その目標を達成するための手段として、平成2年にサービス向上委員会を発足させた。彼らが、職員の身だしなみ、清掃整備状況をチェックした結果、電話対応のマニュアルを作成し、新年度からは新ユニフォームの事務員もお目見えするようになった。
また、昭和57年からQC活動を始め、「病院の体質改善、発展に寄与する」「人間性を尊重して、生きがいのある明るい職場をつくる」「人間の能力を発揮し、無限の可能性を引き出す」を基本理念に、「患者サービスの向上」や「業務のムリ・ムダ・ムラの改善」等をテーマに活動している。最近では、QCとは別に身近な問題については個人単位で発言できるシステムとして改善提案用紙を用い、様々な改善が行われる。
以上のような活動によって患者の満足だけでなく、働きやすい職場づくりや職員の満足に対しても積極的に取り組んでいる。
将来は“ホームホスピタル”に
現在当院は、普通の一般病院であるが、将来は治療だけでなく、予防・健康管理から老人医療・在宅ケア等も含めた、ホームドクターから一歩進んだホームホスピタルとして地域に貢献していくことを目標としている。そのため昭和62年から人間ドックを始め、平成2年にTHP労働健康保持増進サービス機関となり健康業務にも力を注ぎ、今後最も必要になってくる老人医療についても重点的に取り組んでいくことにする。各病棟単位(老人入院医療管理料病棟・一般基準看護病棟)で老人医療・急性期医療のそれぞれに応じた看護ができるようにがんばっていきたい。
私は、老人問題の重要さに気づき、平成1年より当会に入会させていただいた。当院は医療法の基準以上の看護婦が在籍し、かつ老人入院率60%以下であるため、受動的に老人病院になることはない。しかし、老人たちにとって良い医療を行うには、能動的に老人入院医療管理料病棟を設置する必要性を痛感し、職員の納得を得て、現在病院をあげて、その方向に向かって進行中である。
老人と一般病棟が混合のため、中途半端な変な病院になるか、地域密着型病院として老若男女入り混り、人間味のある地域に必要とされる病院として成長するか、大変楽しみである。
以前簡単に今日までの当院の歩みを述べてみたが、当会の先輩諸先生方の歩みと比べると理想・理念のみに走り、しっかりした経営手法基盤がなかったとつくづく反省している。昭和五十四年以来、自分なりに理想の医療実現にむけて、病院経営は無視して、一人の医者としてシャニムニ働いてきたが、気がついてみると、世間一般に認められている民間病院の問題を抱えた病院が残っていた。
二年前に理事長に就任し、病院職員全体として良い医療を行うべく、院内体制強化・職員教育強化をめざしてきた。ここに来て、看護部にやっと看護部長・各病棟婦長の5人の婦長を得、職員の平均年齢も准看護生15名、高看学生13名を含め、全職員では28.5歳、看護職員だけをみると26.8歳と若く、40代の若き?院長と共に、当会の先輩諸先生方を見習い、指導も得て、空まわりでない真に良い医療ができるように努めたい。
折りたたむ...老人病院の主治医に期待される役割とは何か。それは患者の精神・身体面すべてに及ぶもので、種々雑多な多くの要求に答えるものでなければならない。その中でもリハビリとの協力によるADLの向上は重要である。
老人病院に入院する患者には後遺症の軽重はあるにしても、脳卒中の既往があり、何らかの事件を契機にADLがひどく悪化したため、リハビリによって自立したいと希望する者が多い。主治医は患者を診察して基礎疾患を見究め、精神身体機能を評価した後、実現すべき目標を立てリハビリの処方を出す。しかし、ここで内科医はリハビリで目標を達成できるよう、リハビリ実施に当たっての阻害要因を明らかにし、その対策を立てておかねばならないのである。
リハビリの阻害要因は多数ある。ここでは筋緊張の異常、すなわち筋痙縮と硬直について述べてみよう。
筋緊張の異常に対してリハビリ自身が効果をもつことは確かであるが、それらに対して有効な薬物がある以上、薬物によって阻害要因を取り除き、リハビリの効果をいっそうたかめる方がよいことは明らかである。それらの例をあげてみよう。
症例1
68歳の男。1年前に脳梗塞となり左不全片麻痺を残し、リハビリに励んでいる。左上下肢の腱反射は著しく亢進し、足関節にはクローヌスが認められた。そのために歩行時に膝がガクガクして歩きにくい。そこで抗痙縮薬であるリオレサールを投与した。1日1錠では効果がなく、1日3錠にすると効き過ぎて脱力をきたし、左膝に力が入らなくなった。1日2錠にすると筋痙縮が適当に抑制され、歩きやすくなった。このように錐体路障害で不全麻痺があり、深部反射が亢進してクローヌスがあるため歩行が障害されているような場合、筋痙縮を抑制すると歩行が改善されることがある。
症例2
77歳の男。5年前よりADLが除々に低下し始め、パーキンソン病と診断されドーパを投与されていた。2年前には右不全片麻痺となり、脳梗塞と診断された。今回も右不全片麻痺がある日突然おこり、某病院で脳梗塞の診断で血栓溶解剤を投与された。数日して転院。MRIにて脳梗塞は否定された。パーキンソン病としてマドパー2錠、シンメトレル2錠を投与したところADLは急速に改善し、発病前の状態よりもよくなった。つまりこの症例は、脳梗塞ではなくパーキンソン病であり、パーキンソン病の治療が不適切であったことになる。パーキンソン病でなくても、脳卒中に合併したパーキンソニズムや、薬剤性のパーキンソニズムはよくみられるものである。これらの場合は筋硬直があるために身体が動きにくく、リハビリの効果もあがりにくい。
適切な治療をすればADLを改善し、リハビリの効果を改善しうるわけで、主治医の役割は大きいといわねばならない。
折りたたむ...老人医療”をテーマに
老人の専門医療を考える会第3回総合研究会が、3月14・15日に、医療法人社団主体会・社会福祉法人青山里会の施設を会場に四日市市において開催された。第2回を大幅に上回る187名が参加し、5部門に分かれ演題発表と討議を中心にすすめられた。全体を通してのコーディネーターに国立医療・病院管理研究所医療経済研究部小山秀夫氏、基調講演には国立療養所長病院浜村明徳氏を迎え、議論が交されたので、以下に概略を紹介することとする。
また、今回の総合研究会は小山田記念温泉病院(川村耕造理事長)に多大な協力を賜り、研修の一環として小山田老人施設の見学も組み入れた。紙面を借りて、心よりの御礼を表したい。
看護部門 演題数15
講師 漆原彰(大宮共立病院長)
平井基陽(秋津鴻池病院長)
介護部門 演題数11
講師 頴原健(武久病院理事長)
服部福徳(愛生病院理事長)
リハビリ部門 演題数6
講師 米田睦男(宮崎リハビリテーション学院副学院長)
吉岡充(上川病院理事長)
栄養士部門 演題数7
講師 最勝寺重芳(聖マリアンナ医科大学病院栄養部長)
松川フレディ(湘南長寿園病院長)
MSW部門 演題数5
講師 奥川幸子(東京都老人医療センターMSW)
大野和男(宮崎温泉リハビリテーション病院理事長)
特別発表
「当院の定額性導入と看護管理―老人患者のQOL向上を目指して―」
千田徳子(西円山病院看護部長)
老人のリハビリテーションPart3 浜村明徳
昨年度のテーマ、”QOL” をふり返りながら、今回は「生活障害と家族の評価、その援助」というテーマで話をすすめたい。
障害老人を、誰が、いつ、どこでケアするかをみた場合、目に見えない部分も含めた全体として見ることが大事である。援助のターゲットは「生活障害」という言葉に表されるといえよう。
生活障害の評価の仕方として、6評価があげられる。
全体討議 司会 小山秀夫
第1日目に行われた部門別演題発表の報告の後、講師の先生方より助言と今後の会の進め方への期待が話された。
栄養士部会を担当した最勝寺氏は、診療報酬改定で、適時適温というサービス、管理栄養士の常駐に点数加算されることになった。これからの時代は快適性が重視され、そのためには栄養部門への他職種からのバックアップが必要となる。選択メニューという考え方にしても、現在でも病棟側からのオーダーには対応しているのであるから、これを栄養部門側からを出発点とする発想の転換があればよい、と述べられた。
リハビリ部会の米田氏は、患者の障害の個々をみるのではなく、全体をみて生活をするにはどうしたらよいかを考えるようにすること。施設内のリハビリから、訪問リハビリの時代へと社会的体制もととのってきたので、施設とスタッフが一体となって取組もう、と語られた。
MSW部門の奥川氏からは、自分の仕事をきちんと見、言葉で表現できる能力を備えてなければならない。それぞれのもっている知識や技術を伝達し、会の共有財産をつくりあげていく。それが、実力のアップにつながり、患者、家族に反映されていくことになると思う、と述べられた。
司会の小山氏は、老人病院のスタッフ自身が、やってよかったと思える病院にしなければならない、とまとめられ総合研究会を締めくくった。
折りたたむ...平成4年5月30日、老人の専門医療を考える会平成4年度総会が、同会事務所において開催された。冒頭で天本宏会長より、「今回の診療報酬改定で、入院医療管理料には厚い点数配分がなされ位置づけも確立されてきたが、その質の管理がどのようになされるかが、今後注目されるところである。保健、福祉とともに老人医療全搬にわたるコミュニティ・ケアとして、老人病院が地域に果たす役割は大きい。当会としては、リハビリ部門の研修等をはじめ、今後も質の向上を目指していきたい」と挨拶がなされた。
議案の審議は、木下毅議長により進められた。平成3年度事業報告、会計報告、および平成4年度事業計画案、予算案について、満場一致で承認された。また、大塚宣夫副会長を編集委員長としてすすめられている「老人専門病院機能評価表」の改定も、今年度の主要事業の一つとして取組んでいく方針が固められた。
以上の審議の後、厚生省老人保健課長伊藤雅治氏を講師に迎え、記念講演「高齢者保健・医療・福祉の現状と課題」が開催された。
伊藤氏の講演では、人口構成の高齢化、疾病構造の変化等により、医療が保健・福祉と連携をとり、今後すすむべき方向性について述べられた。
要介護老人の処遇の現状は、施設入所によるものがかなりの割合を占める。しかも、長期入院に偏っているのが実際のところである。医療費の額からみても、在宅関係医療費は入院外医療費の約2.5%しかなく、手薄である。
そこで、老人保健医療福祉施設の基本方針として、まず介護サービスの質の向上があげられる。介護の費用をどこでみるか、ということも大きな問題であるが、入院医療管理料では診療報酬上に位置づけたということで大きく前進したといえよう。
次に在宅ケアの推進をはかり、住環境等の条件を整備していく。そして、福祉サービスとの一体化がはからなければならない。一人の老人が抱える問題に対応するには、縦割行政では解決できないからだ。
今後の課題として、老人医療のプラス・イメージを確立すること、そのためには医師の教育が求められる。さらに、老人保健福祉計画の策定と地域ケアシステムの構築、老人の施設ケアの一元化、介護費用のあり方についての検討をしていかなければならない、と語られた。
折りたたむ...11月から老人病院制度が変わる。現行の老人病院制度は、70歳以上の老人患者が60%以上であり、かつ特例許可、基準看護、伝染病院、知事認定病院の承認を受けていない病院を許可外老人としている。
今回の改正は、許可外であっても医療法標準以上の看護職が確保されているか、小規模外科などの病院を適用除外に新しく加えるものである。
このことにより特例許可外の病院のうち、いくつかは一般病院として取り扱うことになる。ただし、著しく看護・介護職員が少ない病院は、重点指導対象病院として改善指導が行われる。
一方、特例許可の要件も緩和され、従来の「65歳以上70%」が「60%以上、かつ65歳以上老人慢性疾患患者と一般の長期療養患者の合計が70%以上」となり、特例許可が取りやすくなる。
つまり、特例許可外制度は廃止され、老人病院になりたくない病院は一般病院へ、自ら進んでなりたい病院は特例許可をということになる。
一般病院が特例許可をうけたい理由は、入院医療管理料を導入することであり、老人病院になりたくない病院は、4対1の看護職を確保するか外科系病院ということになる。
このような見直しは、医療法改正をにらんだもので、療養型病床群に入院医療管理料導入病院が参加しやすくする効果がある。
ただし、現在医療審議会で審議されている療養型が、病床面積4.3平方メートルの1.5倍、一室4人部屋となれば、入院医療管理料病院から療養型移行は僅かとなるであろう。
いずれにせよ、10月までには医療法の細則が決定されるが、入院医療管理料病院が移行しやすい基準にしないと、療養型への移行が僅かとなるであろう。
当会としても、老人専門病院の主張を行い、医療法と老人保健法の整合性を確保する運動を展開したい。
入院医療管理料導入病院連絡会が第6回全体会議を開催
9月に全国大会を!
6月6日に入院医療管理料導入病院連絡会の第6回全体会議が新宿・京王プラザホテルにおいて開催され、今後の同連絡会のあり方についての討議と厚生省老人保健課長伊藤雅治氏の講演が行われた。
討議では、入院医療管理料導入病院は、老人医療の質の向上のため、一層の努力をしていくこと。同連絡会は、連絡調整および研究の場として活動を強化し、定期的な会合を設定すること、等が決議された。
休憩をはさみ懇談会が開かれ、その席で吉岡充氏(上川病院理事長)、漆原彰氏(大宮共立病院長)を代表とする世話人に二五名が選出された。
なお、当面の同連絡会の活動は以下のとおりである。
<第1回世話人会>
7月25日午後1時半〜4時 都イン・東京
<全国大会>
9月26日 銀座ガスホール
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