老人医療NEWS第120号 |
介護保険制度が本格実施され12年が経過した。2006年に診療報酬と介護報酬が同時改定されたが、診療報酬本体はマイナス1.36%、薬価等を含めた全体で実質3.16%のマイナスだった。介護報酬については、前年10月の改定を含めるとマイナス2.4%であった。この年の6月には高齢者医療確保法が国会で成立し、医療・介護界全体が、重い空気に包み込まれた。06年の同時改定は、今回の改定と比較してみると政策展開のプレリュードであったとも考えることもできるが、第三次小泉内閣の「痛みを伴う改革」に耐えきれなくなってきていた。
今回の改定は、第一に、医療と介護の連携強化、第二に、地域包括ケアシステムへの対応、第三に、2025年に向けた明確な設計図という点において、私は高く評価している。
昔話しになるが、1984年2月に創設された老人診療報酬は、徹底的な老人病院イジメの仕組みで、その後、介護力強化病院、療養病床群、そして療養病床とバトンが受け継がれた。訪問看護やその後の老人訪問看護ステーションも、老人保健施設制度も、全てが老人診療報酬の仕組みの中で、考えられてきたことだ。
老人診療報酬で新たに組み込まれた仕組みを、診療報酬でも採用してきたといってもよいと思う。2000年以降は、介護報酬が診療報酬をリードしてきた部分があることは確かである。より正確にいえば、老人診療報酬も介護報酬も思い切った政策展開が診療報酬よりやりやすい環境があったということもできる。
この意味で、医療と介護の連携強化という方針は06年に示されたものの不十分であったが、今回は全体的に整理が進められ、医療と介護が同一線上にきれいに並んだことは、前進であると思う。
地域包括ケアシステムについては、考え方としては理解できても、医療との関係や介護報酬上どのような仕組みとするのかといった点が不透明であった。定期巡回・随時対応型訪問介護看護や複合型サービスの介護報酬新設は、政策立案能力が高いし、機能強化型在宅支援診療所・病院への配慮もメリハリがきいている。
2025年に向けた第一歩とも説明された今回改定は、6年後にはより強化され、12年後には確立させなければ、日本の社会を支え切れないという政策担当者の熱意を感じる。
今回の改定劇を時系列でみると、厚労省の担当者は、利害関係者と話し合い、十分に意見を集約した上で、可能な限り要望に誠意を持って対応していたと思う。ただ、それでも財政的制約があり、十分な経済評価ができなかった部分もあると思う。
ターミナル・ケアや認知症対応あるいはケアマネジメントの質という点では、まだまだ改善の余地があるし、7対1看護やDPC病院が急増し、病床利用率が低下傾向にあることを考え合わせると、急性期にだけ診療報酬財源を振り向けるのではなく、慢性期や在宅にもっと目を向けた新設計図をしっかり示して欲しい。折りたたむ...
私は、平成12年に今の病院に入職して以来、病院長となった現在でも回復期リハ病棟専従医の立場でチームの一員として働いている。今回、私の「現場」である回復期リハ病棟について、先達の文章を紹介し、若干の私見を述べさせて頂こうと思う。
今回の題名にある「回復期の関心のベクトルはどっち向き?」という言葉は、かの大田仁史先生の4年前の講演集の中に有る言葉である。大田先生の「幸い、回復期リハビリテーション病棟ができて、医療としてはっきりリハビリテーションの位置づけがされました。しかし気をつけなくてはいけないのは、それであまりに急性期のほうへ関心が偏ってしまうと、リハビリテーションが、いままでどちらかというと批判的に見てきた近代医療と同じ流れに巻き込まれるおそれがあることです。それは地域で生活している人たち、あるいはそういう人たちを支援している福祉関係の人から見たときに、リハビリテーションは、やっぱり今までの医療・医学の中に埋没していってしまうのか、そういうものだったのか、生活を見ているわれわれと違うじゃないか、という感じをもってしまわれかねません」、「急性期と維持期、終末期の双方向にバランスよく力を注ぐのがリハビリテーションの使命だと私は思います。特に回復期リハビリテーションはそのような使命をになっていると思います」との言葉は、大田先生が全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会の初代会長であることからも、回復期リハの現場で働く我々にとって重く受け止めねばならない言葉だと思ってきた。
昨今は回復期リハ関連の講演や文章も「回復期リハ病棟は急性期病院の在院日数短縮をうけ、発症早期の重度の患者を受け入れることが多くなっている」といった枕詞から始まっていることが多い。もちろん脳卒中など早期から集中的なリハを行うことは常識であり、急性期一般病院での高齢救急患者の増加や機能分化による地域医療連携の流れの中では、早期に然るべき後方医療機関に患者を委ねることは当然だと思う。しかしながら同様に回復期リハ病棟も、早期入院は当然だとしても、回復期以降の維持期リハとの連携、調整が不十分なまま退院させ、在院日数の短縮や病床回転率といったことに重きをおいていることはないだろうか。大田先生は自ら言われたことを「深読みした」と話しておられたが、前回の診療報酬改定における回復期リハ病棟での重症患者の基準(日常生活機能評価)、重症患者回復病棟加算算定の基準、そして今回の診療報酬改定における医療処置の基準(看護必要度A項目)の導入と、回復期リハのベクトルがより急性期に向うための基準が盛り込まれてきていることは、講演から4年経った今、そのよみは当たっているように思える。
現状、多くの回復期リハ病棟においてはベクトルは急性期に向いているし、当初は維持期にも向いていたベクトルは相対的に少なくなってきているのではないだろうか。制度を否定するものではないが、「急性期と維持期、終末期の双方向にバランスよく力を注ぐのがリハビリテーションの使命であり、特に回復期リハビリテーションはそのような使命を担っている」というメッセージをもう一度重く受け止め、患者、家族、そして地域のためにバランスのとれた回復期リハ病棟の役割を再認識していく必要があるだろう。
(参考)大田仁史『芯から支える維持期リハビリをめざして』荘道社
折りたたむ...認知症という病気は同時に患者を2人作ると聞いて、なるほどと思いました。確かに認知症という病気は、患者さん本人の認知機能や実行能力を奪い、尊厳をなくしてしまうだけでなく、そのことで同時に、ご家族をまるで病人のように憂鬱にしたり、意欲や食欲をなくさせたり、眠れないような状況に陥らせたりします。そのため、認知症の方が家族に1人いることで、介護者もまるで病気になったようにイライラしたり、疲れたり、途方にくれたりしています。
この数年間で国を挙げた施策として、認知症啓発や認知症予防に取り組まれていますが、残念なことに、このところ介護殺人や無理心中が立て続けに報道されています。
なぜ、こういった不幸な事件が減らないのでしょうか。背景を考えると、やはり家族介護が心身ともに大変であることが挙げられます。さらには、こういった心身ともに大変さを抱えているにもかかわらず、他人には分りにくく、まだまだ認知症が病気であるという市民の認識も低いため、認知症だとわかっていても、「恥ずかしい」とか、「人には言えない」とか、「人に迷惑をかけられない」といった、マイナスイメージがついて回り、誰にも助けを求めることができないと想像できます。事件が起こってから、あの時もっと関わればよかった、と思うのでは遅すぎるのです。
では、私たちに何ができるのかと考えてみましょう。それには、1人でも多くの医療従事者や介護関係者が、認知症の方やご家族、さらには一般市民の方に向けて、「認知症はみんなで支える病気である」ということを、もっともっと伝えていかなければなりません。もちろんそのためには、医療従事者、介護関係者が、一般の方よりも専門的に認知症を理解し、支援する姿勢を持っていることが前提になります。そのためには、まだまだ職員向けの啓発も不足しているのかもしれません。
昨年から認知症の薬の種類が増えましたが、私は薬物よりも、非薬物療法としてのアクティビティよりも、もっともっと認知症の方をよくすることは、介護者の理解と笑顔だと思います。実際に、私の外来患者さんでも、ご家族が認知症をよく理解し、対応が変わることで、初期の方では、薬を使わずに生活が続けられたり、同じような認知機能のテスト結果でも、理解のある家庭にいる方のほうが薬の効果が相乗的に感じられるといったことがあります。
さらに、私たちが取り組めることとして、ご家族を休ませることが重要です。ご家族も、医療従事者や介護関係者がその負担を理解して、一緒に考えたり、時には大変さをこちらがすべて受け取ったり、上手に休んだり、リラックスしたりできる状況を作ることで、より負担感を軽減させ、患者さんに安定して接することができれば、家族に対して怒ったり、言い返したり、家族と言い合って家を出たりといった、認知症患者さんの行動・心理症状(BPSD)を作らずにすみます。笑顔が笑顔の連鎖を呼ぶことを、家族に実感してもらえるよう支援する必要があります。
とはいえ、施設職員でも介護が難しいと言われている認知症のケアですが、ご家族は24時間365日、切れ目なく生活を共にしなければなりません。いつもいつも、家族が我慢したり、いわれてばかりではつらいという現実にも目を向け、10回のうちに1回でも穏やかな対応が出来ればいいんですよ、といった具体的な言葉かけをしながら負担を共有することも重要です。
1つでも不幸な事件が減るように、まだまだ私たちは真摯に取り組まなければなりません。
折りたたむ...診療・介護報酬の同時改定の内容を「地域包括ケアシステム確立に向けた本気度」という観点からみると、迫力というか熱気を感じる。在宅医療を担う医療機関の役割分担や連携を強化するという理由で、24時間や緊急時対応に誘導している。
前回改定で生まれた「地域貢献加算」は「時間外対応加算」に名称変更され、何しろ診療所で時間外対応して欲しいという本音がみえる。
在宅療養支援診療所(支援病院)に機能強化型が加わった。これは、常勤医師3名以上(単独でもグループでも可)、過去1年間の緊急往診5件以上、看取り実績2件以上の場合に機能が強化されたと判断され、病床を有し処方せんを交付しなければ5300点が算定できるというもので、一般の在宅支援の2割増である。さらに、往診料の緊急加算と夜間加算も3割増となった。訪問診療料の乳幼児・幼児加算や在宅難治性皮膚疾患処置指導管理料などは2倍の点数となり、在宅ターミナルに関する訪問診療・看護も実質的に大幅に引き上げられた。
訪問診療については、介護報酬の各種加算と名称や加算額を統一した上で、退院当日や退院直後の評価をはじめ、多くの点で見直しが進められた。看護補助者との同行訪問(週3回まで)が可能となったことは、訪問看護の幅が広がるという意味でも大きな前進であると思う。
介護報酬では、なんといっても、定期巡回・随時対応型訪問介護看護の新設が注目である。詳細は書かないが、よく考えられていると思う。これを自院だけで展開できるかと考えると、決して容易ではない。ただし、この事業を自院が立地する診療圏で他の法人が幅広く展開されてしまうと、いずれ在宅療養者は、このシステムに囲い込まれてしまう。
サービス付き高齢者住宅に関しても同様の脅威がある。特定施設に在宅医療・看護・リハビリテーションや介護までのフルバージョンを併設すれば、利用者全員の囲い込みに成功することになる。
当会の初代会長である天本宏先生が、多摩ニュータウンで「あいセーフティネット」を展開され、優秀な実践を進められていることは、会員の多くが知っている。この関係もあり、当会会員で在宅ケアを展開している会員は少なくない。しかし、「ローマは1日にしてならず」という状況下で、在宅展開に全面的に踏み切れない、あるいはどうしても人材とノウハウが集まらないという会員もいる。ここが分かれ道だということはわかるが、会員全員が同じ方針で進むことはないであろう。
今回の同時改定は「地域包括ケアシステムの実現」に向けた第一歩だと厚労省は何度もいっている。確かにそうなのだろう。では、第二歩、第三歩はどのような工夫をしてくるのか、想像できない。何がなんでも在宅重視ということで、診療による経済誘導を続けるだけで新しいケアシステムが構築できるとは限らないとも思ってしまう。
厚労省保険局の平成22年7月1日時点で、在宅療養支援診療所届出数は12,000強で、そのうち在宅看取りを1名以上行ったのは、5,833診療所だったという。これを在支病院でみると、届出331病院、在宅で看取ったのは、僅か130病院だったと報告している。
まず、この実態を変える必要がある。200床未満の会員病院は、届出をし、1名でも在宅看取りを行ってみない限り、在宅へ進めない。その上で、在支診と連携を進め、訪問看護を進め、24時間、365日在宅療養を支援する体制を院内に確立することが必要である。
当会は、厚労省の地域包括への取り組み本気度を本物と判断している。
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