こぼれ話

老人医療NEWS第103号

今回のインフルエンザ騒動を振り返って

武久病院   院長   頴原 隆

昨今、新型インフルエンザが何かと話題になっている。勢いはやや衰えつつあるものの全国的な拡がりをみせているようである。

ただ我々老人医療従事者にとって不幸中の幸いであったのが、今回のウィルスは高齢者においては感染力が低く(あるいは症状不顕か?)、今のところは入院患者に対しての影響がほとんどないことである。

しかしながら医療機関としては当然対策を講じる必要があり、当院においてもいち早く対策室を設置し対策を講じた。ある程度の混乱は予想していたものの、想定外の事例が多々起こり、あらためてその対策の難しさを実感させられた。

とくにウィルスの伝播スピードは驚異的であり、海外発生期から国内発生期、そして関西地方における局所的流行まで約一ヶ月足らずしか経過しておらず、常に後手後手に回ってしまった印象である。また、スタッフやその同居者の流行地への渡航滞在の把握など新興感染症ならではの対応策が求められるなど新たな問題点が多く浮上した。

実際、国内発生初期段階で新型インフルエンザの流行を知らずに流行地へ往来したスタッフが、帰郷後に感冒症状を発症し大騒ぎになるなど、新型インフルエンザを足もとまで感じることもあった(簡易検査においてインフルエンザ感染は確認されず事なきに終った)。

今でこそウィルスの毒性や既得免疫のことなど概要が少しずつわかってきてはいるが、そのころの関西地方の医療従事者の方々の心痛がいかほどであっただろうかとお察しする次第である。

インフルエンザウィルスの感染経路はウィルスの型を問わず、飛沫感染が主体であるといわれている。我々の医療現場(療養病床)においては歩行可能な患者はさほど多くなく、感染経路の多くは医療従事者、または見舞い者からの飛沫感染、あるいは医療従事者の手を介しての接触感染がほとんどであると思われる。

病院でできる対応としては、ワクチン接種や病院としての水際対策は当然のこととし、その他普段から、手洗いや手袋の使用などの感染予防策を徹底し、咳エチケットなど教育を充実させ習慣づけておく必要がある(マスクなど予防資材の無計画な使用は流行期の資源不足に拍車をかける可能性がある)。

こうした習慣は急につくものではないが、普段からの対策(教育)こそが院内でのアウトブレイクを防ぐための最も有効な手段であると、あらためて痛感したところである。

インフルエンザウィルスはその型により感染力、毒性、そして既得抗体の有無などそれぞれの特徴を有するが、高齢者にとってはたとえ弱毒性であっても、いったん感染してしまえば致死的になることが往々にしてある。実際、過去の例においても高齢者施設で季節性インフルエンザが致死的な流行をきたしたことは周知の事実である。

少し乱暴な言い方になるが、ウィルスが自施設周辺である程度蔓延してしまった状況においては、新型であろうが既知の型であろうがその対策法に大きな差異はないであろう。たとえ新興のインフルエンザ(または未知の感染症)であろうと通常の感染制御をしっかりと行っていれば院内における被害を最小限に食い止めることができるはずだ。

当たり前のことではあるが、感染制御の必要性は急性期病床に限ったものではない。老人医療に携わる我々だからこそ、院内感染に対する意識をより強くするべきである。

最後にこの場を借りて一言。

今回の新型インフルエンザを含め、新興感染症に対し最前線で体を張って対応して下さっている医療従事者や関連スタッフの皆様に対し心よりの敬意と感謝の意を表します。(21/7)
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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE