こぼれ話
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老人医療NEWS第101号 |
世界で高齢化最前線の日本においては、老人医療、特に慢性期医療の提供は、とても重要なことです。老人の専門医療を考える会では、本来、慢性期医療はどうあるべきか、どうすれば患者、職員が笑顔でいることができる医療提供体制を構築できるのかを指標として確認し、公表していくかを検討しています。
そこで、平成二十年二月に老人医療の質の評価プロジェクト委員会を発足させました。老人医療の質を評価するにはどうしたらよいか、現行の老人病院機能評価マニュアルと併用してどのような臨床指標を創るべきかを考え、平成二十年四月第二回の委員会では様々な機能を持つ十三病院の先生方を委員会メンバーとして議論しました。指標は、在宅支援、リハビリテーション、認知症、そしてターミナルを網羅し、定期的に各病院、病棟で収集しやすいこと、その指標を良くするための業務改善が可能なこと、そして、患者の笑顔や、職員の努力が報われている状況を把握できることを基本に考えたいと思います。世界に通用する指標にするために東邦大学医学部社会医学講座の長谷川友紀教授にも研究サポーターとしてご協力いただいています。
これらの条件での臨床指標作成のために平成二十年九月にワークショップが開催され、以下に述べる八項目の臨床指標が採択されました。十月に委員会の各病院で実際に評価し、問題点の抽出、改良を行い、十二月に再度評価し改善しました。非常にすばらしい臨床指標ができつつあります。
@経口摂取支援率:入院している方々に多い病態に嚥下障害があります。少しでも口から食べる希望をかなえる治療やケアを、どれだけ多く行っているかを評価した数値。
Aリハビリテーション実施率:入院している方々の多くは日常動作の何らかの介助が必要とされ、肺炎や尿路感染症などの合併症や全身の機能の衰えていく廃用性症候群にならないよう、生きる意欲や歓びを刺激するリハビリテーションをどれだけ多く実施しているかを評価した数値。
B安心感のある自宅退院率:合併症の医療継続や介助量を必要とされている方々が、退院後安心して自宅生活を継続できている状況を評価した数値。
C退院前カンファレンス開催率:安心して自宅または施設での生活に繋げるための準備を十分行われているかの状況を評価した数値。
D有熱回避率:入院している方々の多くは、何らかの合併症を併発しやすく、発熱することが予想されます。様々な原因での発熱を起こさないようケアされているかの状況を評価した数値。
E身体抑制回避率:認知症など今の状況を判断できなくなっている方々が多く入院しています。治療を進める中で、安易に手足を縛るような身体抑制は、認知症の更なる悪化に繋がります。尊厳を重視されているかの状況を評価した数値。
F新規褥瘡発生回避率:麻痺や意識障害など自分で体動することが出来ず、褥瘡を発症しやすい状態の方が多く入院しています。入院後新たに褥瘡が発症することのないように、様々な評価やケアが適切に行われているかの状況を評価した数値。
G転倒転落防止率:加齢による運動機能の低下や麻痺など身体疾患、精神安定剤などの内服薬、そして段差などの物理的環境などにより、転倒転落の可能性は高まります。転倒転落を防止する評価やケア、安全への配慮、危険の予測が適切に行われているかの状況を評価した数値。
以上八項目。平成二十一年春ごろまでには、細かい運用マニュアルも作成できると思います。ご期待ください。
日本の慢性期医療が世界に通用し、安心かつ選ばれるレベルになっていくことを願っています。(21/3)