老人医療NEWS第24号 |
「人間は、病院で死を迎えるときでも、自らの死にどきを自ら選んで(決めて)死んでゆくものなんだなあ」と、近頃の私は実感している。
勿論、死に際に過剰な延命治療を施されていないという条件が要る。自宅死であれば、なおさらその感を強く抱いている。これは、私がMSWとして老人医療の場にあって、患者の肉体よりも生活者としての患者の在りようと関係性の中で生きて死んでゆく患者の姿により焦点を当てて仕事をさせてもらってきたからだろう。つまり、私たちは彼らの生活と関係性の在りようを過去から現在、そして未来へと照射しながら、「今、どこにいるのか」をしっかりポジショニングした上で、その個別性を侵さないように心している。すると、担当させてもらった患者が死を迎えるとき、関係性の中での死が強烈に浮かび上がり、人が死んでゆくタイミングの不思議にうならされる。
死にどきのアレンジメントの妙がはっきりあらわれるのは、老夫婦の相次ぐ死であるが、私が体験した中でもひときわ印象に残っているふたりの死がある。
80代の老夫が、病弱で重い障害を抱えている70代の老妻を、夫の熱意からこれ以上は望みようのないレベルの病院治療を受けさせた後に、自宅で1年半看病した例であった。医療スタッフの反対を押し切って、医療依存と介護依存の高い老妻を病院から自宅に引き取ると決めたとき、夫は「皆が親切に施設に入るよう勧めてくれた。私も一時は迷った。でも、妻は家に帰りたいと言う。私もできるだけ長く妻と一繕に暮らしたい。そのために妻の身体が悪化するようなことがあってもしかたないと思う。だから妻を家に連れて帰る」と、私に言った。夫は妻のいのちをみきることも含めた上で、妻との関係性と生活を選んだのだ。
その後、地域の医療機関や福祉サービスと近隣の友人やボランティアたちの支援も手伝って、夫はその生活時間の全てをぎりぎり妻と白分のいのちを保つことに費していた。
そして1年半後、夫は腰痛で妻の介護を断念せざるをえなくなった。医師の診断は腰痛だったが実は、末期の膵臓ガンだった。この場合、誤診(あるいは見逃がし)は、結果的には効を奏した。妻は病院に入った日から3日目、元気に夕食を平げた数時間後にトランスファーショックとしか考えられない死を迎えた。夫は妻の亡き骸を自宅に引き取り、通夜を経て葬儀を終えた翌日ロ、自ら病院に入り、数ケ月後のお盆の中日に他界した。まるで亡き妻が彼岸からお迎えにきたかのような不思議な暗合が作用したとしか思えない、ふたりの死だった。
折りたたむ...リ八ビリテーションと共に歩む
介護力強化病院としての新たなスタート
当宮崎温泉病院は宮崎駅から車で15分、市内バスの終点と交通利便な地にあり、理学療法士五名を擁しリハビリを中心とした医療に取り組む190床の特例許可病院です。平成3年2月1日付で入院医療管理料ーの承認を受け介護力強化病院として新たなスタートを切ったところです。
当院は基幹病院(潤和会記念病院)の性格上、脳血管障害患者が殆どで何らかの麻痺があるため介助を要し、4名の常勤医を柱に看護婦は定数33名に対し42名、介護職員は定数50名に対し57名を配置し、これに理学療法士五名を加えた充実したスタッフによる医療、看護、リハビリ及び身の廻りのお世話まで、家庭復帰を願って職務にあたっています。また、給食職員及び介護職員を中心に職員一致の協力のもと、従来5時だった夕食の配膳時間を5時30分に変更し、患者の立場に立ったサービスを心掛けています。
患者の身体的能力に応じたリハビリテーション
当院の特徴は、病棟毎に性格付けをし4病棟のうち3個病棟をリハビリ病棟、1個病棟を長期療養を必要とする患者を収容する病棟と位置付け、また3個病棟のリハビリ病棟も同程度の患者を色分けして配置することにより効率的なリハビリ対応と、患者のリハビリに対する積極性を引き出すよう心掛けています。
従って、入院時の面談を密に行い、その資料を元に患者に合った病棟配置を行うと共に、家族の方に将来の方向性を出して頂き、家族状況からみて家庭復帰が難しい場合は入院時に施設への入所申請をして頂き、その他の方については財団各施設の持つ能力をフルに発揮して自宅退院へ向けてのお手伝いをしています。以下に財団紹介と財団各施設の在宅療養へ向けてのメニューを紹介します。
リハビリテーションの振興と在宅へ向けての試み
当院の経営母体は、財団法人潤和リハビリテーション振興財団で、その名のとおり理学療法士の育成からリハビリテーションを重視した医療及びリハビリテーションの研究啓蒙まで、正にリハビリテーションの振興に心血を注いでいます。また、当財団は関連施設も含めた総合的な在宅支援事業を展開しており、各施設の在宅へ向けての取組みについて簡単に触れたいと思います。
その他各施設退院者に対するホームエヴァ、市町村老人保健事業(機能訓練と訪問指導)へのPT派遣、各ケースワーカー相互のカンファレンスによる患者及び家族状況に応じた施設への移転等在宅へ向けての決め細かいサービスを取り入れています。
以上の多種多様な在宅支援事業のおかげで当院の年間退院者数は63年度74名だったのが、平成元年度151名、平成2年度151名と推移しており平成2年度は平成元年度と同数ですが、これは死亡退院の減によるもので、家庭復帰は42名から50名に、施設入所は15名から 36名にと増加しています。
今後の要介護老人の増加を考えると、私達医療人の老人に対する全人的医療が期待され、診断、治療、看護、介護、リハビリテーションが一体となったよりよいチーム医療が今後ますます推し進められることと思います。
折りたたむ...痴呆性疾患は内科医、神経内科医、精神科医によって診療が行なわれているが、それぞれがまったく違った視点で観察が行なわれ、治療がなされている。
一般的に家族の中に痴呆患者が出ると、まず内科医を受診し血圧が測定され、胸部の聴打診、胸部レントゲン、EKG、採血等が行なわれる。異常なしだとすると、「体に異常はありません。少し呆けがありますので、お薬を出しましょう」などと循環改善剤、脳代謝改善剤が投与されたりする。そこまでなら別に問題はないが、夜間せん妄等の行動異常があると多量のジアゼバムなどが与えられ、せん妄の改善が見られないばかりか、患者は脱力をきたし寝たきりになってしまうことさえあるだろう。
一般内科医にとって、痴呆は自分の専門外の領域だと考えている人が多い。身体症状がない場合には、半分あきらめの気持ちでただ途方に暮れるばかりである。
内科医が困り果て、神経内科に紹介された患者はそこで一応の歓迎を受ける。神経内科医は眼球運動、瞳孔、腱反射、筋卜ーヌス等々細かな神経所見をとる。ところが痴呆患者はあまり神経学的所見を示さず、そこで即CTやMRIとかの検査が行なわれる。
神経内科の診断のよりどころは結局、画像診断のみとなってしまう。神経内科医はアルツハイマー型だとか血管型だとか、はたまたピック病だとかを画像診断だけでつけてしまうのである。
痴呆はもとより脳の器質的変化によってもたらされた病気であるが、症状として表われてくるのは精神現象の変化である。神経内科医はこの精神症状を診ることはしない。診るとしたらせいぜい長谷川式デメンツスケール程度のものである。彼等は精神現象にはまったく興味を示さない。精神現象を適確にとらえ、記述し、それに対応した治療法を選択していかなければ十分とは言えない。
癒呆の中核症状となる記憶障害、失行、失認、人格変化等は薬物療法ではまだ十分な効果は与えられないが、多くの場合、夜間せん妄、抑うつ状態、物を盗られたなどの被害妄想、幻覚、感情失禁、不安、焦燥感などが混在している。これらの症状はメジャー、時にマイナートランキライザー、抗うつ剤、脳代謝・循環改善剤、抗パーキンソン薬などを駆使し、各老人に対する適応量を熟知することで、かなりの数の痴呆老人を改善せしめることができる。
それでは痴呆患者が精神科にかかれば良いかというと一概にそうはいかない。精神科といってもあまりにその分野が広いので、精神病理や精神療法を専門にしている先生もいれば痴呆を専門にしている先生までさまざまだ。内科では循環器を専門にしているとしても呼吸器疾患も診れるといったことはあるが、精神科に限っては、ノイローゼを専門にしている先生が痴呆は診れないなどということも良くある。これは痴呆が身体医学と精神医学の境界線上にある疾患群であるためだ。この点が痴呆の臨床現場において多くの混乱を引き起こしている原因でもある。 痴呆性患者を診る時には、脳の変化を含めた身体的側面と精神的側面の両方の知識が十分に必要である。
折りたたむ...昨年4月1日の診療報酬改定で特例許可老人病院入院医療管理料が新設された。3月末現在で142の特例許可老人病院が承認を受け、その病床数は23,185床に上っている。
老人病院の在り方を問い続けてきた当会としても、入院医療管理料の導入がよりよい老人医療への一助となるよう、当会会員のみならず同承認病院全体に呼びかけ連絡会を発足するに至った。第1回会合は11月16日に東京・霞山会館で開催され、38病院が出席した。同会合では、厚生省老人保健課長伊藤雅治氏からも同連絡会への期待が述べられた。
その後、12月15、16日に東京・京王プラザホテルで、2月16、17日に都イン・東京で医師によるワークショップが開催された。コーディネーターは国立医療・病院管理研究所医療経済研究部室長小山秀夫氏、出席者数はそれぞれ35名、37名であった。
また、同連絡会は当会幹事吉岡充氏、漆原彰氏を世話人とし、今後も継続していく予定である。
老人病院は社会的存在として生まれ育ってきた。患者・家族から寄せられる期待、病院の果たすべき役割と実態など、そこにはさまざまなミスマッチや問題を抱えている。今回の入院医療管理料の新設を老人病院がどう評価し、また、今後どう生かしていくべきなのか。2回のワークショップを通し議論された概要を以下に記す。
以上のような現状での問題点等を踏まえ、今後への取組みを考えてみれば、
七五三病棟が発足して1年が過ぎた。この制度により老人病院にはどういうことが起きたのか。患者やスタッフは果たして以前よりも幸福になったのだろうか。
スタッフ側からみれば、マンパワーの増強と治療方針が看護・介護に重点が移行したことにより、時間的余裕が出来た。検査や点滴の減少等によりゆとりができたことには、当初戸惑いもあったようであるが、自然と患者の側に足を向ける結果となった。患者にとっても介護力の強化は行動範囲を広げ、生活のメリハリをつげることとなりQOLを向上させることとなった。
また、七五三制度は収支面においても改善の余地をもたらしたということより、全体として大きく評価できるであろう。
ただ、先にあげたように多くの課題もまだ山積みになっており、七五三病院の運営基盤の確立のためには、まず、他制度との差を明確に示す必要がある。そして高い質のサービスを提供していく。さらに社会的評価も得なければならない。
紆余曲折してきた老人病院であるが、社会的地位を確保するためには今後の努力こそが大切となってくるであろう。ハード面、ソフト面を充実させるには制度的バックアップが求められるし、老人医療の基本は守り続けていかなければならない。
第3回目のワークショップは5月26日に京都で開催予定である。老人医療の実践者として一堂に会し、討議を積み重ねていくことを大切によりよい老人医療へとつなげたい。
折りたたむ...老人の専門医療を考える会では、昨年11月10、11日に目黒さつき会館(東京)において第二回総合研究会を関催した。昨年度の4部会に加え、今回はMSW部会も加わり総勢119名の参加となった。
発表演題数は、リハビリ部会四題、栄養士部会8題、看護部会7題、介護部会3題、MSW部会5題である。第1日目は、国立療養所長崎病院理学診療科医長・浜村明徳氏の基調講演と、各部会に分かれての演題発表、第2日目は、国立医療・病院管理研究所・小山秀夫氏を司会に全体討議が行われた。
基調講漬では、浜村明徳氏より老人医療・リハビリテーション医療の基本概念としてQOL(生活の質)があることを強調された。それでは老人のQOLとは何か。それは、健康と医療の保障、家族関係の安定、経済的保障、活動性の向上、ADL能力の保障と維待、があることであろう。ここで、老人医療がQOL向上のために求められる視点を考えてみると、まず、バランスのとれた日常生活、生活感のある病棟での療養があげられよう。社会と病院の時計のズレも見直す必要がある。次に、早期に生活感覚が取り戻せるように生活環境を充実し、早期ADLを確立することである。外泊訓練や家族とのつながりも重要だ。そして個人の能力にあった活動ができるようなプログラムの提供や環境を作り出すようにする。さらに、家庭復帰を模索し続ける医療として、退院後までフォローアップする体制作りも忘れてはならない、とまとめられた。
全体討議は演題発表の成果をふまえ、小山秀夫氏の司会によってすすめられた。MSW部会講師の東京都老人医療センターMSW・奥川幸子氏からは、臨床家の目で患者がどういう位置にいるのかを多角度からとらえられなげればならないし、また老人病院自体の位置付けも把握していなければならない、と述べられた。栄養士部会講師の聖マリアンナ医大栄養部長・最勝寺重芳先生は食事のQOLは味であり、人とのつながりを深めることだ、と言われ、会席風メニューの工夫を、と助言された。QOLに焦点をあてた今回の研究会は大きな拍手で幕を閉じた。
折りたたむ...厚生省老人保健課は、入院医療管理料承認病院実態調査の結果を公表した。この調査は、平成2年11月末までに承認を受けた108病院を対象とし、86病院から回答を得たもので、原則として平成2年1月と平成3年1月の各1か月間を調査したものである。
その結果、医業収入は、承認前に比べ10.1%増加し、医療費用は同3.7%増加した。収支では62.4%の増となった。医業費用の内訳をみると、給与費が15.8%増加したのに対して、医薬品費が31.3%の減少、診療材料費が10.1%の減少となっている。この調査結果から、七五三病院は、医業収支が好転し、医薬品費と診療材料費が減少したことになる。
平成2年度の一般病院の医業収支は、平成元年に比べ悪化している。さらに、人件費の上昇などで平成3年度の医業収支は、平成2年以上に悪化すると考えられる。
老人病院の経営特徴のひとつとして、医業外費用が大きいことがあげられる。医業外費用の大部分は、金利であるから、老人病院の金利負担が大きいという意見である。これは、この10年前後に新設した病院が多いことを物語っているともいえる。
問題は、医業収支は改善しても、金利の上昇により、税引前利益が減少している病院があることである。七五三によって、せっかく改善した収支が、金利の上昇によって相殺されてしまうことである。 ただし、金利の上昇は、一般病院にもみられ、同一状態といってしまえばそれまでだが、老人の専門医療の確立をめざして、老人病院を開設した病院は、開設後の経過年数が、一般病院より短いことにより、金利負担が相対的に大きいことを理解すべきである。
七五三病院以外の一般病院から「老人病院だけが収支改善するのは問題だ」という声が聴かれるが、財務内容や開設後年数などによる比較検討結果を示すべきであろう。
また、収支改善した七五三病院は、改善した部分を、院内の患者サービスの向上や、職員の労働環境の改善に向けておく必要があろう。少なくとも「介護人だけ増して、収益を上げ、薬を少なくして収支改善しているだけ」という批判を長期間受けることは、望ましくない。
病院経営については、各種の意見があるが、他の病院との比較より、社会福祉施設や老人保健施設との比較に重点を置くべきであるとともに、他産業との比較も必要である。
七五三病院の収支が改善したといっても、医業収入比で約11%であった医業収支が約16%になったにすぎない。税引前利益を計算すれば、医業収入比で5%程度にすぎない。
経営収支で15%、税引前利益で5%といえば、事業としてはなんとかやっていける最低限の比率である。しかし、病院の労働条件などを考えると、人件費は今後も上昇せざるをえないし、資本集積が困難な状況で金利が上昇したままでは、決して有利な事業とはいえない。
当会は、これまで老人の専門医療の確立のため努力してきたが、今後は、老人の専門医療を実践する場である病院の経営問題についても、積極的に発言すべきであろう。
来年4月の老人診療報酬の改定がどうなるのかが気がかりだが、当会として、どうするかを、秋までに決めなければならない。
今年の夏は、海辺で休養しながら、じっくり経営問題を考える時期であると思うし、下半期の支出計画も考えなければならない。 ゆっくり休めそうもないが、どうするかを自ら決めておかないと、大きな波にのみこまれる。経営の安定化が、医療の質の向上に直結するという証拠を示すことが必要だ。
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