老人医療NEWS第20号 |
歌手の橋幸夫さんと対談した。考えさせられることを聞かされた。
それは、お嬢さんのことで、大学進学にあたり福祉の分野に進みたいといったところ、まず友達から「ヘー」といわれた。それから、東京で福祉の学部をもっている大学は2つしかないことがわかった。東京から離れるわけにはいかないので都内で気にいるところを捜したら、専門学校が見つかった。そうしたら大変。高校の先生から、「おまえ大学に進学しないんだって」とえらい剣幕。
親としては、母親の世話をしている姿をこどもがみていて、よくぞ考えてくれたと感心したのに、こうした反響があろうとは考えてもいなかった、とのこと。
これから二十一世紀にむかい、福祉ないし介護の社会基盤を強化してゆかねばならぬのに、このような福祉マインドであっては、お寒い。
思いつくままに対応策を述べてみる。
そのほか、一般企業に対して、その従業員や家族を含むコミュニティ活動への貢献を促すべきだ。
社会復帰をめざす老人医療を
生活リハビリ
私共の病院は、昭和62年7月に、干葉市のはずれにオープンいたしました。353床をもつ、主として、慢性疾患の治療に当たる施設であります。
恵まれた立地環境と、慢性疾患治療のリハビリ志向に徹した姿勢は、開院以来2年8ヶ月しか経っておりませんが、ほぼ100%のベットカバー率を維持しております。
当院では、1.食事 2.排泄 3.移動(寝たり、起きたり、簡単な移動)、の3つが自力で出来るように、患者さんが、体力・知力を回復できるようにあらゆる方法で援助してあげることを、当院のリハビリの理念としております。これを「生活リハビリ」という発想で、直接リハビリ室で行う訓練だけでなく、生活の動き総てがリハビリであるとして、病棟各フロアーにある広いデイ・ルームを活用したり週2回の入浴の励行など、入院生活全般にわたってリハビリ志向の動きに満ちています。
しかし、これは膨大なマンパワーを要することであり、とても法定基凖の介護員数でまかなえるものではありません。
日常生活サービスの徹底のために、基準の2倍を超えるマンパワーを確保しているという誇りと自負と、その裏腹に、サービス維持のために、人手を多くかかえなければならないという経営的苦渋に常に悩んでおります。
病院は病気の改善をはかるところ
近頃、とみに、所謂老人病院と老健施設、老人ホームなど老人関連施設の性格があいまいになり勝ちな傾向を感じますが、私は「病院は病気の改善をはかるところ」という姿勢に徹すべきであると考えております。
そのために、医療設備も可能な限りの重装備をし、リハビリ施設も充実させておりますが、他方、平均在院日数も約6ヶ月から1年程度に目標を置いて、退院後のステップを予想し、入院治療計画をたてながらやっております。
「患者本位」ではなく「患者のために」
よく「患者本位の病院」ということを聞きますが、私はそれではだめだと思うのです。つまり「患者本位」にするのではなく、「患者さんのために」すべてを発想する。そういうことが大切だと思うのです。たとえ患者さんが嫌がっても、それが患者さんのためなら、あえてそれをやってもらう。そういう姿勢こそが、患者さんの社会復帰のための大きな力になるものと考えております。
このためには、患者の家族の理解と協力が不可欠なものだと思います。当院では、ケースワーカーを3名置いておりまして、まず、患者さんの入院前に、患者・家族・医師・ケースワーカーを交えて、充分時間をとって話し合いの場を持ちます。
さらに入院1週間後、そして1ヶ月月後に、同様の話し合いの場を設けております。また、年間10回に及ぶイベントと毎月の誕生会を通して、患者家族とのコミュニケーションをはかっております。
この様に、患者、患者の家族、病院スタッフ、三位一体になって老人医療に取組むことこそが、最も重要なことであろうと思っております。
ちなみに、当院で行っているイベントをご紹介いたしましょう。
2月:節分
3月:雛祭り
4月:桜祭り
5月:鯉のぼり
6月:あやめ祭り
7月:七タ祭
8月:涼風祭
10月:ミニ遠足(バーベキュー)
11月:芸術祭
12月:クリスマス
毎朝の院長回診は、治療とコミュニ一ケーション効果大
当院では毎朝八時に、必ず院長回診を行っております。全患者、全室の回診は約2時間を要しますが、他のDr.やNs.のほかに、ケースワーカーや事務のスタッフにも同行してもらうことによって病棟各階での問題点が、多くの場合、その場で解決することができております。
回診中のなんでもないことが、治療につながる例として、ある病室で「今朝は、○○さんに万歳をしてもらおう。さあ皆んな元気よく!」と声をかけますと、患者さんは一生懸命に体をベットの上に起こし、重度の障害をかかえながら万歳の音頭をとろうとがんばるのです。
また、私はよく患者さんとジャンケンをします。患者さんのなかには「ジャンケン星取表」をつくって楽しみに待っていてくれる方もいるのです。
こうして、ちょっとでも体を起こすだけでも全然違うのです。ジャンケンにしろ、バンザイにしろ、一見なんでもないことのようですけれども、これが治療につながるものだと思います。頭を使って集中し、動かない体を精一杯動かす。日常のなかでの、そういう積み重ねが、極めて大切であると思っております。
折りたたむ...老人医療の現場にたずさわっている私達はターミナル・ケアを避けて通れません。
しかし、「ターミナル」のとらえ方はさまざまですし、「ケア」に関しても今のところ、コンセンサスが得られていないように思います。従って、ターミナル・ケアに関して発言することは、一面、独善になる危険がありますが、あえて、一言だけ述べてみたいと思います。
老人医療の現場では、あれこれ治療行為を重ねているうちに、患者さんが「死んでしまった」ということではいけないと私共は考えます。
私共の病院では、ターミナル・ケアに関して、次のような考え方ができています。
すなわち、"医療・看護にたずさわるメンバーが、その患者さんに対して、「死」を意識する段階をもってターミナル・ケアの開始とする"ということです。
患者さんには「告知」は殆どの場合いたしません。「この年の人に告知を行うのは残酷だ」と考えるからです。患者さんの人権を無視するべきでない、という考え方も示されましたが、ある年月をかけて、医師・看護婦共、了解点に達しました。
家族に対しては、病状を詳しく説明し、どうしたら、患者さんの苦痛をやわらげることができるか具体的な方法論を話しながら、相談します。殆どの家族の人達は「苦しみがない最期」を希望します。
医師・看護婦などベッド・サイドにたずさわる職員達で、方法論を協議します。
トランキライザーの使用、モルヒネ・ソリュージョンの使用、などの場合には、特に時間をかけて、結論を出すようにしています。トランキライザーは、マイナーを若干使用するか、抗うつ剤的な薬剤の内服使用の場合も、ベッドサイド職員は、使用理由を全員知っています。
内服モルヒネを使用する場合、クロルプロマジンを点滴内に入れて使用する場合は、特に厳重なチェックが行われています。
チェックの内容は、患者さんの澪痛、舌痛、緩和の状態、を始めとして、摂食の状態、意識レベルの様子、情緒の状態、バイタル・チェックの際の職員の言葉の使い方、などです。
補液のあり方も論議されます。
今回の"いわゆる「丸め」"の中で、私はターミナルケアの場面では本当によかったと感じています。一人の患者さんが「死」を迎える時、周囲の者が、「点数」を意識しないで、本来のことが行えるようになったと思います。
折りたたむ...老人のリハビリテーション
前号に続き、昨年11月11、12日の2日間にわたり都イン・東京(東京都)において開催された「老人の専門医療を考える会総合研究会」より、第2日目に行われた浜村氏の講演概略を紹介したい。
長崎で、寝たきり老人のリハビリテーションに取り組み始めてから、10年が過ぎた。長崎は周知の通り坂や階段の多い町で障害者には生活のしにくい面がある。また、小さな島々を抱え、人口の過疎化が進む中、老人人口が30%を超えている島もある。このような地域でリハビリ活動を続けてきて思うことは、今"寝たきり"と言われている方々の約半分は"つくられた寝たきり"ではないか、ということだ。今日は、長崎病院での活動を中心に振り返りながら、老人のリハビリについて共に考えていきたい。
1、ヨーロッパで
イギリスやイタリアを訪れた折に街を散歩すると、障害をもった老人も明るい色合いの服装をし、きれいに着飾っているのを見かける。電動車椅子で社会活動に参加している姿もあり、生活感が感じられる。病院においても、座って過ごすことが習慣であり、そこにはノーマライゼーションを一つの価値基凖としたリハビリがあった。こういう姿を可能な限り追求していくことが、私達の役割であると思う。
2、長崎では
これまで担当してきた患者さんの一例に中学時代に障害者となって以来50年間寝たきりという方がいた。極端な例ではあるが寝たきり患者さんは後をたたないというのが現状だ。
在宅老人をみていると、誰も訪れる人がいないと寝まきのまま一日を過ごす、そこから次第に体力が消耗し寝たきりから二次的合併症を起こしている。また、病院内での生活はできても、在宅となると難しい老人が多いことも知らなければならない。
病院内をみれば、まず寝ている姿が目に入る。ベッドの脇にはポータブルトイレがあり、食事の時もベッドから離れない。寝まきのままで、髪は寝ぐせがついている。このような状態がどこにもある一般的な病院の姿ではないだろうか。これでは、いくらリハビリ室で訓練をしても、病棟に戻れぱ寝・食・排泄が一緒であり意味がない。
日本では、リハビリというとまだまだ機能回復訓練に比重があり、患者さん自身"訓練してもらう"という考え方をもっている。生活を支えるためのリハビリであることを忘れてはならないし、リハビリ室はリハビリの一部分であるということを医療スタッフは勿論、患者さんや家族の方にも働きかけることが大切だ。
3、長崎病院での活動
障害のある場合には、生活環境の工夫が第一に求められる。
その他の活動としては、年1回の旅行があり、前回は電車を使い福岡の「よかトピア」へ出掛けてきた。また、病院ボランティアの養成にも力を入れている。
4、まとめ
高齢化社会を目前に、今、皆で、安心して家庭や地域で暮らせる方法を模索していかなければならない。高齢化社会では支える側と支えられる側の逆転が起き、老人間題、とりわけ障害老人と痴呆老人への対応がクローズアップされてこよう。在宅での対応は、周囲からの理解が乏しかったり、適切な治療や援助が受けられない、といった場合もあり、地域リハビリテーション活動の充実が今後増々必要とされよう。
地域リハビリでは、直接的援助活動として、保健・医療・福祉の分野から機能訓練事業、訪問肴護、老人デイケア、デイサービス、ホームヘルパー派遣、等々が行われている。さらに地域組織化活動や一般の人々への働きかけも力を入れていかなければならない。
老人問題は、保健・医療・福祉を併せてトータルに考えていかねばならず、スタッフ側がいつも明るく、チームワークで対応していくことが大切だ。これからは、ターミナルケアまで含めた老人のリハビリを期待している。(国立療養所長崎病院理学診療科医長)
最後に行われた全体討議では、厚生省病院管理研究所・小山秀夫氏から以下のようにまとめられた。
労働と仕事の違いは、仕事は気づきと改善があることであり、現状で満足しないようにしてほしい。よく欧米と比較されるが、日本の病院は見せる力が弱い。病院自体を自分達の仕事のショールームとするところから、患者さん達にも張りが出てくるのではないだろうか。
また、"サービス"ということをいつも頭にとめておいて欲しい。サービスは人が人に心からすることであり、サービスの原点として、「家庭にあるものが病院にない」ということも考えてみよう。
折りたたむ...2月21日、厚生省より中央社会保険医療協議会へ診療報酬および老人保健施設療養費の改定等についての諮問書が提出され、4月1日より実施される運びとなった。老人診療報醐における今般の改定では、在宅ケアの強化、看護・介護力を強化した場合の医療を評価し付添看護の解消を図る、早期リハビリテーションの重点評価、痴呆性老人対策の推進、等、当会の意見が大きく反映された内容となっている。以下にその概要を記しておく。
一、在宅医療の推進
1.寝たきり老人に対する訪問看護、訪問理学療怯の拡充
寝たきり老人訪問看護・指導料の評価 250点→380点
准看護婦による訪問看護を評価(新設) 310点
末期がん患者への訪問回数の要件緩和
寝たきり老人訪問理学療法指導管理料の評価 250点→380点
2.寝たきり老人に対する在宅療養の充実
寝たきり老人処置指導管理料 (1月)550点(新設)
寝たきり老人訪問診療(察)料の評価 500点→540点
寝たきり老人訪問指導管理料 350点→365点
3.医療機関相互の連携による在宅ケアの評価
寝たきり老人診療情報提供料 (1月)190点(新設)
寝たきり老人診療情報提供料 (1回を限度)190点(新設)
4.長期入院患者の退院後の在宅療養への円滑な移行の促進
退院前訪問指導料(新設) (1回を限度)300点
退院患者継続訪問指導料(新設) (2回を限度)300点
5.老人保健施設入所者への協同指導の評価(新設) (1回を限度)260点
6.老人デイ・ケアの評価 250点→380点
二、老人の心身の特性に応じた入院医療の確保
1.老人病院における看護・介護力の強化
特例許可老人病院入院医療管理料(新設)
介護職員4対1 (1日)573点
介護職員五対1 (1日)537点
老人基準耆護の評価
老人特例一類 250点→308点
老人特例二類 200点→268点
2.老人病院入院患者に対する医療の適正化
大量な点滴注射の適正化
特例許可外老人病院の注射料の適正化
入院時医学管理料の区分の見直し、8区分→5区分
三、病期に応じたリハビリテーションの評価
早期に行われるリハビリの重点的評価 400点→480点
回復期のリハビリの評価運動療法(T)
複雑:6月以内400点、6月超380点
簡単:6月以内160点、6月超150点
運動療法(U)
複雑:170点→180点
簡単:90点→95点
作業療法
複雑:6月以内400点、6月超380点
簡単:6月以内160点、6月超150点
老人特定疾患言語療法
複雑:150点→160点
簡単:100点→110点
四、痴呆性老人に対するケアの評価
痴呆患者収容治療料(新設)(1日)180点
重度痴呆患者収容治療料の評価
重度痴呆患者デイ・ケア料の拡充
痴呆患者在宅療養指導料の評価
老人病院の話題の中心は、4月1日実施の『特例許可老人病院入院医療管理料』別名『介護強化病棟』であろう。この制度は「別に厚生大臣が定める施設基凖に適合していると都道府県が認める特例許可老人病院である保険医療機関において、当該承認に係る病棟に収容した場合に算定する」もので、6対1の看護婦以外に4対1の介護職員の配置で573点、5対1で537点である。
医療管理料は、医学管理料とまちがわれたり、名称が長くわかりにくい制度である。丁度、点数が573と537点であることから、いっそ「七五三病棟」とでも名目したい。
この医療管理料を算定した患者に係る、投薬、検査、注射及び看護の費用は、包括化される。逆の言い方をすれば、入院時医学管理料、室料、給食料などの入院料、画像診断、理学療法、処置、手術、麻酔に573点か537点を加算した点数が1人1日当たりの入院料となる。
1月を30日とすると、32ないし33万円前後となる。ただし、カギを握るのは、リハビリの必要性とその頻点および程度ということになる。仮に、リハビリテーションをメインにした病院があるとすれば、点数が相対的に高く、リハビリの承認を受けていないと低いという関係がある。また、これまで投薬と注射の合計点数が高いほど、経営的にはマイナスで、寝たきりを起すために努力していた病院ほどプラスになるという関係がある。
厚生省の「寝たきりゼロ作戦」が診療報酬にも反映されたともいえるし、当会が主張してきた薬にたよらない老人専門医療の主張が認められたといってもよい。
七五三病棟は、特例許可老人病院あるいは病棟以外は算定できない。病棟単位か病院単位かという議論もあったが「特例」の全てということになっている。つまり、全病棟が特例許可なら病院単位、一部が特例病棟なら、その全ての病棟が対象となる。特例を一部返上して一般病棟化し、七五三と一般の混合が有利とも考えられるが、患者さんや職員配置を考えると、七五三のみという方式の方が管理上は対応しやすい。
当会員に対して、4月上旬にアンケートを行なった結果をみると、4割は医療管理料を「採用」、4割は「採用せず」、残り2割が検討中ということであった。採用組の中にも条件付き採用が多く、今後は各都道府県の対応をにらみながらということになる。ただし、承認をえるためには、基準看護と同様に3ヵ月間の試行が要求されたり、保険外負担の問題をからめて指導したりするという問題点もある。
不採用型にも理由がある。まず、老人特例看護を採用したケースである。特例看護で四割正看、場合によっては三交替にしたのに、改定があって再度変更が困難という理由である。つぎに、「まるめ」に対する医師としての不満と、七五三の将来に対する不安から不採用という問題がある。
いずれにしても、難かしい問題ではあるが、それぞれの老人専門病院が、どのような患者さんに、どのように対応していくかという理念の問題があることは確かである。しかし、一方では、患者さんの構成によって無理なく、無駄なく、無心に対応するべきであろう。
医療法改正議論で、長期療養病棟の考え方が2年後には実施されるであろうことは、ほぼ確実であろう。そうであれぱこそ、ここ2年間の対応は、老人専門医療機関としての試金石ということになる。
とにかく七五三病棟は制度化された。今後は、七五三を採用した病院の実態と不採用の病院を比較しながら議論が展開するであろう。それゆえ、採用組も不採用組も一層の努力が必要である。
当会として、避けなくてはいけないのは、七五三の祝金にしないことである。この制度を活用して、老人医療を立派な成人に育てていきたい。
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