老人医療NEWS第125号 |
2025 年の大都会における地域医療の実情は今の長崎での救急搬送の実態からも伺い知ることが出来る。長崎地域(高齢化率24%…2010年長崎救急医療白書)での救急搬送で入院を要した患者の約70%以上、最も多い脳卒中患者の70%以上、そして次に多い肺炎や大腿骨頸部等骨折患者の80%以上が70歳以上となっている。もはや、老人の医療は特別な専門分野ではない。高齢者の特徴を踏まえた地域医療の体系化・整備が急務である。高齢者は加齢に伴い種々の生理機能が低下する。特に口腔機能の低下によって潜在的低栄養状態・免疫能の低下そして易感染性(誤嚥性肺炎等)をきたし、ついには廃用・寝たきりとなる可能性が高い。このため高齢者の口腔衛生・機能の改善・維持・向上は非常に重要な課題である。
ところが、従来より医科界では「口腔ケアは看護師の仕事であるとして、医師は口の中を診ることさえしてこなかったし、また入れ歯は命 に関係ないとして入院時には外してしまっていた等々」 全くと言っていいほど口腔には関心を払ってこなかった。また歯科界でも口腔機能・障害などについては概念整理が充分には行われてこなかったように思われる。 つまり口腔機能の専門家は存在してこなかったと言っても過言ではない。 また医科と歯科の関係はあまりにも遠く、間にある垣根もまた非常に高かった。故に『口のリハビリテーション(以下、口のリハビリ)』である。『口のリハビリ』とは「どのような障害があっても、最後まで人としての尊厳を守り、諦めないで口から食べることを大切にする全ての活動」と定義、『口』を全人的に捉えた考え方である。その基本方針には口腔の3大機能(呼吸、咀嚼・摂食嚥下、構音)を重視し、[1]徹底したチーム アプローチにより、[2]口腔ケアの徹底、[3]栄養管理の実施、[4]廃用症候群の予防を行い、[5]救急から在宅まで継続して支援することを掲げている。本活動の重要な鍵は地域における『医科・歯科連携の構築』である。高齢者医療には多職種チーム医療の実現が必須と言われる昨今、歯科医師・歯科衛生士もまたチームの一員として口腔衛生・機能の改善・維持・向上に大きな役割が果たせるような環境・関係づくりが必要である。具体的には「[1]医療機関(特にリハビリ専門病院)が地域歯科医師(会)との強固な連携システムを構築する。[2]医科・歯科連携の窓口役として歯科衛生士が病院に勤務でき、評価されるようにする。[3]口腔衛生の主たる専門職として歯科衛生士が医療・介護分野で幅広く従事できるようにする」などの整備が期待される。
更にそれぞれの地域において医科と歯科領域の多専門職が一堂に会し、 『口から食べるための支援』に関する教育・研修および市民への啓発な どを行う『口のリハビリ研究会』の設立が期待される(長崎県、高知県 にあり)。高齢者医療のあり方が問われている今こそ『口のリハビリ』活動が幅広く展開されることが望まれる。
社会保障制度の安定財源を確保するため、消費税が段階的に10%まで引き上げられ、増税分5%の3%相当が社会保障の機能強化に充てられる見込みである。そのうち、制度改革により高齢者中心型から全世代対応型の社会保障を充実する財源として、2.7兆円(2015年度公費所要額)が見込まれている。この2.7兆円は、充実するための必要予算3.8兆円から重点化・効率化による1.2兆円を差し引いたものである。
充実を図る項目として、病院・病床機能の分化・強化と連携・在宅医療の充実等8700億円、在宅介護の充実等2500億円、これらの重点化に伴うマンパワー増強2400億円等とされる。これらは、いずれも急性期医療強化、地域包括ケア実現の財源に充てられる。急性期や先進医療に財源を投入する方針となっているが、慢性期医療の機能強化、介護施設の医療対応などを充実する施策を同時に行わないと機能分化と連携は進まないと危惧している。
一方、重点化・効率化を図る項目は、医療分野では、平均在院日数の減少等4400億円、外来受診の適正化1300億円の削減が掲げられている。平均在院日数のゴールは、一般急性期9日(病床稼働率70%)をはじめ、亜急性期・回復期リハ、長期療養、精神病床のいずれも短縮されていく方向であり、医療機関としては、病床稼働率を如何に確保するか、あるいは急性期から慢性期への病棟機能移行の検討なども余儀なくされる。外来診療も包括医療や保 険免責制などが検討され、頻回な受 診を抑制する方向にある。医療費を抑制するため、病床稼働率低下を目 的とした平均在院日数短縮化が図られるが、数値目標と共に医療の質の向上が必須と考える。即ち、急性期・慢性期の定義を変更し、全てのフェーズを急性期サイドにシフトすることで帳尻を合わせるのではなく、最も大切なことは患者の病状が本当に改善しているかどうかの視点である。
介護予防・重度化予防・介護施設の重点化についても1800億円の削減が見込まれ、5年に一度の介護保険法改正を前倒し、2014年ないし2015年に制度改正を行う模様である。将来的に、介護予防の地域支援事業への移行や介護保険施設入所者を要介護三以上に重点化すること等が予測される。今後、介護保険制度において、自立支援の視点とサービスの質の評価に重きが置かれ、有効性に関するエビデンスの乏しいサービスは淘汰されていく。介護納付金について、現状の「総加入者数割」から「総報酬割」導入の完全実施にて1600億円削減も計画に盛り込まれているが、経済団体からの反発も根強く不透明な状況にある。
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の登録状況は、本年3月12日現在3220棟・103757戸と昨年11月の登録開始から4カ月で10万戸を超える。全体の約7割が通所系・訪問系の居宅サービスを併設、約15%が医療法人の運営となっている。今後、サ高住への良質な医療提供が重要であると共に、地域づくりの視点も求められる。
若年者から高齢者まで国民全員参加のもと、わが国の社会保障制度について真剣に議論することが急務であり、国民に負担と給付についてわかりやすい説明が必要と考える。その際、国の借金、給付と負担のあり方等の耳触りのよくない課題に向き合い、健全なる社会保障制度を如何に構築するかの視点が肝要となる。
先日、韓国最大手の朝鮮日報の記者が認知症治療について取材に訪れました。当院の他にも高齢者医療に携わる九州の病院を取材されるとのことでした。
ご存知のように韓国では我が国を凌ぐ速さで少子高齢化が進んでいます。そこで、私たちが欧米に学んで来たように、高齢者医療の進んだ我が国から学ぼうとされているのでしょう。これまでにも、韓国慢性期医療協会会長の金徳鎮先生が団長となり、高齢者医療の視察に毎年来日されています。当院にも数年前からお越しいただくようになり、こうしたご縁が今回の取材につながったようです。
「韓国では認知症を恥ずかしい事だと家族が隠したがるが、日本ではどうなのか?」「薬物療法と認知症ケアの役割について知りたい」「身体拘束をしていない事に驚いた」「花や飾りなどは認知症の患者さんに危険ではないのか」などと、海外で私たちが発してきたものと同じような質問がたくさんありました。その中で私の心に残ったのは、「光風園病院では認知症の患者さん達の表情がとても良い事と、職員が生き生きとしている事に驚きました」との一言です。
「毎朝健やかに目が覚め、美味しいものを食べ、穏やかに楽しく過ごす」「誰かが自分の事を大切にしてくれる」国や文化が違っても人間が幸せに生きるための基本はそれほど変わらないのではないかと思います。認知症が進みいろいろな事が分からなくなってきても、人は「快適」と「不快」の違いを感じることはできます。患者さんたちが安心して過ごしている場所には「穏やかな雰囲気」が生まれます。数値化することのできないこの「空気」が伝わったのだと思います。
一方で、見学に訪れる方とお話をする際に、「良い病院ですね」の一言に続いて「光風園病院だから」「歴史があるから」「人手がこれだけあれば」といった感想を聞くことがあります。私は理事長である父や職員が長い時間をかけて築きあげた上に胡坐をかいているだけなので偉そうな事は言えませんが、苦労を知らないからこそ当院で行っている事はそれほど特殊なのだろうかとも思っています。現場の職員に尋ねると「仕事は楽ではないけれども、それほど難しい事ではありません」「当たり前の事をきちんとしていると、 私たちも気持ちが良くなるのです」と答えてくれました。
同じ制度の中で行っている仕事を特殊な例と扱われる事に対して少しもやもやとしていた所に、隣国の記者の口から私たちが外国の施設で感じたような感想を聞き、なんだか励まされたような気持ちになりました。下関港から釜山へは毎日フェリーが 出ています。調べてみると、当院とソウルの直線距離は550kmで、820km離れた東京よりもかなり近いことが分かりました。普段意識することは少ないですが、「外国」は意外と身近にあるのです。
アジアの国々でもいずれ高齢化が問題となります。同じアジアと言っても、国によって歴史や文化、宗教、習慣、食べるものや考え方にも違いがあります。しかし、私たちと欧米ほどの違いはないでしょう。私たちが地球の反対側まで足を運んで学んで来た事を近隣の仲間に伝え、私た ち自身も彼らから学び、お互いにより良い医療を提供することを夢見て努力を続けることは素晴らしい事だと感じました。
とは言うものの目の前には、2つの病院の経営、新しい病棟の建築、病院内の改革、自分自身のスキルアップ、そして原稿の締め切り等々、やらなくてはならない事が山積しています。この原稿を書いている今も、当直中の私を呼ぶ電話が次々に鳴っ ています。
隣国からのお客様は、目の前の仕事だけではなく社会に目を向ける機会と、明日への元気をお土産に残して行かれました。
平成23年の介護保険法改正法に新たに創設されたのが「介護予防・日常生活支援総合事業」である。この仕組みでは、栄養改善を目的とした配食が含まれている。
この配食サービスを、独居高齢者の地域福祉サービスとして展開したのは、昭和38年の老人福祉法制定以降である。先駆的な社会福祉法人などが弁当を作り、住民のボランティアが配達するという形態である。毎日の食事を確保することが困難な要介護や要支援高齢者の食生活の実態における困難に対して有効な手段として認識され、僅かではあるが民間病院も取り組んできた。
地域に居住し体力の衰えや障がいによって、買い物ができない、調理ができない等の理由で、毎日の食事が確保できなくなれば、他者からの援助に頼らざるをえない。家族や親族あるいは地域住民が手を差し伸べることによって問題が解決することは多いが、地域で孤立しがちな単身高齢者世帯などでは、何らかの社会的サービスが求められることになる。平成12年の介護保険制度創設によって、それまでのホームヘルプは、訪問介護事業として急速に量的拡大し、訪問して調理をヘルパーが担当する件数も飛躍的に伸びた。また、通所系事業所でも食事が提供されたことから、介護保険制度創設以降は、一時的に配食サービスのニーズの伸びが鈍化した。
しかし、急激な要支援高齢者の増加や地域社会の崩壊は、地域で孤立する高齢者の食の確保策として、改めて重要視されるようになった。ただし、介護保険制度は、要支援・要介護者の自立支援を目的としたため、配食はあくまでも地域福祉の一環であり、介護保険サービスの給付とは考えられなかった。
また、平成17年10月からは、介護保険施設における給食サービスも全額利用者負担となり、食事の提供は介護保険給付外という基本的な考え方が整理された。しかし、翌18年4月から介護予防事業が導入され地域支援事業も開始されたことにより、配食サービスの在り方が再検討されることになった。その結果が、「介護予防・日常生活支援総合事業」であったとも考えられる。
現在、配食サービスが実施されている市町村は、以前から何らかの配食を進めてきた場合が多い。配食サービスには、各種の方法がある。ある地域では、保険者から地域包括支援センターを委託された地区社会福祉協議会が対象者を把握し、管理栄養士がいる老人福祉施設が弁当を調理し、地区社会福祉協議会が育成したボランティアが安否確認を兼ねて配達するという形態である。
この場合、週四回、1回4百円程度で食事が提供されている。別の例では、市が対象者の把握をし、全市内を一括して配食できる業者からの入札により決定し、その業者に安否確認もさせるというものである。前者と後者には、行政の関与の程度、対象者の把握方法、ボランティアの活用、安否確認の方法などで大きな違いがある。ある自治体では、長年、老人福祉施設がボランティア(一部は職員)とともに配食サービスを実施してきたが、新たに入札方式で不採用になり配食サービスを縮小したケースもあるという。
このほかに、どこで、誰が、どのような目的で、どのような食事内容・保温状態かという差もあるし、配達の方法もいろいろである。さらに、 提供される食事の内容についていえば、食の安全、食べやすさ、個別ニーズへの対応、管理栄養士の関与の度合いなどでも差が生じている。
当会初代会長の天本宏先生は「健康ニコニコ弁当」が必要と考え実践された。小倉リハビリテーション病院の職員は、ボランティアとして配食を続けている。当会はどうするのか。
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