老人医療NEWS第116号 |
私が病院を始めて今年で30年になる。30年前、昭和56年頃はどのような生活であっただろうか?
休みは日曜日のみ、車は一家に一台というような生活であった。今や週休二日となり、有休祭日も多く、年のうちの半分は休みであると言っても過言ではない。言い換えると、それだけ働かなくても良い、豊かな社会になったということであろうか。
しかし一方で、円高、法人税の高さ等で、日本の経済成長を牽引してきた製造業が、諸外国と戦えなくなってきており、製造業の海外移転が加速されている。結果的に需要がなくなり、働く場所がなくなってきているのは明白である。今の学生の就職率は、6割台となってきている。言い換えると、4割近くの学生が就職浪人となっているということになる。こういう日本の姿で喜ばしいのかどうか、甚だ疑問である。
若者達(団塊の世代)を中心とした労働力が牽引となった高度経済成長時代から、その若者達が中高年となった成熟社会を経て、今やその世代が来年から年金を貰い始める高齢化時代に突入してしまう。現在社会保障費は、医療、年金、介護、障害者等、既に100兆円をオーバーしている。欧州でも財政危機が問題となっている。存亡の危機に瀕しているギリシャでさえ、公的債務の額はGDP対比で120%である。しかし驚くことなかれ、日本の公的債務残高は900兆円を超えている。日本のGDPは430兆円前後であり、かつGDP対比では200%をはるかにオーバーしている。危険極まりない数字である。団塊の世代が年金を受け取るようになると、ますます社会保障費は増え続け、2020年頃には150兆円位になるであろう。このまま公的債務を増やし続けるのであろうか。
先日、Standard & Poor'sによる日本の国債の格付けが下げられた。格付けが下げられれば、常識的には国債価格は下落し、金利は上昇する。今、国債の金利は1%くらいであるが、金利1%の上昇で約10兆円の金利負担となり、5%となると、約40兆〜50兆の金利負担となる。これでは消費税をいくら上げても追いつかない。ちなみに、ギリシャの国債の金利は10%を超えている。
私の座右の銘で「人間万事塞翁が馬」という言葉があるが、人間良い時ばかりではない。今ある膨大な財政赤字のつけを、次の世代にまわしてはいけない。そのためには、我々の世代は今少し我慢をしながら日本の経済力を育て、税の直間比率を見直し、早急にメタボ体型から日本国の標準体型にマッチした社会保障制度を構築していくべきである。坂本龍馬は「日本を今一度せんたくいたし申候」と言ったが、私の言葉で言えば「日本をオールリセット」していくべきである。
折りたたむ...最近、認知症の薬がいくつか発売されてきました。他国では既に使用されている薬です。今までアルツハイマー病に使える薬は、塩酸ドネペジルが中心でした。現在は貼り薬を含めて合計4種類の薬が出ています。
さて、外来に患者さんの家族がやってきて、「新聞、テレビで見たのですが、良い薬が出たそうですね」というお話になります。私も治験をやっていた訳ではありませんが、レポートや論文で見た印象や私なりの意見を持っておりますので、基本的な機序、効果について説明を致します。「新薬といっても、それは必ずしも夢のような薬ではありません。また、どんな薬でも副作用もあります。注意しながら使っていきましょう」と申し上げます。しかしながら、副作用についてかなり敏感な家族の方には、頭の中が副作用のことでいっぱいになってしまう方もおられます。
多くの認知症の薬の副作用としては、食欲不振などの消化器症状が多く見られます。その場合は、「胃薬を出しますので飲んでください」と申し上げると、安心される家族の方もおられます。しかし、副作用があるならば、それでは薬をやめますと短絡的な方もおられます。
ご家族は認知症に対してまず、どのように思っているのでしょうか。なんとか良い条件で生活を送ってもらいたい、あるいはほとんどナチュラルコースで何もしないで構わないという2つに分かれると思います。例えば、癌の人は抗ガン剤を飲む。「消化器症状や副作用ががあるからやめましょう」という方もおられるかもしれません。しかし、薬でいろいろなことがあっても、癌を少しでも抑え込み、なんとか頑張っていこうということがあると思います。
しかし、認知症の方の場合は、ご本人の感ずる不安感や、家族側の介護がラクになるという報告が出ております。認知症の薬が100%オールマイティだとは思えませんが、ご本人が楽になること、また家族のストレスが取れる場合があると説明を追加します。「薬を飲むことで、ケアについても余裕が生まれると思う」ということも申し上げます。
また、認知症に漢方薬の抑肝散はどうでしょうか、と言われる場合もありますが、そこには、漢方薬は副作用がないということが頭の中にあるようです。確かに漢方薬は昔から使われていて、副作用の話はあまり目に触れにくいのでしょう。しかしながら、漢方薬も副作用が出る場合があり、体の電解質を変化させる場合もあるとお話をします。薬はモニタリングし、常に注意しなければならないということもお伝えします。
薬について気になるのは、高齢者に多くの薬が投与されている、という事実です。前医の処方のままで薬を出して良いのでしょうか。薬を減らしますと、患者さんのご家族が心配をする場合があるため、入院後しばらくは前医の薬を使っておきます。そして少しずつ減らしていく必要があります。主治医は、薬を出す根拠の診断名が何であるかをはっきりさせ、薬が適切に使われているかということを考えるべきです。その根拠をはっきりさせず、さらにはっきりしない病名に薬を使うということは、主治医としての責任を果たしていません。薬のみのエビデンスだけでは、コピペ処方箋を作成する医師であります。なぜ薬を使用するのかのエビデンスをはっきりさせるべきです。
尚、コピペとはパソコン用語でコピーして貼り付ける、若い学生がレポートの時に悪用する手法です。
折りたたむ...大変ご無沙汰しています。当方は、今回もろに「医者の不養生」で心不全、腎不全をおこし、七ヶ月超の入院療養生活を送りました。
昨年末に、右足関節(踵骨)の骨髄炎悪化による潰瘍形成と下肢浮腫起因の皮膚炎により、タンパク漏出し心不全が悪化、腎不全も併発し全身浮腫と呼吸困難にいたり、敗血症状態で、昨年12月31日緊急入院となりました。酸素6リットル投与下で、利尿剤や強心剤投与と抗生剤大量投与、皮膚科治療により皮膚炎は改善しましたが、踵部の骨髄炎は開放難治創で、その上、解熱剤で腎不全が増悪し無尿となり、週に3回の血液透析療法にまで至りました。
なお、透析により身障2級の認定を受け、歩行障害などにより、要介護認定は4との認定でした。しかし、共にサービスは利用していません。当初、骨髄炎に対し、大腿からの切断との診断を受けましたが、何とか感染が鎮静化したため、形成外科にて開放創の縫合閉鎖術で切断を免れました。
腎機能も改善したため、透析回数も3回より次第に減少、離脱して様子を見ることとなり、7月に退院しました。しかし、透析時のヘパリン併用により眼球(硝子体)出血が出現、視力が低下しましたが、次第に回復が見られています。
現在、安静による筋力低下と、足関節固定装具装着に対しリハビリを続けています。入院中、多くの方々にご迷惑をおかけしましたが、今回の入院を前向きに、人生における充電、メンテナンス期間と考え、復帰までもう少し時間をいただくことをお許しください。おかげさまで体重も20キロ減量出来ました。
しかしながら、この半年余の入院中に多くの事件が起こりました。世界では中東民主化(アラブの春)、アフガン問題、テロの過激化、世界的経済危機など、数多くの事件が起こり、それ以上に国内では未曾有の東日本大震災や大津波の天災、続いて原発事故という人災が起こりました。あまりにも無策な政府や東電の対応、マスコミの、正確さに欠け更に風評被害をもあおるような不的確な報道等により、災害対応が悪循環に陥ったように思われます。菅政権の無策な危機管理、外交、経済政策などが一番の不幸と思われます。
You Tubeには5000件以上の震災や津波に関する多くの動画が登録されていますが、これの多くは被災者自身が携帯電話やビデオで、震災や津波のさなかにとられた画像であり、生々しく驚愕するものですが、その災害の悲惨さを伝えるだけでなく多くの情報を提供してくれるもので、今後の災害対応に大いに参考となると思います。災害の種類、規模そして範囲は多様であるため、災害を起こさないように防災をめざすことは難しく、被害をいかに最小限にとどめるかということ、つまり「減災」が大切で、それこそが危機管理であることも教えられました。
野田総理に替わりましたが、早くも閣僚からボロが出てきています。沖縄、尖閣、原発そして大震災と対応に急を要す問題が山積しており、それらの早急な解決を図らねば、与野党ふくめ日本政府は国民からも世界からも見放される可能性が大と思います。
外交についても、日本の国力低下とアメリカの軍事、経済力低下により、中国の尖閣問題、韓国の竹島問題だけでなく、ロシアも大統領だけでなく、首相も北方領土を訪問、軍事も強化を図ろうとしています。日本への挑発行動もエスカレートし、軍艦や爆撃機の日本近海への出没が増加しているだけでなく、なんとロシアと北朝鮮が合同演習を行なうとのことです。日本は、完全に「こしぬけ外交」と扱われています。「千円散髪」や「あいだみつをの話」などのパーフォマンスをやっている段階ではないでしょう。
折りたたむ...地域包括ケアシステム確立の必要性について、いろいろな議論がなされているが、実態として良く理解できていないように思う。
2010年3月に「地域包括ケア研究会」の報告書が公開された。この研究会は第五期介護保険事業計画の計画期間以降を展望し、地域包括ケアシステムの在り方やそれを支えるサービス等について具体的検討を行うことを目的としたものである。つまり、ただちにどうするかということではなく、検討課題や考え方を整理した提言書とでもいうものである。
この報告書では、地域包括ケアシステムを「ニーズに応じた住宅が提供されることを基本とした上で、生活上の安全・安心・健康を確保するために、医療や介護のみならず、福祉サービスを含めた生活支援サービスが日常生活の場(日常生活圏域)で適切に提供できるような地域での体制」と定義している。
日常生活圏域とは「おおむね30分以内」で「具体的には中学校区を基本とする」ともある。
住宅が基本で医療・介護・福祉サービスや生活支援サービスを日常生活圏域で提供できる体制(システム)をこれから構築しますというのである。おっしゃる通りなのだろうが、何をどのようにすれば、そのようなことが実現するのかは、はっきりしていない。そのためにどのような政策展開が進められるのかといったことについては、当然わからないし、これからの課題ということになる。
地域で医療・介護・福祉・生活支援サービスを展開している我々としては、何が目新しいのか正直わからない。「住宅を基本とする」、「システム化する」ということは理解できるが、高齢者の住宅対策が「ケア付き住宅」のみにまとめられたり、システム化の中心が市町村行政であるということになると、今よりかえって悪くなる部分もあるかもしれないと思ってしまう。
地域包括支援センターとの関係はどうなるのかとか、小規模多機能型居宅介護事業所はどのようになるのかということもイメージできない。介護保険事業者である市町村がどのような貢献を期待されるのかとか、市町村のマネジメント機能を強調するのかどうかも不明である。
地域包括ケアシステムを外国人に説明するのは、かなり困難だ。仕方ないので、日本型の統合ケア(Integrated care)だと説明している。地域包括ケアシステムという用語は決して新しいものでない。この概念は、広島県の公立みつぎ総合病院の病院事業管理者である山口昇先生(第2代の全国老人保健施設協会の会長で、現在、名誉会長)が、1984年ごろから提唱してきた、保健・医療・福祉の統合モデルである。84年に病院長に就任した山口先生は、同年に院内に町の健康管理センターを併設し、その責任者となり、保健と医療および福祉の一元化に努力された。93年には、町全体の保健福祉管理者となり、町全体の保健医療福祉の統括管理者となられた。この方針は「みつぎ方式」と呼ばれ、全国の国民健康保険病院の先駆的モデルとなり、国際的に注目された。
少し歴史を知る者にとっては、地域包括ケアシステムという言葉は、みつぎ方式をイメージせざるをえないのである。
言葉は生き物で、時の流れにより意味することも変容するが、病院の8割が民間で、介護保険事業者もほとんど民間業者という我が国の現状で、公立病院と公的部門が介護の担い手となっているモデルを、全国に普及することには無理がある。
このように考えてみると、サービスの提供は民間で、市町村行政と統合できるシステムを、なんとか構築するシステムに進むのであろうか。
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