こぼれ話

老人医療NEWS第107号

バンクーバーオリンピック雑感

西武川越病院  理事長 藤田龍一

ゴルフが趣味で、何事もない休みが取れると近場のゴルフ場へ向かい、一・五ラウンドのゴルフを楽しんでいる。私にとってゴルフは結構ハードなスポーツである。

スポーツと言えば、オリンピックを思い浮かべる人も多いと思う。またオリンピックという言葉を聞くと、なぜだかワクワクと胸躍るのは私だけではないはずだ。私が十二歳だった時の東京オリンピックは「東洋の魔女」と言われた女子バレーを始め、すべての競技がテレビ中継されるなど日本中がオリンピック一色となった。その華やかだった記憶が身体のDNAに刻み込まれているのではないかと、少し大げさに考えている。

先月閉幕したばかりのカナダ・バンクーバーで行われた冬季オリンピックは、スノーボードハーフパイプの國母選手の公式ユニホーム着こなし問題で日本中をにぎわして始まり、女子フィギュアスケートの浅田真央選手の銀メダルやスピードスケート女子団体追い抜き銀メダルと、これもまた日本中を大変盛り上げて終わった。何しろスケートの真央ちゃんのフリー演技は、放送されたのが平日のお昼過ぎだったにも関わらず、視聴率は五〇%に近かったそうだ。録画映像を含めれば、ほとんどの国民がその演技を見たのであろう。

そのバンクーバーオリンピックの代表選手九十四名のうち、多くの選手が大企業と言われる会社や大学に籍を置き競技活動をしている中、病院所属選手が四名いたことをご存知だろうか?

ボブスレー女子桧野真奈美北斗病院、スピードスケート男子土井槙悟関西病院、スピードスケート男子平子裕基関西病院、スピードスケート女子小平奈緒相澤病院。そのほかにも医療に深くかかわる企業に所属している選手が三名いたそうだ。

実のところ、私はこのオリンピックが始まるまでは、新聞などに掲載される選手の紹介が所属先とともに書かれていたことなど、全く気に留めずに読んでいた。病院所属の選手がいることを知ったのは閉会式の前日に行われた競技だった。ゴールした瞬間は誰もが金メダルと確信していたスピードスケート女子団体追い抜きの銀メダル獲得を報道するニュースで、小平選手が長野県の相澤病院に所属していることを知った。小平選手はこの種目の銀メダルのほか、他の種目でも五位入賞するなど大活躍であった。

確かに、怪我がついてまわっているスポーツ選手にとって所属先が病院であれば、経済面だけでなく身体的・精神的にも大きな支えになることと思う。また、広告規制が厳しい医療機関にとって、全国的に広く存在を周知させることのできることも承知している。しかしながら、ある程度限定された医療圏という範囲の中で運営をしている多くの民間病院にとって、全国的に広報することを見据えてスポーツ選手を受け入れることの必要性は、あまり感じられないと思っていた。

ある時、アテネと北京で開催された夏のオリンピックに複数競技で選手を輩出した病院の先生と一緒にゴルフをしたときのことだが、オリンピック選手を養成する理由を聞いてみたことがある。その先生は、「病院というところは、男女の比率が女性が八割の職場です。その女性達が活性化するのではないかと思って始めたのです。オリンピックに出るなんて考えてもみなかったけど、四〇年近く続けていたらだんだん強くなってきましてね。オリンピックや全国大会の応援にみんなで出かけるのも楽しいですよ。」と話してくれた。

病院職員のモラールアップのために、目標管理や成果主義など工夫を凝らして導入されている病院も多くなってきていると聞くが、スポーツ選手がいるというのも良いな、と思えるようになってきた。

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