老人医療NEWS創刊号 |
本会は、昭和59年11月頃から行われた、老人の専門医療に携わる医師数名による研究会に端を発しているものです。その後、徐々に活動の輪が広がるとともに、会の設立を望む声が高まり、昭和60年5月15日、設立総会が開かれ「老人の専門医療を考える会」が正式に発足しました。
当会の目的は、会則第四条に記されているように、「今後急速に進むであろう高齢化社会の中で老人医療の果す役割と専門性を考え、我国における理想的な老人医療のあり方を追求し、全ての老人が安心して、より良い医療を受け夢れる環境を実現させる事」に会員がその力を結集させようというものです。
この目的に基づき、「どうする老人医療―これからの老人病院」というテーマで、昭和60年3月9日に、第一回めの公開シンポジウムを開催。約500名もの参加者があり、マスコミ等にも大きく取り上げられ、予想以上の反響を得ることができました。また、同年6月29日には「老人医療におけるチーム的アプローチをめざして」というテーマで第2回目を開催し、老人病院の果たす役割とその必要性についての各界のコンセンサスを得ることに成功しました。
さらに、医療を取り巻く情勢、行政サイドの動行をいち早くキャッチ、それらの分析を兼ねた各種の報告会、老人医療に携わる者の教育・研修会等も行い、老人医療、看護の質的向上、均一化にも務めてきました。
こういった活動に加えて、会員の方々も、それぞれの立場で、地域における医療活動を通して、地域住民等の老人医療への理解を深めていく啓蒙活動を行うとともに、自らの考え、体験等の発表といった広報活動を幅広く展開してきました。
当会を中心としたこのような努力は、少しづつではありますが確実に評価されつつあり、老人病院に対するイメージも変わり、老人専門病院の必要性も理解されつつあると思われます。
しかしながら、未だに医療従事者の中にも、正しい老人医療への認識に乏しい人も多く、制度上での老人病院の位置づけも確立されているとはいい難い現状でもあります。
したがって、今後、我われが行わなければならないことは、日常の老人医療の実践活動の中から、さらにその専門性を追求していくことと、活動の輪をさらに大きく広げる努力を行うことでしょう。それが、我国における老人医療の位置づけ、向上に寄与していくものと信じています。
その意味において、当会の果たすべき役割と責任は非常に大きいものとなるでしょうし、会員全員が身を引きしめて事に当たると同時に、各界の諸先生方のご助言、ご指導をいただきつつ、さらに努力していきたいと考えます。
折りたたむ...結核療養所としてスタート
当武久病院は、山口県下関市武久町二丁目五十三番八号に所在し、医療法人社団青寿会に属する388床の特例許可老人病院です。関連怯人施設として隣接地に、社会福祉法人祥寿園に属する特別養護老人ホーム「寿輝荘」(130床)および軽費老人ホーム「福緯苑」(100床)があり、また、財団法人「山口老年医学総合研究所」および公益信託「頴原老年病学研究者奨学基金」があります。これ等病院と関連施設の立地条件としては、下関市の中心部から車で約10分位の所で写真でおわかりの通り、海に近い恵まれた所にあります。
ここで病院の沿革についてふれてみますと、昭和30年8月1日、当時下関市彦島で婦人科を開業しておりました父頴原俊一が、結核療養所として当地に武久病院を開設したことに始まります。当時、低所得者層の間には、未治療のまま放置された結核患者が多数あり、療養施設およびベッドの不足は、かなり深刻であったようで、見かねた父は、当時の海水浴場娯楽施設を買い取って、30床の病院に改修したそうです。当時のエピソードとして、病院は海岸までほんの10メートルの所にあるのですが、当時下関市内では有数の海水水浴場であった武久海岸に、サナトリウムを作るということで、ずいぶん茶屋組合その他地元の反対があったようです。最後は「もし武久病院開設後に海水浴客が減ったら病院を閉鎖する」との一札を入れて開院に踏み切ったそうで、たまたまその年は、大変気候が良く、例年にも増して海水浴客が多く、事なきを得たとのことでした。
「何とかしなければ」が推進のエネルギーに
さて、開院後は徐々に病床を増床してまいりまして、運営も安定し、一段落ついたと思った頃には、結核患者が徐々に減少して来て、昭和40年頃を転機に漸次ねたきり老人の数が増えて来ております。これは一つは自然の流れとして、また一つは意図的に行われたわけですが・・・。つまり、昭和30年代の終りから四十年代の初めは、いわゆる急成長時代のきざしとでも言いましょうか、それに伴う核家族化も急速に具現化して来た頃で、世の中の”弱者””恵まれない者”に目を向ける医療従事者には、当然のように「結核の次はねたきり老人だ」と思わせるものがあったと思われます。
当時、父が良く口に出したエピソードに、「患者の家に往診に行くと、家族は誰もいなくて、ねたきりのおじいちゃんが、ポツンとふとんにねていて、おむつはあてているものの、大小便は、たれ流しの状態で、枕もとに握りめし2つに、やかんに水が入れてあった」「これは何とかしなけれぱ!」
この思いが武久病院の歴史の背景であり、推進のエネルギーであったと思われます。病院の運営は決して楽なはずはなく、開院当初の30床から388床の現在まで、実に10回に及ぶ増床を行っていることを見ても、病院の牛歩の如き発展ぶりがおわかりかと思います。
以上が病院の小史でありますが、昭和51年6月1日には特別養護老人ホーム「寿悔荘」を、また昭和53年4月5日には、軽費老人ホーム「福海苑」を開設し、昭和59年3月6日には「財団法人山口老年医学総合研究所を、同年3月27日には「公益信託頴原老年病学研究者奨学基金」を設立いたしました。研究所での現在のテーマは、地域を限定しての老人の実態調査、および研究部門では脂質分析による動脈硬化の研究や、リンパ球の貪食能による免疫の研究等を行っています。将来的には症例を重ね、老人の各検査値の正常域の設定等の研究や、老人性痴呆の研究も行って見たいと思っています。
充実したスタッフと施設
病院のスタッフは表の通りです。当院は、全棟特例許可病棟ですが、基準看護一類を施行しておりますので、付添等はつけていません。また、全室四人部屋で、差額ベッドの徴収は行っておりません。また、おむつ等を使用している方については、実費として頂いている他は、一切の個人負担は頂いておりません。設備的な特徴としては、全室避難用路を兼ねたバルコニー付であること。リハビリは、施設基準を採っていること。一部ADLの比較的良い人向けに、室内水洗トイレの設備があること(15室)。ねたきりの方のための特殊浴槽があること等があります。
ここに表を作る
次に患者さんの実態ですが、表(PDF参照)のようになっており、ねたきりの方が約300名、そのうち約200名が、全面介助を要する方です。約90名の方が歩行可能ですが、杖その他の補助器具を要する方が70名を越します。おむつを使用している方は、230名ほど。看護レベルで常時監視を要する程度の重症者は、約70名位です。注射は急性疾患に対し30名位、慢性疾患に対し40名位に対して行っております。複雑なリハビリを行っている人36名、簡単なリハビリを行っている人、14名、他に点数請求を行っていないが、集団で行うリハビリを受けている人が130名位います。
また、いわゆるボケ老人は、大声で喚いたり、徘徊したりする高度な方が四五名位、軽度、中等度の方が140名位おられます。当院に入院される方は、ほぼ100パーセント下関在住の開業医か、または、国公立の病院からの紹介で、県内在住の方が殆んどで、そのうち90パーセント以上が下関市内の方です。以上、当院の実状をありのまま綴ってみました。
昨今の医療情勢は、正に激動いたしております。薄暗い闇に眼をこらして先を読む慧眼こそ欲するところではありますが、元より愚鈍な小生のこと、諸先生のお力を借りて、理想とすべき「良き老人医療」への道を探りたいと思っております。
折りたたむ...老人病院の最大関心事のひとつが、老人保健施設の動向である。特に、老人保健施設制度発足後の特例許可病院制度の取り扱いや、老人保健施設療養費の料金体系に強い関心が集まっている。
制度化については、国会解散、同日選挙で、老人保健法改正法案が成立しなかったため、秋の臨時国会で再度検討されることになっている。しかし、臨時国会は、国鉄関連法案で難航が予想され、さらに総裁選と首班指名で国会が空白となるため、今年中に老健法案が成立しないことも考えられる。それゆえ、老人保健施設の制度化とモデル事業の実施については、流動的要素も少なくない。
しかし、6月6日に閣議決定された「長寿社会対策大網」や、大網決定前の4月8日に厚生省が発表した「高齢者対策企画推進本部報告」を読むかぎり、老人保健施設制度化に対する政府の意気込みは、かなりのものがある。特に、企画本部報告は、制度化の主張とともに、計画的整備を推進することを明らかにしており、さらに「制度化された後には、その実施状況を踏まえて、高齢者の入所施設体系をさらに検討する」となっている。この報告を読むかぎり、当面老人病院制度は現行のままでも、いずれは老人保健施設制度に包括化されることになると予想される。
このことは「老人病院を老人専門病院へ」という、当会の主張と対立することになる。しかし、老人の入院治療ニーズの増大に対して、社会的使命を担う老人病院が単なる反対論を展開することにも問題がある。今後は、老人保健施設の検討を、日常老人医療を実践している我々の側からも行い、当会の団結を強化し社会的にアピールして行くことが必要である。そのうえで 老人保健施設を安上りの「老人収容施設」にしてしまおうとする考え方について反対していきたい。
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