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老人医療NEWS第51号

回復期リハ病棟は救世主か

介護保険制度と医療保険制度は、法律上も実態上も、まったく別の独立した制度である。しかし、老人ケアやリハビリテーションの見地からみれば、同一の高齢者に対する連続的で相互に代替可能な部分を有するものである。しかも、保険料や一部負担の考え方などについては、いずれ整合性を確保したものにならざるをえないし、どちらが有利かどうかの議論は、一時的であり本質的なものになるわけもない。

医療保険か介護保険かの選択を病院が検討する場合、医療保険から回復期リハビリテーション病棟への転換という、もうひとつの選択肢がある。今回の診療報酬改定で「回復期リハビリテーション病棟入院科」(以下、リハ病棟とする)が新設された。この点数は1日につき1,700点(17,000円)が算定できるというもので、その施設基準はおおむね療養型病床群の完全型の基準を満たした上に、リハビリテーション科を標榜しており、病棟に専従の医師1名以上、理学療法士2名以上および作業療法士1名以上の常勤配置を行うものであり、患者対看護職員3対1以上と、看護補助者6対1以上の配置が必要である。

入院可能な患者は、脳血管疾患や骨折等の発症後3ヶ月以内の状態で、入院後180日間算定できるというものである。

17,000円という金額は、31日間で527,000円となり、介護施設の報酬より高い。医師と理学療法士、作業療法士が確保でき、3対1以上の看護配置が可能な療養型病床群を有する病院には、なんとも有利な制度である。しかし、その一方で発症後3ヶ月以内の患者を確保することや6ヶ月以内に回復をめざすことという条件をクリアするためには、多くの努力を必要とする。

それでも、このリハ病棟をめざす病院は少なくないし、このような病棟の報酬は、当然、医療保険で対応する性格のものである。

療養型病床群が、医療保険でも介護保険でも適用可能であるということ自体を考えてみると、医療からの介護とか介護の中での医療という分野が実態として存在していると考えることもできる。たとえば、医療保険適用が医療からの介護であり、介護保険は介護の中の医療であると説明することができればよいが、このようなことは無理であろう。しかし、リハ病棟と介護保険適用とは、医療の濃度という観点からみれば、明らかに医療保険であろう。

このように考えてみると、老人ケアを先駆的に実践してきた病院の医師の多くがリハ病棟をめざす理由が明確になるように思う。一方では、介護保険施設の3種型の一本化や一体化が議論される渦中あって、リハ病棟はひとつの方向性であろう。発症から3ヶ月、そして入院から6ヶ月という規定は、医療と介護を区分する、ひとつの目安となるであろう。また、介護老人福祉施設と老健施設に新設された50対1のリハビリテーション職員配置と、まったくこのような職員を配置しない介護療養型医療施設の相違とは何か、介護分野と医療分野のリハビリテーションをどのように考えれば良いのかなど、リハ病棟の波紋は、今後とも増幅すると考えられる。

もうひとつの議論は、回復期リハ病棟は、老人の専門医療にとって救世主かどうかということである。当会では、回復期リハと維持期リハがあり、どちらも重要だと考えてきた。問題になるのは、回復期リハと維持期リハの連携であり、何よりも高齢者の社会復帰と生活の質の向上である。このように考えると、維持期リハの必要性とその効果を科学的に実証することが求められるとともに回復期リハと維持期リハの連携の方策について一層検討する必要があろう。 (12/11)
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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE